第6話
目的の町イーザンは中核都市から辺境都市へ至る街道沿いにある宿場町である。東側に山が西側に川が流れており、特に何かしらの特産があるわけではなく、都市から都市へ通りすぎるのみの町である。
そんな宿場町に突如としてダンジョンが出現したのである。
ダンジョン出現の一報を受け冒険者ギルドはBランクの『光り剣』のグループに調査の依頼をしたが1階層を10メルも進めず調査を断念したのだ。
その理由が氷属性の魔物がダンジョン内に
そのため今回のダンジョン調査には今にも外にあふれそうな魔物の即時殲滅とダンジョン内の構造確認が最優先に上げられた。そして、魔力と攻撃力の高いカイルとレアスキル『マップ機能』を持っているシェリーが選ばれた。
普通ならレアスキルは秘匿とされ本人しか知り得ないのだが、幼い頃にシェリーが『マップ機能使えば楽なのに』と公言してしまった為に知られてしまった。
シェリーはマップ機能を皆が使えると勘違いした発言だったようだ。
日が暮れた雨の中、目的の町に着いた二人は早速今晩泊まる宿を探しているのだが、どこも満室で空きがないのだ。
なんでもここ数日雨が続き足止めをされている人が多いらしい。しかも酷いときは雪まで降るという。今の季節は夏季にあたるので雪が降ることはまずない。これもダンジョンの影響なのだろうか。
宿場町として栄えているイーザンはそこそこ宿の数も存在するというのにもう10件近く断られている。
シェリーの目の前にある次の宿候補は町の外れにある小さなところだ。満室かもしれないが片っ端から確認しなければ雨の中で野宿することになってしまう。それは避けたいところだ。
「一人部屋が2つ?二人部屋が1つなら空いてるよ」
恰幅のよい宿の女将が答える。
「それでいいです」
シェリーは疲れていた。朝から休憩なしに飛び続け、雨に打たれ体力が消耗していた。横になれればザコ寝でもよかった。
「あんたたちよかったね。最後の一部屋だったんだよ。食事はどうするんだい?食堂に行けばすぐ用意するよ」
「じゃ、夕食お願いしようかな」
隣の能天気な声にシェリーはイラつく。シェリーと比べてカイルには疲れがみられない、人族と竜人族との体力を比較してもバカらしい程に無駄なんだが余裕綽々の姿にイラついてしまう。
食事は普通においしかった。夏なのに熱いスープが出されたのはありがたく、雨に打たれて冷えた体が温まった。
食事を終えた2人は2階の一番端の部屋を指定され、部屋の中を確認すると、シンプルに机と椅子とベットが2台、壁に備え付けの外套掛があるぐらいだった。
シェリーはベットに座り雨で濡れた外套を魔法で水分をとばして乾かしながら考え込んでしまい窓を弾く雨音も耳に入らない。
「ーーー。ーー。ーシェリー聞いてる?」
どうやらカイルに話しかけられていた。
「全く聞いていません」
「はあ。シェリーはこの雨をどう思う?」
「雨ですね」
「雪が降るという話はどう?」
「実際に見ていないのでわかりません」
「ダンジョンと関係あると思う?」
「…黙秘します」
「へぇー。シェリーは何か情報を知っているんだ。それは何?」
シェリーは無言を通す。
その時"ピロリン"と突然この世界では聞くことがない電子音が響いた。
シェリーはすぐさま腰に付けてある鞄に手を突っ込み目的のものを取り出しす。
「ルーちゃんからのお手紙だ。えへへ」
さっきまでの無表情から一転、シェリーは満面の笑みを浮かべていた。先ほどまで会話をしていたカイルの存在を忘れ、鼻歌を歌いながら上機嫌で手紙を読み出したのであった。
[姉さん無事目的地まで着きましたか?カイルさんときちんと話し合って仲良くしてください。喧嘩したままで依頼を受けて姉さんが怪我でもしたら、僕は悲しいです。無事に元気な姿で帰って来てくれることを祈ってます。ルークより]
「ルーちゃんが尊い」
ちなみにルークがシェリーに手紙を出したのはニールに頼まれて書いたのである。さすがのニールも仲違いしたままダンジョン調査は危ういと思ったからだ。しかし、シェリーはそんなことは知らないので姉思いのなんていい子だと思っている。いや、ニールに書かされたと知ってもシェリーのその思いは変わらないだろう。
シェリーはニコニコ顔から瞬時に真顔になってカイルに振り向く。
「ルーちゃんから仲良くするように言われましたから答えますが、ダンジョンがあるから雨が降るのではなく、根本的要因があるからダンジョンが出現し雨が降る。根本的要因を取り除かなければ解決しません」
「ルークの言葉は素直に受け取るんだね。それで根本的要因ってのはなに?」
ルーク本人がいなくても、弟のことになるとシェリーの態度が変わることは最早冒険者ギルド出入りしている者達にとっては常識である。それぐらいでは驚きはしない。
「そんなの調べないとわからないです。20年ほど前に倒されてという魔王か復活したとかでもいいです」
「ルーク以外のことになると、どうでもよくなるのは直らないのかな。これも番ができれば直るのか?」
そう逆に言えば弟のルークのこと以外には関心がない。そして、シェリーはカイルの言葉に目がすわった。
「ツガイ。そんなものわたしには必要ないです」
シェリーの目はしっかりとカイルを捉え睨み付けていた。番というものが悪であるかのように。
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