第3話:鬼ごっこ

 朝の澄んだ空気の中ーー。


 登校した僕は教室に入り、ランドセルの中身を机の中にしまっていると、翼と拓は今朝の高揚感こうようかんから未だ抜け出せていないようで、早速僕の元へとやって来た。



「おい、エイゾー。今日の夜も、俺達も行くからな。放課後、もっと快適な旅ができるよう、作戦会議をしようぜ」


「僕は別に構わないけど。でも、今更だけど、また夜中に家を抜け出して大丈夫?」



 今朝、過去の世界を救おうと誓ったばかりではあったものの。僕とは違って、真夜中に家を抜け出して来ないといけない翼と拓にはリスクがある。


 けれど。



「なあに、平気、平気。俺を誰だと思っているんだよ。その辺は上手くやるからさ。ライトだ、ライト!」



 翼は白い歯を出して、にひひと得意気に笑う。


 翼ってば、すっかり調子に乗っちゃって。本当に大丈夫かなあと心配していると、僕等の元に人影が近付き。



「ねえ、アンタ達。なんの話をしているの?」


「げっ、芳子だ」


「夜中とかなんとか言っていたけど、なにかするの?」



 振り向くと、そこには芳子が立っていた。芳子は、じろじろと僕達の顔を眺め回している。


 僕等三人は、顔を寄せ合って小さな輪を作り。



「どうする?」


「言わない方がいいんじゃない? 女の子には危険だと思うし」



 拓が小声でそう言うも、どうやら芳子にも聞こえたようで。芳子は、むっと眉間にしわを寄せさせ。



「ねえ。今、女だからって言ったでしょう?」


「え? いや、それは、その……」


「ちょっと。そういうの、男尊女卑だんそんじょひって言うのよ。アンタ達、考え方が古いわよ。今は男女平等の時代なんだからね」



 芳子は拓に狙いを定めると、ぐちぐちと小言を言い出す。こうなった芳子はしつこい。なんせ相手を認めさせるまで続けられるのだから。



「大体、このアタシを除け者にするなんて。アンタ達、百年早いわよ!」



 芳子は腰に手を当て、偉そうに言い放つ。すると、翼が僕の耳に顔を寄せさせ。



「そもそも芳子を女扱いしたのが間違っていたんだよ」


「ちょっと。翼、なにか言った?」


「いえ、なにも」



 芳子ににらまれ、翼は即座に否定する。


 これはもう芳子にも、過去の世界での冒険のことを話さなければいけないなと。そう思っていると、もう一つ、僕等の元に人影が近付き。



「おい。お前等、真面目に秘密基地を探しているのか?」



 芳子の次は、いつもと変わらない仏頂面をさせた莉裕也がやって来た。



「秘密基地? ああ……。悪いが俺達、忙しくてさ。秘密基地所じゃないんだよな」


「なにが忙しいだ。年中暇人のくせに」


「誰が暇人だ! 俺達はな、過去の世界を救おうと日々奮闘しているのだよ」



 翼ってば、日々奮闘なんて。昨日始めたばかりなのに。それに……。



「はあ、過去の世界だと? なにをバカなことを言っているんだ」



 やはり莉裕也は、思い切り怪訝けげんな顔をする。まあ、現実主義者で頭の固い莉裕也らしい反応だ。


 しかし、莉裕也の態度に、翼はすっかり腹を立てており。



「誰がバカだ! 大体、そういう坊ちゃまだって、代わりの秘密基地、まだ見つけていないんだろう?」


「だから探しているんだろうが。それなのに、お前等はさぼりやがって」


「だーかーらー。俺達は世界平和のために忙しいんだよ。今日の放課後だって、エイゾー達と作戦会議をする予定があるんだから」


「うそを吐くなら、もっとまともなうそを吐け」


「うそじゃないって! だったら莉裕也も来いよ。それとも、怖がりの坊ちゃまには、大冒険はむずかしいかー」



 刹那、ぴしりと莉裕也のかき上げられた前髪によって開かれている額に、大きな青筋が浮かび上がり。



「なんだと。誰が怖がりだって……?」



 さらには、じろりとただでさえ鋭い瞳を細く研ぎ澄まさせ。続けて、

「俺も行ってやる!」

と、声を荒げさせる。



「それじゃあ今日の夜、エイゾーの家に集合だからな。怖いなら無理して来なくても良いからな、莉裕也坊ちゃま」


「誰が怖いと言った!」



「絶対に行くから待っていろ」と、莉裕也は翼に釘を刺すよう言い放った。






✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 時が過ぎ、満月が我が物顔で頭上高く輝いている中。いつもの時刻になるとーー。


 コンコンと、窓を叩く小さな音が鳴った。僕は音を立てないよう、そっとカーテンを開けると、約束通り、今日は翼と拓に加え、芳子と莉裕也も一緒だ。


 僕は四人を引き連れて、押し入れへと案内する。



「へえ。エイゾーの部屋に押し入れなんてあったんだ」


「うん。僕もついこの間、知ったばかりなんだ」


「おい。こんなカビ臭くて狭い部屋に入ったりして、なにをするつもりだよ」



 ぶつぶつと文句をこぼす莉裕也をよそに、僕は第一の宝珠を取り出すと、宝珠はいつもの要領で瞬き出し、そして。一瞬の内に、黒いもやの塊が出現する。


 その光景に、芳子と莉裕也の瞳は大きく見開いていき。



「なっ……、なんだ、これは……!?」


「なにこれ、すごーい。これって、エイゾーの新しい発明?」



 驚きを隠せないでいる二人に、翼は、 

「ふっ、ふっ、ふっ……!」

と、奇妙な笑い声を上げ。



「二人とも、驚くのはまだ早いぜ。これからもっとすごくなるんだからな」



「さっさと行こうぜ」と翼に急かされながら、僕等は一列になって、もやの中を進んで行く。


 が、その最中。


「ねえ。本当に大丈夫なの?」

と、芳子がめずらしく弱音を吐いている。しかし、僕等が返答するよりも早く、前方が急に明るくなり出し、そしてーー。



「……イゾー、ちょっと、エイゾー! 起きてってば!!」



 僕は芳子に強く肩を揺すられて目を覚ました。芳子は少し怖がっているようで、僕にしがみ付き。



「なあに、ここ。アタシ達、さっきまでエイゾーの部屋の押し入れの中にいたはずよね」



 困惑顔で、きょろきょろと辺りを見回している。


 そんな芳子の隣で、すでに目を覚ましていた莉裕也も、呆然とした表情を浮かばせたまま微動だにしない。


 すると、翼と拓も次第に起き出し。 



「なっ、言った通りだろう?」



 すっかり放心状態の二人に、翼はすっかり得意そうだ。自分だって、始めは全然僕の話を信じてくれなかったくせに。


 調子のいい翼の声がうるさかったのか、傍らで犬彦と一緒に寝ていた三平も目を覚まし。



「なんだ、エイゾー達か……って、あれ。また増えてるや」


「きゃっ!? だっ、誰!?」


「芳子ってば、驚き過ぎだよ。昼間、話したじゃん。一緒に旅をしている三平だよ」


「あっ、そうだったわね。ごめんなさい、ついびっくりしちゃって。

 アタシは和山かずやま芳子。初めまして」


「俺は有光ありこう莉裕也だ」



 莉裕也がぶっきら棒に言い放つと、三平の隣で寝ていた犬彦も、ぬっと起き上がり。


「やれやれ。また騒がしくなったのう」

と、ぐちをこぼした。



「うおっ!? なんだ、この犬!」


「ちょっと。この犬、今、喋らなかった!?」



 やはり二人も犬彦に対して、僕等と同じような反応をした。その様子に、三平だけではなく、翼も一緒になって笑っている。


 いくら説明しても、芳子はなかなか信じられないのか、じーっと犬彦のことを見つめており。


「本当に犬なの? どこかにマイクでも付いていて、誰かが代わりに喋っているんじゃないの?」

と、なかなか疑いの目を止めなかった。 


 そんな芳子をよそに僕等は社から出ると、第三の宝珠から放たれた光の方角へ、列なって歩き始める。


 光の先には、小さな洞窟があり。中に入ると、

「うわあ。暗いね」


 そんなに大きな洞窟ではなさそうだけど、進んで行くと、次第に光が届かなくなってきた。昼間なのに、辺りはすっかり暗くなる。



「こんな時は、やっぱりこれだよね」



 僕はリュックサックの中からあるものを取り出して、そして。



「うわっ!? なっ、なんだ、なんだ、この光の帯は!?」


「これは、懐中電灯だよ」


「かいちゅーでんとう? これもエイゾーが作ったのか?」


「ううん、違うよ。懐中電灯は、イギリスのデヴィッド・ミゼルが発明したんだよ」


「いぎりす? でゔぃっど? よく分からないけど、光を操ることができるなんて……!」



「すごいな」と、三平は目を燦爛さんらんと輝かせる。


 引き続き、懐中電灯の明かりを頼りに進んでいく中、不意に拓が口を開き。 



「あのさ、思ったんだけど。この世界って、弥生時代辺りだと僕は思うんだよね」


「弥生時代?」


「うん、正確な年数までは分からないけど。昨日訪れた村の家、あれは竪穴式住居だと思う。竪穴式住居は、縄文時代から弥生時代に主に使われていた住居様式らしいんだ。

 それから、この世界を支配している姫御子って、実は卑弥呼のことなんじゃないかなって」


「卑弥呼だって? ……って、卑弥呼って誰だ?」



 勉強が苦手な翼は、ぐにゃりと眉を大きく曲げさせる。やはり、続けて拓が説明をする。



「卑弥呼っていうのは、日本で最初の女王になった人のことだよ。二、三世紀頃、つまりは弥生時代の邪馬台国という国の女王で。当時の正確な発音は不明だから、もしかしたら本当は、“ひみこ”という名前じゃなくて、“ひめこ”とか“ひめみこ”であった可能性もあるんだって。

 それに、卑弥呼はシャーマンだったんじゃないかともいわれているんだ」


「シャーマンってなんだよ?」


「シャーマンっていうのは、神様や精霊の力を借りて、予言や祭儀を行う呪術師のことだよ。魔女って言えば分かりやすいかな。卑弥呼はその不思議な力を使って国を治めていたらしいんだ」


「俺は卑弥呼とかいうやつのことは知らないが、確かに姫御子とよく似ているな」


「俺もよく分からないけど、拓が言うならそうなんだろうな」



 僕等の中で一番勉強ができる拓のいうことだ。三平や翼だけでなく、僕等もすんなり彼の意見に納得する。少しだけど、敵の素性が分かった気がして。僕等の間にまた一つ、希望のようなものが見い出されたような気がした。


 そんな話をしている間にも無事に洞窟を抜け。それからまたしばらく歩き続けていると、小さな村が見えてきた。


 僕等はそのまま真っ直ぐ進んで行き、村の中に入るけれど。まだ日中にも関わらず村はしんと静まり返っており、人一人見当たらない。どこの家も固く扉が閉ざされており、なんだか変わった様子である。



「どうしたんだろう、なんだか変だね」



 みんな足を止め、村の様子を観察していると、ふと後方から、

「お前さん達、こんな所でなにをしているんだい」

と、しわがれた声がかかった。振り向くと、そこには長い木の棒を杖代わりに手にしている白髪頭のおじいさんが立っていた。



「どこの村の子かい? ……ん? 随分と変わった格好をしているね。遠くの村から来たのかい? とにかくここは危ないから、取りあえず儂の家に来なさい」



 僕等は迷ったものの、おじいさんの様子からただごとではないと判断すると、おじいさんの後について行った。


 おじいさんの家は村の中でも一番大きく、おそらく村長なのだろう。僕等はおじいさんの前に、横一列に並んで座った。


 おじいさんは、ゆっくりと口を開き。



「それで、お前さん達は、どうしてあんな所にいたんだい?」


「アタシ達、旅をしているんです。探しものをしていて。その旅の途中、たまたまこの村を通りかかったんです」


「そうじゃったのか。しかし、今日はもうこれ以上進むのはお止めなさい」


「えっ。どうしてですか?」


「実はな、姫御子様からお告げがあったのじゃ。数日前、この村に姫御子様の使者だという若者がやって来ての。

 この村の近くの森には沼があってな。そこには竜神様が棲みついておるんじゃが、その竜神様が、どうやらお怒りのようなのじゃ。儂等が長年の間、竜神様をないがしろにしていたからかのう。竜神様の怒りを鎮めるためには、作物と共に若い娘を捧げよと。さもないと近くの川を氾濫はんらんさせ、この村は沈められてしまうそうだ」


「そうだったんですね。でも、だからって、どうして村の人達が全然見当たらないんですか?」


「それが竜神様の姿を見ようとするものは、竜神様に食われてしまうそうなのじゃ。それで儀式が終わるまでは外には出ず、おとなしく家の中にいるよう言われていての」



 おじいさんは話が終わると、深い息を吐き出した。それから、今日の晩がその竜神様へ捧げものを献上する儀式が行われる日だそうで、このまま泊まっていくよう、すすめてくれた。



「さてと。儂は儀式の準備があるから席を外させてもらうが、お前さん達はゆっくりしていなさい」



 おじいさんが立ち上がると、丁度おじいさんを呼びに来たのか、僕等と同じ年頃の女の子が傍へと寄って来た。三平が着ている着物と同じような、簡素な白い着物をまとい、さらに白い布を頭からすっぽりとかぶっている。



「儂の孫娘じゃ。とは言っても、今日でお別れじゃがな」



 おじいさんは寂しそうな顔をして、孫娘に手を引かれながらその場を後にする。


 その背中を見送りながら、芳子も表情を曇らせ。



「あの子が生贄にされちゃうの?」


「ひどい話だな、生贄なんて!」


「昔からよくある話だよ、生贄は。竜は水を司る神様として、日本の各地でまつられているしね」



 確かに拓の言う通り、この時代では、生贄は然程めずらしくはないのだろう。だけど、僕達と同じ年くらいの子が命を捧げないとならないなんて。考えただけで、なんだか胸の辺りがぎゅっと痛んだ。



「でも、竜なんて本当にいるのかしら? ねえ、拓」


「それは僕には分からないよ。もしかしたら昔は本当にいたのかもしれないし、今でも僕等の前に姿を現さないだけで、どこかでひっそり暮らしているかもしれないし」


「けどさあ。だからってこのまま、あの子一人が犠牲になってもいいのかよ?」



 やはり正義感の強い翼が、真っ先に異を唱える。今まで黙っていた莉裕也も、むすっと仏頂面をさせており。



「俺も気にくわねえな」


「ああ。もしかしたらその竜は、姫御子の命令で動いているかもしれないぞ」



 三平も固く閉ざしていた口を動かした。


 みんなの意見は、いつの間にか一つへとまとまっており。



「それじゃあ、早速竜を退治しに行こうぜ! 確か近くの沼に棲んでいるって言っていたよな」



 今にもその場から飛び出しそうな翼を、拓が、「待って!」と、とっさに引き止め。



「……僕に考えがあるんだ」



 静かにそう告げた。






✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 すっかり日は暮れ、星々のほのかな明かりだけが頼りの中。僕達は村の近くの沼の周辺の、茂みの中へと身を隠していた。


 沼の奥には洞窟があり、その中に竜神様がまつられているほこらがあるらしい。生贄の少女と捧げものの作物は、その祠の前に献上されるそうで。村人が数人、少女と捧げものを乗せた小舟を漕いで、ゆっくりと洞窟の中へと入って行った。


 数十分後、すっかり空になった小舟が、岸の方へと戻って行き。水音一つ聞こえなくなり、辺りは一層と静かになる。


 そんな中、僕の手の中のモニターに示された赤い点が、ちかちかと移動し出し。



「みんな。拓が動いたよ」


「よし、行くぞ!」



 僕等も木陰に隠していた小舟に飛び乗り、それを漕いで洞窟の中へと入って行く。


 洞窟の中は湿っぽく薄暗かったが、懐中電灯の明かりで足元を照らして進んで行く。すると、話に聞いていた通り、小さな祠が現れた。だが、先程村の人達が捧げたはずの作物も、生贄の少女の姿もどこにも見当たらず。



「おい、エイゾー。拓はどこに行ったんだ? この洞窟は一方通行だったのに、すれ違わなかったぞ。一体どうなっているんだよ」


「ちょっと待って。拓は、あっちの方に移動しているみたい」


「あっちって……」



 翼は、僕が指差した方に顔を向けるけれど。



「行き止まりだぞ?」 


「でも、拓に付けた発信機は、あっちの方に移動し続けているんだ」


「ねえ。この壁の向こうから、風の音がしない?」



 芳子に言われ、三平が壁を調べると、なんと壁が横に動いた。その先には、道がつながっており。



「へえ、隠し扉かしら」


「拓は、ここの道を通って行ったんだな。よし、早く追いかけるぞ!」



 真っ先に飛び出した翼の後に、僕達も続く。すると、前の方から、どたどたと複数の足音が聞こえ。



「たくー、助けに来たぞー!」


「みんなー!」


「くらえっ、天誅てんちゅうーー!」


「うわっ。なんだ、こいつ等……、うげっ!?」



 翼の突きが、後方にいた男に見事命中した。男が倒れると、彼が抱えていた作物がごろごろと辺りに転がり落ちる。


 すると、周りの男達も異変に気付いたのか、急に立ち止まり、そして。



「おい、この娘がどうなってもいいのか!?」



 拓を脇に抱えていた男が、拓の首元に槍の先を当てる。まるで時間が止まってしまったかのように、その場がぴたりと静止し。しばらくの間、その状態が維持され続けた。


 がーー。


 拓を抱えていた男の足が、わずかながら動いた瞬間。刹那、パンーーッ! と弾ける音に続き、男の、「うっ!?」と、口ごもる音が響き渡る。それから続け様に、パン、パン、パンッ! と何発もの破裂音が奏でられ。拓を捕らえていた男は苦渋の表情を浮かばせ、持っていたはずの武器はいずこへ。それから脇に抱えられていた拓も、男の腕の中から解放されていた。


 男は、どさりと地面へと転がり落ち。びくびくと、全身をけいれんさせる。


 その間に、僕等の方へと逃げて来た拓を無事保護するや、翼を筆頭に勢力を取り戻し。



「よし、みなの者! 今だ、かかれーっ!!」



 翼の剣術に、三平の弓術。莉裕也の射術に、それから芳子の護身術も炸裂さくれつし。男達はただおろおろと、すっかりその場を逃げ惑う。


 見る見る内に、敵の陣形は呆気なく崩れ。あとは、あっという間。一人残らず縄で縛り上げた。


 芳子は両手を腰に当て、男達をじろじろと眺めて。



「やっぱり拓の言った通り、竜神様のたたりなんてうそだったのね!」


「姫御子の名前を語って、本当は作物を奪ったり、女の子をさらったりしていたなんて。なんてやつ等だ!」



 芳子はさらに眉をつり上げて、男達をにらみつける。その隣では、翼もそろって怒声を上げている。


 無事にことが解決したと、ほっと一息ついていると、莉裕也が寄って来て。



「おい、エイゾー。この電撃弾、思っていたより威力が弱いぞ。もっと電力を上げてくれ」


「えっ、本当? でも、あまり電力が強いと危ないんだけどなあ……。

 分かった、ちょっと改良してみるよ」


「エイゾーの発明もすごいけど、莉裕也のそのピストル? とかいう武器の腕もすごいな」


「莉裕也はビームライフル射撃の名人なんだよ」


「へえ。よく分からないけど、とにかくすごいんだな。それに、拓も。

 今回は拓の作戦のおかげでうまくいったもんな。お前、本当に頭がいいんだな」


「ああ、そうだぜ。なんせ拓は、俺達の中で一番賢いもんな。

 それにしても拓ちゃん、その格好、よく似合っているぞ」


「翼ってば、からかうのは止めてよ。僕だって、好きでこんな格好している訳じゃないんだから」



 翼にからかわれ、真っ白な着物に身を包んだ拓は、真っ赤な顔で反論する。



「だって、仕方ないじゃないか。女の子に危険な役をさせる訳にはいかないだろう。言い出したのも僕だし。それに、もし竜が本物だったら、こう簡単には解決しなかっただろうしさ」


「女顔の拓でないと、直ぐあの詐欺師達に偽者の生贄だってバレていただろうしな」


「もう! だから、それは言わないでって言ってるじゃん!」



 拓の顔はますます赤くなり、ぷくうと頬も膨らんでいった。


 けれど。



「あっ、そうだ。すっかり忘れてた。他にも吉報があるんだ」



 拓は先程までの立腹顔から一変。にこりと笑みを浮かべさせると、がさごそと懐をあさり、そして。なにかを取り出して見せ……。



「あっ……、あーっ!? 宝珠じゃないか!

 おい、拓。この珠、どうしたんだよ」



「祠の中にあったのを見つけたんだ。つい持って来ちゃった」



 三平に向け、拓は茶目っぽく、小さく舌を出して見せた。 



「やったな! 四個目の宝珠、ゲットだぜ」


「ああ。これで残りは四個、半分だ!」



 僕達は顔を見合わせると、大声で笑い合った。

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