第2話:不思議なお話

 目覚ましのベルが鳴り響きーー。


 僕は布団から出ると直ぐにまた押し入れの中に入ったけれど、例の黒いもやは、やはりどこにも見当たらなかった。


 昨日の……、いや、今朝と言った方が適切だろう。あの一連の出来事は、全部夢だったのだろうか? それとも……。


 考えたいことは山ほどあったが、それでも今日も学校がある。行かなければならない。


 僕は身支度を整えると、いつも通り、お馴染みのメンバーである翼達と一緒に学校に行って。いつも通り授業を受け、いつも通り給食も食べた。けれど。


 僕はやっぱり全然授業に集中できず。分かっているのに、今朝の余韻がちっとも消えてはくれなかった。


 家に帰ったらもう一度、押し入れを調べてみよう。それと、この宝珠のことも。もしかしたら、またあの世界とつながるかもしれない。過去の世界とこの世界とがつながるためには、なにか要因があるのかも。そう言えば、あの謎の光、夜になったら出現したんだっけ。たとえ昼間は現れなくても、夜になったら、また黒いもやが現れるかもしれない。


 そんなことを考えていると、二つの影が、すっ……と僕の頭上にかかった。その正体は、翼と拓であり。



「なあ、エイゾー。なにかあったのか?」


「えっ、なにかって? 別になにもないけど」


「うそ吐け! だってお前、今日一日、ずっとそわそわしているぞ。

 あっ、分かった! 新しい秘密基地、見つけたんだろう」


「いや、まだだけど……」


「それじゃあ、なにを隠しているんだよ。俺達の間に隠しごとはなしだろう?」



 翼は僕の肩に手を置き、ぐいぐいと詰め寄ってくる。あきらめの悪い翼から、逃れることはできそうもない。


 僕は悩んだ末、覚悟を決め。



「じ、実は……」



 僕は正直に、昨日から今朝にかけての、過去にタイムスリップした先での出来事を二人に白状した。


 けれど、翼と拓は互いの顔を見合わせ、そして。



「エイゾー……。お前、発明家でなく、小説家を目指すことにしたのか?」


「違うよ! 作り話なんかじゃない、本当のことなんだって!」


「けどなあ。過去にタイムスリップなんて。夢の話なんじゃないのか?」



 拓は翼と違ってなにも言わないけど、二人とも疑いの目を止めてはくれない。


 どうしたら信じてもらえるだろうか。おそらく、方法は一つしかなく。



「だったら、二人も一緒に行こうよ! 今日また行けるかどうかは分からないけど……。でも、また過去に行ければ、翼も拓も本当だって分かるからさ」



 つい声に力が入ってしまうと、翼はたじろぎながらも何度かうなずいてくれ。



「分かった、分かったよ。それじゃあ、放課後、お前の家に行くからさ。一緒に過去の世界とやらに連れてってくれよ」


「あっ、待って。どうしよう。夜にならないと行けないと思うんだ」


「なんで?」


「なんでって言われても、僕にも分からないよ。朝試した時はだめだったし、昨日は夜中に現れたんだ。だから」



 翼と拓はまだ僕のことを疑っているようであったが、夜中にウチに集まるよう約束を交わした。


 そして、どっぷりと日は暮れ。空はすっかり黒くなり。僕は昨日とは違ってパジャマから動きやすいTシャツに半ズボンへと着替え、スニーカーも用意し。それから、リュックサックを背負って待っているとーー。


「おーい、エイゾー。来たぞー」

と、コンコンと小さく窓を叩く音が聞こえ。カーテンを開けると、ひょいと翼と拓が顔をのぞかせた。


 僕の部屋は一階の端に位置しており、また都合のいいことに掃き出し窓があるので、二人はそこから音を立てないよう静かに入って来た。



「二人とも、大丈夫だった?」


「ああ。平気、平気。部屋の窓からこっそり抜け出して来たからさ。このくらい、ライトだぜ」


「僕も。お父さん達には気付かれていないと思うよ」


「所で、翼。その背負っている荷物はなあに?」


「ああ、これか。竹刀だよ、竹刀。冒険に武器は不可欠だろう」


「ははっ、翼らしいや。それじゃあ、早速行こうか」



 僕等は連なって、押し入れの中へと入って行く。すると、僕が手にしていた宝珠が光り出し。一段と強い瞬きの後ーー、やはり予想通り黒いもやが現れた。



「な、なんだ、これ……!?」


「これが、エイゾーの言っていた……?」


「うん、そうだよ。この中を通って行けば、僕が昨日行った過去の世界に行けると思うんだ。はぐれないよう、手をつないで行こう」



 僕を先頭に翼と拓が後へと続き。手をつないだまま一列に連なって、僕等はもやの中を進んで行く。


 すると、やはり昨日同様、急に前方から眩い光が瞬き出しーー……。



「うわあっ! な、なんだ、ここは!?」



 僕は、頓狂とんきょうな声で目を覚ました。


 彼にならって辺りを見回すと、どうやらここは僕が過去の世界から元の時代へ帰る時に入った神社の社の中であった。



「……ねっ。僕の言った通りだったでしょう?」



 そう問いかけたが、翼も拓も、まだ信じられないといった目を僕に差し向けてくる。



「これは夢か? 俺は夢を見ているのか……?

 なあ、拓。俺の頬を叩いてくれよ」



 拓は翼に言われた通り、ぱちんと軽く翼の右頬を叩いた。



「痛い……。ってことは、これは夢じゃないのか……。

 おおっ、すげえ、すげえーっ!!」



 翼は立ち上がると両手を広げ、大声を上げる。そして、社の扉を開け放ち、更に目に入って来た緑に、彼はますます興奮する。


 一方の拓も、ようやく受け入れてくれたようで。



「僕達、本当に過去にタイムスリップしたってこと? でも、一体どのくらい昔なんだろう」


「さあ。それが分からないんだ。三平に聞いても、今が西暦何年なのか知らないって言っていたし」


「三平って?」



 拓がこてんと首を傾げさせると、傍らから、のそりと一つ、影が大きく揺れ動き。



「なんだよ、うるさいなあ……って、エイゾー!? エイゾーじゃないか。どうしているんだよ。お前、元いた時代とやらに帰ったんじゃなかったのかよ」


「それが、三平に返したはずの第一の宝珠がなぜか僕の元にあって。それから、また例の黒いもやが現れたから、この世界に来られたんだよ」


「そうか。なんだかよく分からないけど、お前がいると心強いよ。

 ……あれ。エイゾー、後ろのやつ等は誰だ?」


「ああ、僕の友達だよ。この世界のことを話したら、来たいって言うから。連れて来たんだ」



 僕は三平に、翼と拓を紹介する。二人は、代わる代わる三平と握手を交わし。



「俺は今手いまて翼!」


「僕は馬本うまもと拓です。よろしく」


「ああ。二人とも、よろしく。仲間は多い方が良いからな」


「仲間? 仲間って、なんの仲間だよ?」


「翼ってば。だから話したじゃん。姫御子っていう悪いやつが、この世界を支配していて。三平はその姫御子を倒そうとしているんだよ」


「ああ、そう言えば、そうだったな。

 なあに、三平。姫御子のことは、この正義の味方・翼様に任せな! 悪者の一人や二人倒すのなんて、ライトだ、ライト!」



 翼は景気よく言うけれど、本当に分かっているのかな。なんだか心配だ。拓の方は、おそらく理解してくれているとは思うけど。



「はははっ、頼もしいよ。おっと、いけない。犬彦のことも二人に紹介しないとな。

 おい、犬彦。お前もいい加減起きろよ」


「なんじゃ、騒々しい。もう少し寝かせてくれんか」



 いつまでも寝ていた犬彦だったが、三平に起こされると、むくりと不機嫌面を起こし上げ。



「うわあっ!? 犬が喋ったぞ!」


「ど、どうして!?」



 やはり三平は僕の時と同じように、後ろに大きく飛び退った翼と拓のこともけらけらと笑った。


 犬彦の紹介も無事に終わり、この世界では、どうやら僕等の時代とは違って早朝のようで。朝ご飯がまだ済んでいない三平と犬彦、それから僕と翼、拓も小腹が空いていたので、食料を探しに近くを散策した。すると、木の実を見つけたのでそれを取り、僕等は丸くなって集めたものを食べていく。


 けれど。



「この木の実、おいしいけど。あまり腹にはたまらないな。お菓子でも持ってくれば良かったぜ」


「うん、そうだね。それに、飲み物も欲しいね」



 翼に続き、拓もならって小言をもらした。


 食事も終え、一息ついていると、翼が口を開き。



「それで。姫御子を倒せばいいのは分かったけどさ。具体的にはどうするんだ?」


「姫御子を倒すには、宝珠が必要なんだって。伝説だと、この珠みたいなものが全部で八つあるんだ。二つは見つかったけど、残りはどこにあるのか分からないんだ」


「分からないのに、どうやって探すんだよ?」


「それが、この珠達が放つ光の先にあるみたいなんだよ。昨日もこの光を頼りに歩いていたら見つけたんだ」 


「ふうん。なんだか気の遠くなる話だなあ」



 確かに翼の言う通りだし僕も思ったことだけど、でも、それしか手がかりはないのだ。仕方がない。



「あっ、そうだ。すっかり忘れてた」



 宝珠で思い出した僕は、リュックサックの中からもう一つ、折り畳んでいたリュックサックを取り出し。



「これ、使っていないリュックサックがあったから、三平に持って来たんだ」


「えっ、俺に?」


「うん。集めた宝珠を入れるのに良いんじゃないかなと思って」


「へえ、これは便利だな」



 三平はリュックサックを受け取ると、早速宝珠を中にしまった。どうやら気に入ってくれたみたい、良かった。


 話もまとまると、僕等は早速、第二の宝珠が示している光の方角へと歩き出す。


 しばらく歩いていると、なにやらいくつもの建物が見えてきた。それは三角錐の形をしており、全体が草で覆われていて、確か竪穴式住居とかいう歴史の学習マンガで描かれていた、昔の家にそっくりだ。その集落の周りには、田畑が広がっていて。過去に来て、初めて三平以外の人間の存在を確認できるような風景だった。


 だが、その田畑の近くを歩いていたら、突然足元の地面が大きく盛り上がり。



「うわあっ!? なっ、なんだ、これ!?」



 これは、罠だろうか。気付いたら足が地から離れており。僕等の体は大きな網に包まれ、宙ぶらりんになっていた。


 どうにかその網から抜け出そうともがいていると、どたどたと忙しない足音が響き渡り。



「やい、山賊ども! やっと捕まえたぞ。今日こそ観念するんだな!」


「山賊だって?」


「ちょっと待って! 僕達は山賊じゃないよ」


「うそを吐くな! 毎日、毎日、村の田畑から作物を盗みやがって!」


「うそじゃないって! だって俺達、たった今、この村に着いたばかりだもの」



 みんなで必死に抗議をすると、集まった村人達は互いの顔を見合わせ出し。



「どう思う?」


「確かにこの子等は、まだ子どもだしなあ……」


「それに、山賊が現れるのは、決まっていつも真夜中だぞ」



 村人達はどうやら納得してくれたようで、僕等を罠から出してくれた。



「悪かったな、坊主達。手荒な真似をして」


「ただでさえ姫御子様へ納めなければならない作物の量が多くて、儂等の食料が少ないのに。その上、山賊にまで盗られてしまっているから困っていたもんでな」


「姫御子だって?」



 こてんと首を傾げさせる翼に、三平が淡い炎のような、青白い光が灯った瞳で村人達を見つめながら。



「ああ。姫御子はいくら人々が食うのに困っていても、それでも作物を納めさせようとするんだ。決められた量を献上できないと、罰としてその村を潰してしまうこともある」


「なんだよ、それ。ひどい話だなあ!」


「ああ。俺の村も、いや、どこの村も、ここの村とそう大差はない。だから俺は、どうしても姫御子を倒したいんだ」



 三平はぎゅっと唇を固く結び、それから拳を強く握りしめる。僕等が思っていたよりも、どうやらこの世界は強く姫御子に支配されているようだ。


 しかし、やる瀬なさから黙っていると、不意に翼が口を開き。



「なあ、みんな。その山賊とやら、俺達で捕まえてやらないか……?」


「え? でも……」


「三平、少しくらい寄り道してもいいよな?」



 翼が三平のことを見つめると、三平は一拍間を空けさせたものの、

「ああっ……!」

と、力強く答えた。



「よし、話はまとまったな!」


「でも、山賊はどこにいるんだろう」


「村の人に聞いてみよう。

 あの、済みません。その山賊達、どこにいるか知りませんか?」 


「山賊かい? アイツ等の棲み家は、あの山の中だと思うが……」



 村人の一人が、近くの小さな山を指差した。ここの村からたいして距離もなかったので、僕等は直ぐにその山へと向かった。


 が、小さい山だと思っていたものの、やはり山は山で。



「山賊の棲み家はどこにあるんだろう……」



 見渡す限り緑一色の景色に、早速行き詰まってしまう。鳥の鳴き声が聞こえてくるばかりで、人の気配は全く感じられなかった。


 三平が器用にも木に登って、辺りの様子を偵察しに行ったけれど。その甲斐かいもむなしく、木から下りて来ると、ふるふると首を左右に振った。


 しかし。



「おい、犬彦。お前の出番だぞ」



 三平が声をかけると、犬彦がにゅっと僕等の前に進み出た。


 犬彦は鼻を地面へとつけ。くんくんと、小さく動かし出す。すると、

「あちらの方から人間の匂いがする……」

そう言うと、地面に鼻先をつけながら歩き出した。



「犬彦はすごく鼻が良いんだ」



 三平はまるで自分のことのように、得意気に言った。


 そのまま犬彦の案内に従い歩いていると、ふと川が現れ。さらにその川に沿って進んで行くと、大きな洞窟があった。おそらくあの洞窟が山賊達の棲み家なのだろう。


 僕等は近くの茂みへと隠れ。



「やつ等のアジトは分かったが、どうする? 乗り込んで、一気に捕まえるか?」


「でも、敵が武器を持っていたら危ないよ。武器と言えば、こっちは三平の弓矢と、翼の竹刀くらいしかないんだよ」


「だったら、良いものがあるよ」



 僕は背負っていたリュックサックを下ろすと、チャックを開け。中からいくつかものを取り出して見せーー。






✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 空がすっかり色素を落として、薄暗くなった頃ーー。


 突如とつじょ辺り一帯に、パン、パンッ! と、小さな爆発音が鳴り響く。すると、洞窟の中からぞろぞろと、がたいの良い男達がーー、おそらく例の山賊達が飛び出して来た。


 彼等は全員で十人ほど、作戦通り、そろって音のした方向の空を見上げた。



「おい、なんだ。あの光の玉は!?」



 彼等はすっかり、拓に頼んで打ち上げてもらっている花火に夢中になっていた。


 そんな彼等の足元目がけ、今度は近くの茂みに隠れていた三平が弓を引いた。彼が放った矢は狙い通り地面に突き刺さると同時、矢の先端に付いていたカプセルがぱっかりと開き、そしてーー。



「うわあっ!? な、なんだ、これ。ベタベタとくっ付いて離れないぞ!」


「へへっ。エイゾーが作った、特製とりもち爆弾だよ」



 カプセルの中から飛び出したとりもちが、矢が放たれた場所の近くにいた二、三人の山賊達の体にまとわり付いた。


 それから犬彦も草むらから飛び出すと吠え立てて、山賊達の注意を引き付ける。僕も立体映像装置を使って犬彦の分身をいくつも作り出し、彼のアシストをした。


 山賊達がすっかり犬彦に動揺している間にも三平は次々と矢を放って、残りの山賊達もとりもち爆弾の餌食えじきにしていく。しかし、一人だけ、一段と大きな体をした男が器用にも避け続け。



「しまった、逃したーー!?」



 三平が声を上げるが、その男の逃げて行く方へ。もしものためにと控えていた翼が先回りして勢いよく飛び出し、そして。



天誅てんちゅうーー!」



 見事、男の額に、ぱこーん! と、翼の竹刀の先がきれいに命中した。大男は苦渋の表情を浮かべさせたまま、ゆっくりと後ろに倒れていき。どすん……! と鈍い音に続いて、砂埃が天高く舞い上がった。



「やったあ、さすが翼!」


「剣道ニ級の実力者!」



 翼はへらりと笑いながら、僕等に向けて元気良くブイサインをした。






 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 僕等は捕まえた山賊達を縄で縛ると、彼等を連れて村へと戻り。



「済みませんでした。俺達、食うものに困っていたもんだから、つい……」


「だからって他人のものを奪うなんて。そんなの、ただの言い訳だ! そんなことをしたら、今度は別の誰かが困ることになるんだぞ!」



 山賊達に向かい、翼がぴしゃりと言い捨てる。すると、山賊達はますます肩をすくめさせ。



「はい、深く反省しています。村から盗んだものも全てお返しします」


「でも、せめてあの山には住まわせて下さい。俺達の村は、姫御子様の怒りを買ってしまって潰されてしまい。他に行く当てがないんです」



 そうか。この山賊達も、姫御子からひどい目に遭わされていたのか。そのことが分かると、なんだか急に彼等がかわいそうに思えてきた。


 隣でじっとなにやら考え込んでいた拓が、不意に村人達へと視線を向け。



「あの。この山賊達、この村で一緒に暮らす訳にはいきませんか?」


「えっ、なんだって……?」


「だって、山賊達は、食べるものに困っていたから村の田畑を荒らしていたんですよね? でしたらこの村で、みなさんと一緒に田畑を育てたらいいんじゃないかなと思って」



 拓の意見に、村人達はしばらくの間、考え込み。



「確かにこの村は、若者が少ないし……」


「力仕事をしてくれると、私達も助かるわよね」



 どうやら話はうまくまとまったようで。山賊達の縄は解かれ、これで全てが一件落着のようだ。



「お前さん達、本当にありがとうな。なにかお礼ができたらいいんだけど、ご覧の通り、なにもない村でな」


「お礼だなんて、そんな。俺達は正義の味方。困っている人がいれば助ける。ただそれだけですよ」



 村人達から持てはやされ、翼はすっかり得意そうに笑う。


 そんな翼に僕等もつられて笑っていると、ふと山賊達から取り戻した品々の山へと目がいきーー。



「あっ! ねえ、みんな。もしかして、この珠……!」


「ああ、間違いない。花の模様が刻まれている。これは、三つ目の宝珠だっ……!」



 僕等はそれを手にすると、空高くハイタッチを交わした。






✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 第三の宝珠も無事手に入り、僕等は颯爽さっそうとした気持ちで村を後にした。あの宝珠は村のものではなく、山賊達が山の中で見つけたものであったそうだ。



「もう暗いし、今日はそろそろ休むとするか」


「それじゃあ、三平。僕達も帰るよ」


「ああ。今日も助かったよ」


「そういやあ、帰る時はどうするんだ?」


「昨日は神社から帰れたんだけど……」


「神社だって?」


「うん。どうやら僕達の世界とこの世界は、僕の部屋の押し入れと神社の中とでつながっているみたいなんだ」


「ねえ。神社なら、あそこにあるよ」



 拓の指差した方へ、僕等は歩いて行き。鳥居を潜って社の中に入ると、第一の宝珠が光り出した。そして。



「あっ! 黒いもやが出て来たぞ」


「本当だ。これって、僕達がここに来た時に通って来たものだよね?」


「うん。このもやの中を通れば、僕等の時代に戻れるはずだよ」



 僕達は三平と犬彦に別れを告げると、来た時みたく、また一列になって、もやの中を進んで行く。すると、前方が強く瞬き出しーー。


 昨日と同様、いつの間にか、あの世界から僕の部屋の押し入れへと戻っていたようで。僕の傍らには、翼と拓が眠っていた。


 僕が彼等の肩を軽く揺すると、二人はそろってまだ覚め切らない頭をそれでも動かして上半身を起こし上げ。



「なあ、エイゾー。今、何時?」


「朝の五時だよ」


「俺達、本当に過去に行ったんだよな……」


「うん……」


「過去の世界で、山賊をやっつけたんだよな……?」


「うん……」



 僕が返事をすると、翼も拓の目も、途端にきらきらと輝き出し。



「俺達、やったんだよな……!」


「うんっ……!」



 薄暗い押し入れの中、僕等は強く誓い合った。絶対に、過去の世界を救おうと。三平達や人々を苦しめている姫御子を一緒に打ち倒そうと。



「エイゾー、また明日……って、もう今日か。後で学校でな!」


「うん、また後で!」



 目を覚ましたばかりの朝日の中、それぞれの家を目指して元気良く駆けて行く翼と拓の二人を、僕は一人静かに見送った。

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