生きとし生けるものの世界で、「いただきます」と「ごちそうさま」を。
- ★★★ Excellent!!!
食事の前後に手を合わせて「いただきます」「ごちそうさま」。あなたは最近きちんと言っていますか?
忙しない現代社会では心の擦り切れるような出来事も多くて、大切なことを忘れがちです。
本作は、そんな人にこそ読んでいただきたい物語です。
主人公の大学生・マサシも、例に漏れずその一人でした。
人生に迷う中、ある日突然スローライフが幕を開けます。
絵本に出てきたねずみの家族とともに送る、ゆったり丁寧な暮らし。
おいしいごはんやあたたかな交流は、次第にマサシの心を癒していきます。
自然の中で生きること。周りのひとを思いやること。譲り合うこと。ルールに縛られないこと。全てのものに感謝すること。
私たちは誰しも、大いなる自然の一部です。生態系の環の中にいる。命をいただいて生きている。
当たり前でありながら意識するのは難しいことを、このスローライフは教えてくれるのです。
個人的にスローライフものは展開の緩急を作るのが難しいように思うのですが、本作ではマサシの現実世界での記憶を挟み込むことで対比が生まれ、見事な緩急を作り出しています。
なぜマサシはねずみさんの世界に来たのか。どうやったら帰れるのか。そもそも帰りたいのか。本当はどうすべきなのか。
読み進めるうち、マサシ自身が向き合って乗り越えるべき問題が浮かび上がってきます。
最終章は涙が止まりませんでした。
大事なつながりがあることの心強さと、前を向いて一歩を踏み出すための勇気と、いつかの未来への希望。
何より、自分自身を大切にすること。
清々しい読後感で、胸がいっぱいです。
本当に素晴らしい物語でした。多くの方に読んでいただきたいです!