第257話:温泉とおもてなしと騒動と 54
話し合いは一度中断となり、俺たちはそれぞれで思考をまとめることにした。
どうにも情報が多過ぎたのと、人によってまとめなければならないことが多いくなりそうだったからだ。
アリーシャは陛下へ報告するべき情報の精査があり、新は生徒会長を助けるべきか否かで悩み始めている。
俺としてはアリーシャの方が優先されるべきことなのだが、新の気持ちを考えるとそうもいっていられない。
もしも新が生徒会長を助けにいくと言うのであれば、俺はそれを止めることはしないだろう。
心配ではあるが、俺に新を止める権利なんてないからな。
一緒になって助けてほしいと言われたら……さて、どうするか。
赤城が言う通り、鑑定士【神眼】についてがマリアに知られた場合、アデルリード国を巻き込んだ戦争に発展する可能性が高くなる。
そこを考慮すると、やはり俺が手伝うことはしない方がいいかもしれない。
「……でもなぁ」
頭ではわかっていても、心ではなんとかできないかという思いも少なからず残っている。
昔の俺であればアデルリード国を大事にするということで即座に協力できないと言えたんだろうけどな。
「……俺の中でも、少しずつ何かが変わっているってことかなぁ」
もっと自由でいいと思うのだが、人とのつながりができるとそうできないことも出てきてしまう。
そして、それが今なのだろう。
「さすがにロードグル国のことまで鑑定することはできないだろうしなぁ」
バナナを食べたとしても厳しいだろう。何せ国を三つ挟んだ先にある国のことだ。さすがに遠すぎる。
「……いや、シュリーデン国に転移して、そこからの鑑定なら隣の国だし、ギリギリいけるか?」
やってみなければわからないが、アデルリード国からやるよりは確実に魔力の消費量は激減させられる。
もしも行くなら俺と新は確定、先生も話をしたら行くと言い出しそうだ。
円とユリアは……わからないな。
それに、グランザウォールや宿場町、温泉街を守る戦力を残す必要もあるし、ここは要相談か。
まあ、森谷が残ってくれれば俺たちなんていなくても大丈夫だろうけどな。
神級職でレベルも100は超えているだろう。何せハクのレベルが150だったからな。
……あれ? そういえば、新が行くということは、ハクも行くんだよな?
「……俺とサニー、新とハクだけでいけるんじゃないか?」
もちろん油断は禁物だが、ハクの実力は森谷を除けば俺たちの中でもトップだ。
人間でいえば新がトップの実力を誇っているわけで、そこを俺がサポートすれば……うん、いけそうだな。
「魔法への対抗手段として先生の同行もあり得るけど、そこを魔導具でどうにかできれば、マジで二人と二匹で問題ないかもしれないな」
最も必要になるだろう状態異常に対抗する魔導具は作るとして……って、ちょっと待て。
「なんで俺から積極的に考えているんだ? 新から声を掛けられてから考えるべきだろうに」
俺は首を軽く横に振ると、椅子からベッドに移動してゴロンと寝転がる。
……一難去ってまた一難か。
「本当に、俺が自由にこの世界を堪能できる日はいつになるのやら」
全てを捨てて自由にすることもできるけど……うん、俺の心がそれをしてはダメだと言っている気がする。
人とのつながりって、大事なんだけど色々と難しいなぁ。
「……ふわぁ。やべぇ、眠くなってきたわ」
次の話し合いは夕ご飯を食べてからになっている。
それまでは……ゆっくりと休ませてもらう、かな……ぐぅ。
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