第229話:布団爆撃
食堂をあとにしたウィンスターたちは、食事とお酒の美味しさから少しだけ呆けていた。
酔いが回っているという理由もあったが、それを抜きにしても温泉街で口にした数々が初めてだと言わざるを得ない美味だったことは間違いない。
後ろを歩くディートリヒも同じ思いのようで、無言のまま何かを考えているように見える。
「……まだまだ食えたのになぁ」
唯一ヴィグルだけはお腹をさすりながら満足いっていないような表情を浮かべており、平常運転だった。
窓から外の景色が見えるところへ差し掛かると、ウィンスターの視線が外へ向いた。
色とりどりの提灯が温泉街を照らしており、夜だというのに賑やかで、出歩いている者の全員が笑みを浮かべている。
それだけここが平和であり、住み良い場所ということなのだと納得する。
「むむ? あれは騎士団の者ではないか! 俺を差し置いてまだ楽しもうというのか!」
すると、ヴィグルも外を見ていたのか、温泉街を堪能しようと街へ繰り出していた騎士団の一人を発見したようだ。
「ヴィグル団長、あなたは陛下の護衛でしょう」
「そうはいうがなあ、宰相殿。お主がいたら問題ないのではないか?」
「がははははっ! 何、構わんぞ、ヴィグルよ。行ってこい」
「へ、陛下!」
「ありがとうございます! では、お言葉に甘えて行ってまいります!」
「あっ! ヴィグル団長!」
ウィンスターが笑いながら許可を出すと、焦るディートリヒを横目にヴィグルは全速力で外へ飛び出して行ってしまった。
「……はぁ。本当によかったのですか、陛下?」
「構わん。あいつもここを満喫したいのだろうし、こういう機会でもなければ休暇を与えてやれんからな」
「……陛下がそこまで仰るのであれば、わかりました」
「お主も行っていいのだぞ、ディートリヒよ。護衛ならばトウリたちが用意してくれた兵士たちがおるからな」
「それはできません。行くならば、ヴィグル団長が残っている時にしておきます」
「ほれ、行きたいのではないか」
「いいえ、行きません!」
生真面目なディートリヒは護衛対象であるウィンスターを置いてこの場を離れるということはできなかった。
しかし、頭の片隅では何がどうなってこの街を造りあげているのかを調べたいという、研究者モードのスイッチが入らないようにと必死になって自分を抑え込んでいる。
そのことに気づいていたからこそウィンスターは声を掛けたのだが、結局この日のディートリヒは外へ行くことはせず一緒に部屋へ戻って来ていた。
扉を開けた途端に香る畳の匂いが二人を落ち着かせていき、心和んだ状態で室内へ入る。
そして、寝室の端に畳まれていた布団を敷いて寝るのだと聞いていたのでディートリヒが準備を始めた。
「……おや?」
「どうしたんじゃ?」
「いえ、その……見た目以上に軽くて、暖かいもので」
真っ白な布団の中には魔獣の羽毛がこれでもかと詰め込まれているが、だからといって重たいということはない。
重たいだろうと思っていたディートリヒが驚いたこともあり、ウィンスターは自分の分の布団をよっこいしょと持ち上げてみた。
「……ほほうっ! これは面白いではないか!」
「……なるほど。トウリ様が口にしていた就寝する時にわかると言っていたのは、これのことですか」
ディートリヒがそう口にしたあと、二人はすぐに布団を敷き、素早く中に入った。
「「…………はああぁぁぁぁ〜」」
温泉に浸かり癒されていたと思った疲れだったが、まだまだ残っていたのだろう。二人の口からは自然と安堵の息が吐き出された。
そして、気づく間もなく眠気を誘われて瞼を下ろし、深い眠りに誘われていく。
驚きだったのは、騎士たちと散々騒いで戻ってきたヴィグルにすら気づくことがなく、二人は翌朝まで爆睡していたのだった。
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【一週間の宣伝マラソン!三日目!】
そして、発売日ですよ!
皆様、発売しましたよ!
本当に皆様の応援のおかげでございます、ありがとうございます!
Twitterから離れられません!ww
タイトル:職業は鑑定士ですが【神眼】ってなんですか? ~世界最高の初級職で自由にいきたい~
レーベル:MFブックス
イラスト:ゆのひと先生
発売日:2022/03/25
ISBN:9784046812827
私の地元ではまだ並びませんが、今日でようやくコロナの待機期間が終了するので、明日からはちょこちょこと書店に顔を出したいと思います。……三日くらい、毎度遅れるんですけどね。。
書店でお見かけしましたら、ぜひともよろしくお願いいたします!!!!!
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