第193話:予定外のサバイバル生活 60

 光の奥に見える森谷のシルエットが、徐々にその姿を変えていく。

 俺と同じくらいの身長が徐々に低くなっていき、ボキボキと聞こえていいのかどうかわからない音が聞こえてくる。

 音がしばらく続くと、今度は低くなったスケルトンのシルエットに変化が起きた。

 ただの骨に対して肉が付いたかのようなふくらみが見えてきたのだ。


「……これ、本当に大丈夫なのか?」


 不安を覚える光景に思わず口に出してしまったが、聞こえていたのか光の中から元気よく返事が聞こえてきた。


「大丈夫だよー! 僕、めっちゃ嬉しいからねー!」


 ……まあ、本人がそう言っているなら問題はないか。

 それに、心なしか森谷の声も子供に戻ったのか変わってきている気がする。

 いったいどんな姿でお目見えするのか、楽しみになってきたな。

 しばらく光が続いていたのだが、徐々に眩しさが薄くなっていき、森谷の新しい肉体が露わになっていく。


「……これは、なんというか」

「……うわー! 可愛い!」

「……小っちゃいわねー!」

「……これが、森谷さんなのか」


 姿を現したのは金髪金眼、クリクリの瞳が愛らしい、三歳児の少年の姿をした森谷だった。


「……どうなってるのかな?」

「なんだろう、三歳児の姿ではっきりと発音されると、ものすごく違和感を覚えるんだけど」

「いや、中身は百年以上生きてるお爺ちゃんだからね? っていうか、鏡だよ、鏡!」


 トテトテと歩く姿はとても可愛らしく、女性陣が愛らしい表情で森谷を見ている。

 ……なんだろう、中身が森谷って知っているからか、騙されている感じがしてしまうぞ。

 鏡の前に立った森谷は新しい自分の容姿に目を輝かせ、何度も顔を触り、頬を引っ張って、今まで感じる事のできなかった肉付きを確認していく。


「……あぁ……骨じゃない……僕は、スケルトンじゃないぞおおおお――ぐはっ!?」

「「「「ええぇっ!?」」」」


 元気に拳を振り上げた直後、森谷は真っ赤な血を吐き出した。

 何が起きたのか分からずに慌てて駆け寄った俺たちは、まさかの発言を耳にしてしまう。


「だ、大丈夫か、森谷!」

「……ふ、腐敗の事を、忘れていたよ」

「……はあ?」

「ちょっと、待っててね。対策を、講じるから」


 ……お前、それって、鏡を見るよりも先にやるべき事だろうが!

 俺が呆れた顔で森谷を見ていると、彼は何か魔法を発動したのだろうか、三歳児の体からキラキラとした白い光が浮き上がっては消えていく状態になった。


「森谷、これはいったい何なんだ?」

「ちょっと、待ってね……ふぅ、楽になったよ」

「一番最初にやるべき事はこれだっただろうが」

「あははー。興奮していて忘れちゃっていたよー。そうそう、これなんだけどね、自動回復の魔法でオートヒールって言うんだよ」

「……そのまんまだな」

「分かりやすいだろう? これがあれば腐敗するのと同時に回復してくれるから、しばらくは問題ないはずさ」


 森谷は問題ないと言っているが、さすがに限界があるだろう。


「腐敗がオートヒールの回復量を上回ったらどうするんだ? それに、魔力も多いとはいえ無限じゃないだろうに」

「そこは魔導具で補うさ。こっちが魔力の自動回復が付与されていて、そっちはオートヒールよりは回復量が小さいけど似たような効果が付与されてるよ」

「……何その万能魔導具は」


 そんなものがあるなら、俺たちがレベル上げをしている時に貸してくれてもよかったんじゃないか?


「……貴重な魔導具が、こんなにもたくさんあるなんて」

「……いやはや、モリヤ様は規格外を超えた、規格外ですな」

「……私には何が何やら分かりません」

「……いや、ヴィル様。私なんて、場違いも甚だしいですよね?」

「……え? 私、こんな人と拠点の管理をするんですか?」


 グランザウォール勢はポンポンと出てくる魔導具を目のあたりにして表情が硬くなっている。

 そんな中でリラックスした表情でコーヒーを飲んでいる先生は、やはり大物だ。

 ……っていうか、森谷が興奮している間もずっとコーヒーを飲んでませんでしたか、先生?


「これだけあれば僕が腐敗で倒れる事はそうそうないよ! よーし、それじゃあ剣の女王のペンダントを手に入れるために、出発しちゃおうかな!」

「い、いきなりだな! 場所は分かっているのかよ!」

「分からないよ! だから桃李君、鑑定をよろしく!」

「俺頼みかよ!」

「だって、管理者の件、僕頼りだよね?」


 いや、最初から鑑定はするつもりだったよ? でもさあ、いきなり鑑定よろしくって言われたら……って、俺も似たようなものか。

 とりあえず剣の女王の場所を鑑定して……と思ったが、今はまだ魔力が減った状態で鑑定が行えない。


「まずは休憩をして――」

「はい! マジックポーション!」

「……準備がよくないか?」

「いいじゃないか! さあさあ、飲んでちょうだいよ!」

「分かった、分かったから!」


 俺は用意されていたマジックポーションを一気に飲み切り、念のためバナナを一本食べてから鑑定を行う。

 ……いや、ここから5キロ以上先にいるみたいだけど、魔獣のレベルも相当高いぞ。森谷と同じか、それを超える魔獣までいるじゃないか。


「なあ、森谷。魔獣が強過ぎるから、一度冷静になって――」

「さあ! 共有してくれ!」

「ちょっと待て、魔獣のレベルがだなぁ――」

「さあ! さあさあ!」


 ……結局、俺は森谷の圧力に負けてディスプレイ画面を共有した。

 三歳児の圧力に負ける俺、残念過ぎるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る