第192話:予定外のサバイバル生活 59

「それじゃあ、始めるぞ」


 お気に入りの椅子に腰掛けた森谷は、スケルトンの頭に王冠を載せて姿勢を正している。その手にはホムンクルスの涙が握られており、魂の定着が解除されるのと同時にホムンクルスの肉体を手に入れることになる。

 肉体の腐敗をどのように防ぐのかは気になるところだが、そこは森谷がどうにかしてくれるのだろう。

 この場にいる全員が見守る中、俺は王冠に込めた魔力を吸収するよう森谷に伝えた。


「了解、こうかな?」


 王冠の魔力に森谷の魔力が干渉する。

 すると、王冠の魔力が一気に森谷の中へ入っていく。

 俺たちの魔力を吸収した時とは真逆の状況だが、これがリッチキングの王冠の特性でもある。

 討伐されたリッチキングは魂の消滅を防ぐために、この王冠に非難する。

 そして、王冠に触れた相手の魔力を全て吸収して復活を果たし、その肉体を乗っ取ってしまう。

 もし乗っ取ることができなくても吸収した魔力は王冠に蓄積されていき、貯まった魔力を使って任意の相手を乗っ取ろうとするのだ。

 今回は後者の方で、6000以上の魔力を蓄積することなどそうそうないはずだ。それこそ、神級職の戦闘職、それも魔法に特化した森谷のような存在がいなければ蓄積されない量である。

 きっとリッチキングは錯覚してしまったのだろう。これだけの魔力量があれば、誰であれ乗っ取ることができるのだと。


「……お、いい感じだねぇ」


 だが、森谷の魔力は王冠の蓄積された魔力量よりも多く、ついでに言えば代償の魔力も体内に保有している。

 どれだけ魔力を流し込んだところで乗っ取ることはできず、今回の場合は自らの魔力ではない代償の魔力と相殺し合うことで、ただただ魔力を消費するだけになっていた。


「よーし、そろそろかな!」


 王冠から入ってくる魔力が徐々に勢いを失っていく。

 俺は森谷の言葉を合図に指示を出した。


「森谷! 自分の魔力を体内で循環させろ!」

「いっくよー!」


 元気よく返事をした森谷は、莫大な魔力を一気に循環させて代償の魔力だけではなく、王冠から入ってくる魔力をも体内から追い出そうと試みる。

 森谷の魔力と代償の魔力だけの時には魔力同士が拮抗しており、どれだけ魔力を循環させようとも追い出すことはできなかった。

 しかし、第三の魔力が体外から無理やり入って来ようとしたことで、二つの魔力が保っていた拮抗が崩れてしまった。

 そこを鑑定スキルを突いてきたのだ。


「……おぉ? なんか、体が軽くなってきた気がする!」

「いい感じだな。森谷、そろそろ肉体に変化が出てくると思う。タイミングは任せるけどいいか?」

「もちろんだよ! 自分の骨のことだし、任せて!」


 いや、そこは肉体だからとか、言い方があるだろうに。

 とはいえ、森谷は自信満々に任せてと言ってくれたので、ここからは俺たちがやることはない。成功するようにただ見守るだけだ。

 心なしか骨つやが良くなってきたように見える。

 すると、そう感じたタイミングで手に握るホムンクルスの涙をギュッと握り、一気に砕いた。


「ぅ、ぅぉぉおおおおおおおおぉぉっ!」


 リッチキングの王冠との戦いに勝利した森谷だったが、次はホムンクルスの涙との戦いになる。

 こちらもリッチキングの王冠と同じで、自らの魂をホムンクルスの涙に凝縮して消滅を防ぎつつ、乗っ取ることができる肉体が現れるまで機会を待っている。

 今までは森谷の魔法鞄に入っていたのでその機会を失っていたが、今は乗っ取ることのできる肉体が目の前にあった。

 この機会を逃すわけにはいかないと、ホムンクルスの涙は砕かれたと同時に全ての力を使って森谷の乗っ取りを図ったのだ。


「……あぁ……ああぁっ! なんだろう、肉体の温かさを、感じるよおおおおぉぉっ!」


 久しぶり過ぎる感覚に、森谷は歓喜の声をあげた。

 目の前では森谷とホムンクルスの涙の攻防が続いている……はずなんだが、どうも森谷の表情を見ていると緊張感が薄れてしまい、楽しそうだなぁ程度の思いしか湧いてこない。

 いや、骨なのに嬉しそうな表情を作れるなんて、卑怯だろうよ!


「僕の新しい肉体、カモーン!」


 何かを確信したのか、森谷が『カモーン!』と口にした途端――彼の肉体から目を覆う程の光が放たれた。

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