第190話:予定外のサバイバル生活 57

「鑑定、森谷の禁忌魔法の代償を解消させる方法」


 俺がそう口にすると、体内から一気に魔力が抜けていく感覚を覚えた。

 眩暈もしてくるか、バナナを食べているからか最初のように魔力枯渇を起こすような感じは見られない。

 それが分かるようになったのも、魔力が増えてくれたおかげなのだろう。

 あの時は気づかないうちに魔力枯渇を起こして気を失ってしまったからな。

 全員の視線がこちらに集まっている中、普段よりも鑑定スキルが時間を掛けて、ようやくディスプレイ画面に鑑定結果が表示された。


「何々? ……あー……えぇ~? マジかぁ」

「ど、どうしたんだい、桃李君? もし無理そうなら僕は諦めるけど?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、さすが禁忌魔法って感じで、結構面倒くさい素材が必要なのと、禁忌魔法を打ち消すために大量の魔力が必要になりそうなんだ」


 俺は説明しながらディスプレイ画面を全員に共有する。

 顔を寄せ合って鑑定結果を全員が見てみると、誰もが苦い表情を浮かべた。


「禁忌魔法を使った総魔力量6000を超える魔力って、バナナを食べても難しいんじゃないかな?」

「リッチキングの王冠って、リッチじゃダメなのねぇ」

「こっちはどうなんだ? 剣の女王のペンダント?」

「ホムンクルスの涙って言うのは何かしら?」


 円、ユリア、新、先生が順に疑問を口にしていく。

 名前の挙がった三匹の魔獣はどれも特級魔獣であり、今の俺たちでは簡単に倒す事ができない相手でもある。

 当然、下級職や中級職のアリーシャたちが手助けできるような相手でもない。


「簡単じゃないとは思っていたけど、ここまで厳しい相手になるとはなぁ」

「……え? こいつら、そんなに厳しい魔獣なの?」


 俺の呟きに声を掛けてきたのは森谷である。


「……いやいや、だって、特級魔獣だよ? しかも、全員がレベル150近い個体みたいだし、ハクよりも強いって事だろ?」

「そうなんだけどねぇ。……あれ? ちょっと待って、これって、もしかして」


 何やら呟き始めた森谷に俺たちが顔を見合わせていると、突然立ち上がって自分の部屋に行ってしまう。

 しばらく待っていると、戻ってきた森谷の手には魔法鞄が握られていた。


「ど、どうしたんだ、森谷?」

「ねえ、桃李君。ここに書かれている素材だけど、古い新しいは関係ないかな?」

「関係はないと思うけど……え、まさか?」


 おいおい、マジかよ。さっきの発言も、戦った事があるからっていうんじゃないだろうなあ!


「全部じゃないんだけど、一つ以外は持ってた」

「「「「「「「「「「……ええええええええぇぇぇぇっ!?」」」」」」」」」」


 全員が森谷の言葉に驚き、当の本人はカタカタ骨を鳴らしながら笑っていた。


「なんで持っているんだよ!」

「いやー、リッチキングとホムンクルスとは戦った事があったんだよー」


 楽しそうに答えながら、森谷は魔法鞄からリッチキングの王冠とホムンクルスの涙を取り出してテーブルに置く。


「……あの、レレイナさん? これ一つで、どれだけの価値があるんでしょうか?」

「……ほ、本で読んだ知識ですけど……小国の国家予算くらいにはなるかと」

「「「……」」」


 興味本位で問い掛けたアリーシャだったが、レレイナの答えを聞いて固まってしまい、兵士三人は言葉もない。

 そして、全員が森谷の魔法鞄には他に何が入っているのかと思うようになっていた。


「僕がこの場から離れられたら、剣の女王のペンダントも取りに行けるんだけどなぁ」

「あっ! ちょっと待ってくれよ」


 俺の鑑定では『森谷の禁忌魔法の代償を解消させる方法』となっている。

 もし、二回目の禁忌魔法の代償である魂の定着、これだけを先に解除する事ができないかをディスプレイ画面から調べ始めた。


「……あった、あったぞ!」


 さすがは鑑定スキル様! 色々なパターンで鑑定結果を表示してくれている。

 それに、魂の定着を解除するのも問題なさそうだ!


「どうやら、魂の定着を解除するために6000以上の魔力とリッチキングの王冠が必要。だけど……」

「どうしたんだい?」


 6000以上の魔力は森谷以外から集めなければならない。

 これも問題なのだが、それ以上に心配な問題が出てきてしまった。


「……二回目の禁忌魔法だと、骨以外の肉体の消失と不死になるも代償だっただろう?」

「そうだね。……あ! もしかして、肉体が戻るのかな!」

「あぁ。だから、魂の定着を解除するには、そっちの代償も解除されてしまう。そうなると、戻った肉体が一回目の代償で腐敗してしまうんだ」


 肉体の消失と不死の解除はホムンクルスの涙があれば可能だ。

 だけど、体の腐敗が進んで行くような状況で、剣の女王を見つけて倒すまでの時間はないだろう。


「やっぱり今は解除せずに、俺たちが剣の女王を倒してペンダントを――」

「大丈夫、解除してよ」


 森谷は俺の言葉を遮りながら、解除して欲しいと口にした。

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