第187話:予定外のサバイバル生活 54

「……とはいえ、まずはこれをどうにかしないといけないよねー」


 そう口にした森谷は、いまだ噴き出し続けている温泉に目を向けた。

 これをどうするのかと思っていると、森谷が軽く地面を踏みつけただけで大地が蠢き、温泉が噴き出している穴を塞いでしまった。


「「もったいない!」」

「あははー! 大丈夫だよ、僕が魔法を使えばまた地面に穴が開くからねー」

「「ありがとうございます、大樹さん!」」


 ……お、おぉぅ。異世界人の女性陣たちから感動の声があがったぞ。

 まあ、俺も温泉には興味があるし、ここを拠点にできれば……できれば……。


「……あっ!」


 そうだよ、そうだよな! できるじゃないか、ここを拠点にする事が!


「森谷! お前をここに作る拠点の管理者にしよう!」

「え? 何、どういう事?」

「もちろん陛下にも紹介するし、王都に連れて行く! でも、ここで暮らせたら一番だよな!」

「ま、まあ、家もあるし畑もあるし、許されるならそっちの方がいいかなー、なんて?」

「よし決まりだな! 温泉もあるし、これで完璧だろう! 魔の森の中にある療養拠点、最高じゃないか!」

「「最高ね!」」

「あー……えっとー……いいの、かな?」


 いったい誰に確認をしているんだよ! あ、アリーシャにか。

 まあ、俺には関係ない。むしろ、良い方向に進んでいるのだから問題ないだろう!


「ちょっと待ってください、トウリさん! 雷雨地帯はどうするおつもりですか? あそこを抜けなければ、誰であろうとここまで辿り着けませんよ!」

「そこは森谷の転移魔法陣でちょちょいと……な?」

「えぇっ!? ぼ、僕頼りなのかい!」

「そりゃそうだろう! あ、対策はレレイナさんも一緒によろしくね!」

「……え? ええええぇぇええぇぇっ! わ、私ですかあっ!?」

「もちろん! 博識スキルを持っているレレイナさんが加われば、鬼に金棒だからな!」


 これなら雷雨地帯を通らずにここまで来れるし、チャレンジャーがいれば勝手に雷雨地帯に入ってしまえって感じだ。

 なんなら転移魔法陣の使用料とか取れればグランザウォールに還元もできるわけで、色々な考え方が見えてくるってもんだよな。


「あの、アリーシャ様! な、なんとか言ってくださいよ!」

「こうなってしまっては、もう止まらないかもしれませんね。というわけで、頑張ってください、レレイナ様!」

「……そ、そんなああああぁぁああぁぁっ!!」


 よし、レレイナさんの件は片付いた!

 森谷も問題なさそうだし、これで温泉を利用した療養拠点、そしてゆくゆくは温泉街みたいなのが作れたらさらに最高じゃないか!


「くううぅぅぅぅっ、夢が広がるなあ!」


 俺が興奮しながら話をしていると、そこに待ったを掛ける声が聞こえてきた。


「ちょっと、桃李! 私の目的を忘れているんじゃないでしょうねえ!」


 ……ユリアの目的? えっとー……なんだっけ?


「すまん、忘れた」

「従魔契約がしたいんですけどおおおおぉぉっ!?」

「あれ? って事は、君がユリアちゃんだね?」

「はい! 近藤ユリア、特級職の拳王で、従魔希望の十八歳です!」

「いや、年齢はいらんだろう」

「私の目的を忘れていたあんたは黙ってなさい!」

「……はい、すみませんでした」


 なんだろう、ちょっと忘れていただけなのに、ものすごく怖いんだけど。


「うんうん、元気があっていいねぇ。そうだなぁ……ユリアちゃんは……へぇ、ある程度は地力をつけているみたいだね」

「ありがとうございます!」

「だからなんでそんな体育会系のノリ……ごめんなさい」


 む、無言で睨まないでくれ、マジで怖いわ。


「候補としては二つある。一つ目がユリアちゃんの地力を活かすためにサポートタイプの従魔。二つ目が一緒になって戦ってくれる似たタイプの――」

「一緒にぶん殴りたいです!」

「ぶんっ!? ……ま、まあ、そういう事なら、あの子がいいかな。ちょっと待っててねー」


 ……あの森谷が、若干引いていた気がする。

 俺も学習したからな、口には出していない。出していないのだが……どうしてこっちを睨むかなぁ、ユリアは!?


「と、とりあえず、森谷が戻ってくるまでは休憩といこうじゃないか!」

「……まあいいわ」

「そうだね。私も疲れちゃったよ」

「俺も疲れた。だが、デュラハンに苦戦しているようでは、この先が心配になるな」


 いやいや、一人でレベル上位の魔獣を倒したんだから、そこは誇ってもいいと思うぞ。

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