第168話:予定外のサバイバル生活 36

「……分かった、いいだろう」

「陛下、よろしいのですか?」


 陛下の答えにディートリヒ様が確認を取る。それだけ驚きの回答なのかもしれない。


「マヒロの鑑定で問題ないと出ているのだから、信じるしかあるまい」

「それはそうですが……いえ、分かりました。これ以上は何も言いますまい」


 しかし、ディートリヒ様も案外あっさりと引き下がってくれた。

 俺から提案しておいてなんだが、この反応は予想外だ。


「あの、本当にいいんですか?」

「構わん。我らはマヒロの鑑定スキルを信じているからな」

「はい。むしろ、少しでも疑ってしまった事を恥ずべきですね」

「いやいや! そんな、一国の王様と宰相様がたかが異世界人の言葉をあっさりと信用したらダメでしょう!」


 俺が必死になってそう口にすると、二人は声を出して笑いだしてしまった。


「ふははははっ! もし騙そうとしているのであれば、そのような事は口にせんだろう!」

「陛下の仰る通りです。マヒロ様の言葉が本当だからこそ、今の言葉も出てきたのでしょう」

「……なあ、アリーシャ。これでいいのか? 本当に、これでよかったのか?」

「まあ、良い方向へ進んだのですからいいのではないですか?」


 まさか、頼りのアリーシャまでそんな簡単に答えてしまうとは。

 となると、最後に残ったのは全く関係のないユリアだけだが。


「……え、私? まあ、桃李が思い描いていた中での最高の結果なんだから、胸を張ってもいいんじゃないの?」

「え? あ、あぁ。そう、なのか?」

「当然でしょう。あんたがどれだけ気合いを入れてここまで来たのか、私たちは知っているんだからね」


 ……なんだよ、ユリア。お前、めっちゃいい事を言ってくれるじゃないか。


「なんだろう、ものすごく感動したぞ」

「はあ? 何を言っているのよ、気持ち悪い」

「ふふふ、面白い二人であるなぁ。とはいえ、コンドウの言う通りであろうな。だがなぁ、マヒロ。二つ、約束をして欲しい」


 楽しそうに笑っていた陛下だが、最後の言葉にだけは強い意志が込められているように感じ、俺はごくりと唾を飲み込む。


「まず一つ目だが、絶対に悪さをさせるな。相手は神級職の魔導師(神魔)であると聞いたが、それだけの者が悪に染まろうものなら、この国だけではなく世界が破滅へと進んでしまうからな」

「分かりました」

「それと二つ目だが……まあ、これは簡単だ」

「簡単、ですか?」

「あぁ。お主らのように、タイキ・モリヤをここに連れてくる事だ」


 …………え? マ、マジで言っているのか、陛下は?


「あの、お言葉ですが、森谷は禁忌魔法の代償のせいで、見た目は完全なスケルトンですが?」

「構わん。中身は人であり、性格も問題などないのだろう?」

「それはそうですけど……」


 陛下に何を言っても意味がないと悟った俺は、横目でディートリヒ様を見る。

 しかし、頼りのディートリヒ様も苦笑を浮かべて肩を竦めるだけで助け舟を出してはくれなかった。


「……分かりました、森谷をここに、お連れします」

「任せたぞ!」


 うーん、森谷をグランザウォールに連れてくる事に関しては問題はない。

 という事は、禁忌魔法の代償を解除する方法さえ分かれば、あとはどうやって王都までスケルトン森谷を連れてくるかだな。


「ロングコートを羽織らせるだけではダメなのですか?」

「ダメだな。歩くたびに骨がカタカタ鳴ってうるさい奴だから」

「ほ、骨が、ですか?」

「あぁ。何せ、スケルトンだからな。笑うだけでもカタカタ音を鳴らしていたんだぞ?」


 俺の言葉にアリーシャは首を傾げるばかりだ。

 まあ、なかなか想像も難しいだろうな。骨人間を想像する事なんて、そうそうない事だし。


「……ねえ、桃李」

「なんだ、どうしたんだ、ユリア?」

「陛下への報告はもう終わりなのよね?」

「そうだけど、何かあるのか?」


 目的は陛下とディートリヒ様への報告なのだから、他に予定なんて……あ。


「私、騎士団の方へ行ってもいいかしら?」

「……お前、マジで殴り飛ばすつもりなのか?」

「まさか! 私がぶっ飛ばされるんじゃないかしら? まあ、レベルも上がっているし、一矢報いる事はできるかもしれないけどね!」


 ……いや、あの、模擬戦の結果を予想して口にした言葉じゃなかったんだけど。


「ふははっ! よいよい、コンドウは騎士団の方へ向かうとよいぞ」

「ありがとうございます、陛下!」

「あ、でしたら私もよろしいでしょうか、陛下?」

「あぁ、構わん」

「だったら俺も」

「マヒロはダメだ。まだ話を聞かなければならない事も多いからな!」

「……で、ですよね~」

「諦めてください、マヒロ様」


 こうして、ユリアは満面の笑みを浮かべながら、アリーシャは申し訳なさそうに部屋を出て行った。……俺を置いてな!

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