第151話:予定外のサバイバル生活 21
森谷が口にしたこれからについてというのは、どれだけここに滞在するか、というものだった。
確かにずっとグランザウォールを離れるわけにもいかないし、戻らなければ魔の森の開拓を進める事ができない。
従魔たちがいれば開拓するだけはできるはずだけど、その後の維持にみんなのレベルが足りなくなるかもしれないので、なるべく早めに戻って開拓とみんなのレベル上げを進めなければならなかった。
「今で大体二週間くらいか?」
「そうだね」
「切りがいいところだと、一ヶ月って感じになるか?」
「それじゃあ一ヶ月と仮定すると、残り二週間かなー」
一ヶ月となると、すでに半分を過ぎてしまった事になる。
俺としてはもっと魔導具作成を学びたいと思っているのだが、円と新はどうだろうか。
「俺は魔導具作成をもっと学びたいけど、二人はどう?」
「光魔法がレベル5になっただけで、他のスキルレベルは上がってないから、私も大樹さんから学びたいかな」
「俺もハクと一緒にレベル上げをギリギリまでやりたいな」
「うーん、それじゃあ……二ヶ月とか、三ヶ月にしちゃう?」
俺は腕組みをして考え始める。
アリーシャたちと合流したい気持ちはあるものの、戻るからには何かしらの成果がなければもったいない。
二ヶ月、三ヶ月とここにいても開拓した場所の維持に問題がなければ、俺も残っていいと思っていた。
「……よし。鑑定、開拓維持の状況と期間」
こういう時の鑑定スキルである。
鑑定結果に目を通すと、一ヶ月でも二ヶ月でも、三ヶ月でも維持をするには問題がないと表示された。
ただし、それ以降はみんなに疲労が蓄積してしまい、怪我人が出る確率がぐんと上がってしまう。
それを考慮に入れて、最大で三ヶ月というのが、俺たちがここで学ぶ事ができる時間と言えるだろう。
「それじゃあ、アリーシャから緊急の連絡が届かない限り三ヶ月はここで学んでいこう」
「もし届いた場合は?」
「学びを中断して戻るんだな?」
円と新の問い掛けに、俺は大きく頷いた。
「戻るのに関しては安心して。僕が転移魔法陣で元いた場所に戻してあげるからね」
「そんな事ができるのか?」
「これでも魔導士の神級職なんでねー、問題ないよー」
規格外すぎて呆れてしまう。鑑定士の神級職なんて目ではないじゃないか。
「それじゃあ、明日からもしばらくは今までと同じって事でいいかな?」
「よろしく頼む」
「よろしくお願いします、大樹さん!」
「ハクも頼むな」
「ガウガウ!」
「ピキャー!」
「……!」
全員から返事をもらい、森谷も満足そうに頷いた。
「それじゃあ期限が決まったところで、円ちゃんの指導方針を考え直さないとねー」
「そうなんですか?」
「うん。僕としてはもっと短い期間になるかもと思っていたから、すぐに使えそうな魔法を中心に教えていたんだけど、余裕ができたからちょっと難しい魔法にもチャレンジしてもらおうかと思ってねー」
難しい魔法と聞いて、円の体に少しだけ力が入るのが分かった。
「……それって、危険じゃないのか?」
「まあ、強力な魔法になるから多少は危険を伴うかなー。でも、誰もいないところで一人でやるよりも、教えられる人がいるところでやった方が安心じゃないかな?」
森谷の言う通りで、今後円が独学で魔法を学ぼうとした時に師事できる相手がいるのといないのとでは、状況が大きく異なってくる。
難しい魔法、強力な魔法を学ぶにしても、森谷がいる今が一番良い機会なのかもしれない。
「……お願いできますか、大樹さん」
「僕はもちろん構わないよ。むしろ、気をつけるべきは円ちゃんの方だよ?」
「分かっています。でも、ここを乗り越えないと、みんなの助けになれないから」
うーん、またこれか。
俺は別に円が足手まといだなんて思っていないんだけどなぁ。
「なぁ、円。俺たちは何も足手まといだなんて思ってないぞ? むしろ、円の魔法には十分助けられてるし」
「そうだぞ、八千代。俺の剣よりも多くの魔獣を倒せるのだから、お前が気に病む必要はないだろう」
俺だけではなく新も同じ事を口にする。
しかし、円は首を横に振ると、瞳に強い意思を乗せてこちらを見てきた。
「みんながそう思ってくれてるのは分かってるよ。でも、私は桃李君に助けられた当初、本当に迷惑を掛けちゃったんだ。だから、その分も頑張らないといけないの」
……それを言われると、何も言えないなぁ。
そのおかげで俺も新たちを助ける気になったんだけど、当時は色々と頭を悩ませたし。
新は知らない事だから、ここは俺が何かを言わなければならないな。
「……はぁ。分かったよ。だけど、絶対に無理はするなよ?」
「ありがとう、桃李君!」
「森谷も、円の事を頼んだぞ」
「任されたよー」
円は嬉しそうに笑い、森谷はカタカタと骨を鳴らして満足気だ。
……この師弟コンビ、意外と気が合うんじゃないか?
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