第137話:予定外のサバイバル生活 8
家の中に入ると……うん、真っ当で素晴らしい造りのログハウスである。
木材が豊富だからといってここまでやるか? と言いたくなるくらいに素晴らしい出来だ。
「すごいでしょ? 特にここの壁の木目がお気に入りなんだー! だからさ、一番くつろいでいる椅子の正面に木目が来るようにインテリアにも気を遣ったんだよー! そうそう、それとねぇ――」
……と、こんな感じでさっきから話が止まらない。途中から聞き流しているのだが、それにすら気づいていない様子だ。
どうやったら止まるのかと考えていたのだが、業を煮やしたのか新が声を掛けてくれた。
「……なあ、森谷……さん?」
「ん? なんだい……えっと、新君だったかな?」
「あ、あぁ、御剣新だ」
「あ! 私は八千代円です!」
「おぉっ! 新君に円ちゃんか、よろしくね! それでどうしたんだい、新君?」
「……話を、進めて欲しい」
「え? あぁ! ごめんねー、ちょっと木目にテンションが上がっちゃったよー!」
さ、さすがは新だ。いく時はいく、剣道の道! ……ではないか。
とはいえ、話が進んでくれるのはありがたい。
「それじゃあ、僕は飲み物を入れてくるけど……お茶に紅茶、コーヒーもあるよー」
「あ、それじゃあ俺はコーヒーで」
「私は紅茶を」
「……お茶を頼む」
「りょうかーい! そっちの席以外ならどこに座ってもいいよー!」
ちゃっかりとお気に入りの椅子には座るなと言っていくあたり、相当に気に入っているんだろうな……あの木目。
何がそんなに良いのかは分からないが、とりあえず空いている席に座っていく。
程なくして台所の方から香ばしい匂いがリビングに漂ってくる。
「……マジでコーヒーがあるんだな」
「そういえば、こっちに来てから飲んだ事がなかったかも」
「そうだな。シュリーデン国でも出てこなかったはずだ」
「……もしかして、栽培しているのか?」
俺たちは顔を見合わせてから首を傾げたが、そのタイミングで森谷が戻ってきた。
「おまたせー……って、どうしたの、三人とも?」
「なあ、森谷。お前って、コーヒーを栽培しているのか?」
「そうだよー。いやー、苗を見つけるまで相当苦労したけどさ、僕はコーヒーが大好きだから我慢できなかったんだよねー。……まあ、今になっては飲めないけどさ! あははー!」
うーん、カタカタはうるさいけど、そこを笑っていいのかは正直分からないな。
森谷の言っている事が本当なら、こいつも理不尽に召喚されて魔の森に送られ、さらには仲間に裏切られてスケルトンになったって事になる。
スケルトンになったあたりの事情は知らないが、俺なら生きているのもつらく感じるかもしれない。
全員のテーブルの前に飲み物が行き渡ると、森谷も腰掛けて話が始まった。
「さて……それじゃあ、まずは僕の事から話した方がいいよね。信じてもらうためにも」
そう前置きした森谷は、自分の境遇を話してくれた。
召喚されたのは本当に百年以上前、途中から数えるのも面倒になったのでそう口にしている。
召喚したのはアデルリード国が興される二代前のアルファンテ王国。
「二代前って……それ、百年で収まるのか?」
「分かんない。だから百年以上前って言ってるんだよー」
……マジで何歳なんだろう、森谷。
当時は開拓という言葉ではなく、攻略と言って数多くの戦力を魔の森に投入していたらしい。
森谷たちは満を持しての投入だったらしいのだが、途中で問題が起きてしまった。
「食糧とかキャンプ道具とか、諸々の道具を持っていた部隊が魔獣に襲われちゃってねー、物資のほとんどをこの辺りで失っちゃったんだよー」
「防げなかったのか?」
「神級職とはいえ万能じゃないからねー。僕だけじゃなく、他の勇者たちも接近に気づけなかったんだよー」
その後、なんとか魔獣を仕留めて生き残ったものの、他の魔獣が集まってきてしまい逃げ道を塞がれてしまう。
どうにかできないかと森谷は必死に考えていたのだが、その間に他の勇者たちの裏切りに遭ってしまった。
「動きを阻害される魔法を使われたんだ。まあ、これでも相当強いって自信はあったからさ、魔法を破壊して逆に倒してやろうと思ったんだけど、その短時間で他の勇者たちは魔獣の群れに穴を開けて逃亡、残りの魔獣が僕に殺到したってわけさー」
魔の森の魔獣が殺到するって……正直、考えたくもない。円と新も顔を青くしている。
だが、ここでいくつかの疑問が浮かび上がって来た。
「……なあ、森谷」
「んー? なんだい?」
「お前、神級職なんだよな? そんなお前の動きを阻害したって事は、他の勇者たちも神級職だったのか?」
特級職のさらに上の職業である神級職。
俺は戦闘職ではないのでステータスの上り幅は変わってくるだろうが、ここにいるという事は森谷の職業は戦闘職のはずだ。
そんな森谷を抑え込んだという事は……と考えたのだ。
「違うよー。僕以外は全員が特級職だった。神級職って、結構珍しいみたいだよ?」
……えっと、うん。それは知っています。
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