第110話:自由とは程遠い異世界生活 47
転移の祠の前に到着した俺たちの視線はレレイナさんへ向く。
すでに転移魔法陣の改良についての情報は得ており、博識スキルによって完全に記憶している。
いったいどのようにして改良するのか、正直なところ気になってしまう。
「それではこれから、転移魔法陣の改良に移りたいと思います」
「具体的にはどのように改良するんですか?」
「まずは魔法陣を可視化します」
可視化か。確かに現状では雑草が生い茂っているだけの場所だけど……可視化かぁ。
「……どうやって?」
「見ていてください」
そう口にいたレレイナさんが転移魔法陣があるだろう場所に両手を置くと、突如として白い光と共に鑑定スキルで目にした魔法陣が浮かび上がって来た。
「おぉっ!」
「魔法陣は全てにおいて魔力に敏感に反応します。少ない魔力には反応しませんが、大量の魔力を注ぎこめば魔法は発動しませんがこうして可視化されるんです」
「知らなかった……って、大量の魔力?」
「はい。なので、バナナを食べています」
この場にいるのは一時的に能力が上がる果物の事を知っている者しかいないので、レレイナさんがその事を口にしても問題はなかった。
「ですが……ふぅ。これだけでも結構な魔力を使いましたね」
「もしかして、改良にも魔力が必要になるんですか?」
「はい。……でも、私にできるのはこれくらいしかないので、頑張りますね」
無理はしないでと言いたかったが、転移魔法陣の改良ができなければ俺たちの作戦は全て水の泡になってしまう。そして何より、レレイナさんの決意に満ちた表情を見ると状況うんむんは関係なく口にする事はできなかった。
「……よろしくお願いします、レレイナさん」
「はい!」
額に汗を浮かべながらも笑みを浮かべて返事をしてくれる。
この後、俺たちはただレレイナさんの作業を見守る事しかできなかった。
――転移魔法陣の改良の作業を開始してから二時間以上が経過した。
その間レレイナさんは手を止める事はなく、ずっと転移魔法陣の前に座り込み作業を続けている。
その気迫に押されてか、俺たちも誰一人として休む事なく見つめ続けていた。そして――
「…………はああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ど、どうしたんですか、レレイナさん!」
突然、大きなため息と共に地面へ腰を落として空を見上げたレレイナさんに俺は慌てて声を掛けた。
だが、その顔は何かをやり切ったような、とても満足気な表情を浮かべている。
その表情を見ただけでレレイナさんが成し遂げたのだと誰もが理解する事ができた。
「……終わりました、トウリ様」
「……本当に、終わったんですか?」
「……はい! 本当に終わりました! 改良が完了しましたよ!」
レレイナさんがはっきりと口にした途端、俺だけではなくライアン兵士長やヴィルさんやアリーシャ、そしてディートリヒ様までが大きな歓声をあげた。
「お疲れ様です! レレイナ殿!」
「さすがですね!」
「凄いわ、レレイナ様!」
「本当にありがとうございます、レレイナ様!」
みんながレレイナさんを囲んで笑みを浮かべ、疲れ切っているだろうに釣られて彼女も笑っていた。
「本当にありがとうございます、レレイナさん」
「いえ。本当に、私にはこれしかできませんから」
「そんな事はないと思いますよ」
「……え?」
マグワイヤ家で冷遇されていたからか、レレイナさんは自分に対して自信を全く持っていない。だが、彼女が持つ博識スキルは結構なチートなスキルだと思っている。
「博識スキルを上手く使えば、レレイナさんは誰よりも役に立つ人間になれると俺は思っています」
「……本当、ですか?」
「はい。だから、俺は絶対に手放すつもりはありませんからね?」
「……え?」
「グランザウォールには、魔の森の開拓には、レレイナさんは必要不可欠なんですからね」
ニコリと微笑みながら口にする。はっきりと伝える事でレレイナさんの意識が変わってくれればと思ったのだ。
「……あ、ありがとう、ございます」
「分かってくれればいいんですよ」
少しだけ頬を赤く染めながらお礼を口にしてくれたので、俺の気持ちが十分に伝わってくれたのだと思いたいな。
……ん? どうしたんだ、アリーシャ?
「……無自覚って怖いですねー」
「ち、違いますからね、アリーシャ様!?」
「ヤチヨ様の様子から見て……ふむ、確かに怖いですね」
「ディ、ディートリヒ様まで!? 本当に違いますから!!」
うーん、この二人はいったい何を言っているんだろうか。レレイナさんも何をそんな必死になって否定しているんだろうか。
それに、何も言っていないが兵士長やヴィルさんも呆れたような顔をしている。
「……何なんだ?」
まあ、転移魔法陣の改良が終わった事を喜ぶとしますかね。
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