第85話:自由とは程遠い異世界生活 24

 宿屋に到着した俺たちはとりあえずベッドに飛び込んだ。

 部屋割りは単純で、男性陣と女性陣に分かれている。

 堅牢の盾は四人パーティで男性二人に女性二人。

 と言うわけで、男性陣の部屋は三人部屋だ。


「お疲れ様です、トウリ様」

「あはは。様付けは止めてくれ、むず痒くなる」

「なら、トウリでいいかな?」

「おい、ゲイン。さすがに気安すぎるだろ」

「構わないよ。俺も二人の事をジルドとゲインで呼びたいし」


 丁寧な言葉遣いのジルド・オーベルに、軽い口調のゲイン・ボウル。二人は銀級剣士であり、中級職だ。

 リーダーのレイリア・ブリッツが重守士ヘヴィシールド、ローズ・サーリアが二重魔導師デュオでこちらも中級職だったはずだ。

 魔導師の中には二重魔導師は結構多い。その中でもローズは水魔法と木魔法のスキルを持っている。


「冒険者って大変な仕事ですか?」


 俺は冒険者に憧れを持っているので、冒険者と仲良くなれる機会はありがたいし、話を聞けるならなおさらだ。

 ……まあ、自由に冒険ができるようになるのはまだまだ先の未来になりそうだが。


「選ぶ依頼によって違いますね。都市内部での仕事もあれば、外に出て採取依頼を受けたり、魔獣討伐の依頼や今回みたいな護衛依頼もあります」

「俺たちはもっぱら魔獣討伐依頼が多いけどな!」

「やっぱり戦闘ができなきゃ冒険者は務まらないよなぁ」

「なんだ、トウリは冒険者になりたいのか?」

「憧れはあるね。自由に色んな所へ行ける冒険者には」


 自由気ままに、好きな場所へ足を運んで仕事をする。時には危険もあるだろうけど、それすらも冒険者の醍醐味というものだろう。


「それがそうでもないんだなぁ」

「え? そうなのか?」

「ゲインの言う通りですね。実際は生活をするので精一杯っていう冒険者の方が多いですよ。自由に色んな所へ行けるような冒険者は一握りです」

「……そ、そうなのか」

「装備を整えるのもそうだが、必要な道具とかも結構多いからな。実入りが良い依頼ってのは危険も伴うし、そういった依頼を難なくこなせるくらいにならないと自由はそうそうないだろうな」


 ……俺の中での冒険者への憧れが少しだけ崩れてしまった。


「それに、僕たちはありませんけどパーティで仲違いして殺し合うってケースもあると聞きます」

「こ、殺し合うって……」

「後は魔獣と戦闘中にわざと助けなかったとかな!」

「……笑いながら言う内容じゃないですよね?」

「ですが、これは本当の事です。なので、冒険者以外で稼げる伝手があるなら、それに越した事はないと思いますよ」


 ジルドは暗に冒険者にはならない方がいいと言ってくれているみたいだ。

 まあ、現時点では戦える状態でもないし無理なので考えないでおこう。スキルの習得方法が分かってレベル上げができるようになったら考えてみるかな。


「それにしても、俺たちも出世したもんだなー」

「……どういう事?」

「まさか、領主様や王様と謁見できるような人物の護衛に指名されるとか、考えた事もなかったんだよ」

「確かにね。ギルマスから話を貰った時は、正直冗談かと思ったくらいです」

「そういえば、堅牢の盾って冒険者パーティの中ではどれくらいの位置にいるんですか?」


 まず冒険者ギルドの仕組みを把握していない俺としては、ランクとかがあるのかも気になってしまう。職業にもランクというか、等級があるわけだし。


「僕たちのパーティはCランクだよ」

「Cランクって事は……真ん中より上?」

「ほとんど真ん中。GランクからSランクまであって、俺たちは上から4番目だな」

「8段階あって、それの4番目か」

「普通、領主だったり陛下へ謁見する人物の護衛となれば、Bランク以上のパーティが指名依頼されるものなんです」

「それがCランクの俺らに回ってきたわけじゃん? そりゃあ、上のパーティからは睨まれたもんさ」

「Bランク以上のパーティもいたんだな」


 魔の森に面しているグランザウォールなだけあって、兵士のレベルは置いといて冒険者のレベルは高いみたいだな。

 ……ってか、結構長い間グランザウォールにいたけど冒険者事情を全く知らなかったんだな、俺って。


「Aランクパーティまではいますよ。ですがほとんど出払っているので、常駐しているのはBランクパーティが最上位でしょうね」

「ギルマスはグランザウォールの防衛のために残したんじゃないのかな?」

「かもしれないが、防衛って事は単なる待機だろ? 稼げもしない待機よりも、稼げる護衛依頼の方が良いってわけさ」

「……確かにそうだな」


 そうなると、ギルマスも何か考えがあって堅牢の盾に指名依頼を持ってきた可能性があるな。


「こう言っちゃあなんだが、残ってるBランクパーティの奴らは態度がでかい上に、下の奴らをこき使うのもいるんだよ。だから、あまり信用ならないって思ったんじゃないかね?」

「おい、ゲイン」

「いいじゃないか、ジルド。ここにはBランクパーティもいないわけだしよ」

「すみません、トウリ様」

「あはは、全然構わないよ」


 ……うん、今の話を聞いてたらそりゃ信用ならないわな。ギルマスの考えが分かった気がするよ。

 その後もしばらく二人と話をし、夕食をみんなで取ってから今日は休むことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る