第80話:自由とは程遠い異世界生活 19

 魔の森の開拓を初めてから三日が経過した。

 魔獣の掃討は順調に行われ、みんなのレベルも順調に上がっていっている。

 元々のレベルが高かったライアンさんとヴィルさんは徐々に上がり難くなっているが、それでも魔の森の魔獣を狩れば他のところの魔獣を狩るよりもレベルが上がりやすいのは確かなので羨ましい限りだ。

 今日は他の兵士や冒険者にも依頼を出して伐採や一時拠点の拡大を進める予定だったのだが、予想外の人物が屋敷を訪れた。……いや、帰って来たと言うべきだろう。


「グウェイン!? は、早くないか!」


 戻ってくるのに一週間くらいは掛かると思っていたのだが、まさか出発してから四日で帰ってくるとは。


「何かあったのですか?」

「えっと、実は……」


 なんだろう、ものすごく言い難そうにしているグウェインを見ていると、面倒事の予感しかしてこない。だって、その視線が問い掛けているアリーシャではなく俺を見ているから。


「……陛下が、トウリとの面会を望んでいる」

「……はい?」

「というわけで、今から取って返して王都へ向かう。もちろん、トウリも一緒に」

「……はああああぁぁ!?」


 いやいや、なんでそうなるんだよ!

 いや待て、スキルの習得方法は非常に重要な情報である。これが虚言でなければ王様が手元に置いておきたいと思うのも理解できるか。


「報告したわけだし、謀反の疑いは晴れたよな?」

「どうかな。ここでトウリが断れば、陛下がその気配ありから確信に変える可能性はあるかも」

「だよな~。はああぁぁぁぁ……面倒だが、行くしかないか」

「だ、大丈夫なのですか、トウリさん?」


 心配そうに見つめてくるアリーシャだが、俺は大丈夫だと思っている。……まあ、その度合いが監禁などはされない、といった感じの大丈夫なのだが。


「魔の森の開拓は陛下も望んでいる事だと思う。それはレレイナさんを派遣してくれた事からも明らかだ。だから、開拓に必要不可欠な俺を王都に置く事はしない……と思う」


 希望的観測が多大に含まれているが仕方がない。分かっている事は、行かなければ大問題につながるという事くらいなのだから。


「向かうのは俺とグウェインでいいのか?」

「本当は姉さんが行く方が良いと思うけど……魔の森の開拓はどうなってるのかな?」

「魔獣の掃討は終わっているわ。これから兵士と冒険者に依頼を出して伐採と拠点の拡大を予定していたところよ」

「それは姉さんがいないとできない事? それと、トウリも」

「それだけなら問題はないと思う。後は、強い魔獣が出て来なければだけど……トウリさん、鑑定をお願いしてもいいですか?」

「分かった」


 まあ、確証は欲しいところだよな。

 今さらだが、俺の鑑定を確証にしてくれている二人には感謝しかないな。信頼されている証みたいなものだし。


「……ちなみに、滞在期間はどれくらいになると思う?」

「一週間……いや、長く見積もって二週間にしておこう」

「そうね。後はバナナも魔法鞄に入れていきましょう」

「バナナも? ……あー、そういう事ですか」


 アリーシャは王都でスキルの習得方法を鑑定させられる可能性を考えているのだ。


「トウリさんの鑑定スキルの力を示すだけならいらないでしょうけど、スキルの習得方法を陛下が所望されるのであれば、バナナは必要ですからね」

「まだできると決まったわけではないけどね。魔力の消費量も分からないし」

「陛下もその辺りは理解しているよ。トウリが言ったように、魔力の消費量が分かっていない事も伝えているしね」


 備えはしておくけど、うーん……ならばどうしてこうも急いで面会したいと言い出したのか分からなくなる。

 できる分かっているなら急ぐのも理解できるけど……王様なりの確証を得たいという事なのだろうか。


「……まあ、考えても分からないものは仕方ないか。とりあえず鑑定するね。鑑定――魔の森開拓とその維持」


 言葉は非常に省略しているが、頭の中では伐採と拠点の拡大をイメージしているからか問題なく鑑定することができた。


「……うん、問題なさそうだよ」

「よかった。それなら護衛にはトウリの力の事を知っている人物を当てたい。だから、兵士長か副兵士長になると思うんだけど」

「あー……ごめん、グウェイン。それは無理かも」

「そうなの?」

「あぁ。魔の森開拓とその維持にはライアンさんとヴィルさんが必要なんだ。一人でも抜けると兵士や冒険者に犠牲が出るかもしれない」


 二人は現状のグランザウォールで最大戦力なので、開拓と維持には必要不可欠なのだ。

 というわけで、俺は鑑定結果から護衛になり得る人物の名前をあげた。


「ユリア、だな」

「ハルカさんやマドカさんはいないのですか?」

「二人も魔の森の方で必要になるみたい。……詳しく言えば、魔法の広範囲殲滅が必要かな」

「そう言われると、特級職とはいえ拳王であるユリアさんは該当しないか」


 ユリアが円の側から離れるとは思えなかったが、王命でもあるので一応聞いてみる事にしてアリーシャに部屋へ行ってもらう。すると――


「いいわよ。行きましょうか、桃李」


 アリーシャと一緒にやって来たユリアは意外にもあっさりと許可を出してくれた。

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