第78話:自由とは程遠い異世界生活 17

 それにしても、みんなよく魔獣を倒していくなぁ。果物を食べているからって、こうも簡単に倒しちゃっていいんだろうか。

 クイーンドラゴンも相当強かったのに、先生は一撃でぶっ飛ばしてたし。

 まあ、あの時点で先生の魔力は相当高くなっていたし、バナナを五本以上食べている姿を見た時は正直驚いた。

 細身の先生がバナナをモリモリと食べているのだ、驚いたのはきっと俺だけではないだろう。


 しかし、クイーンドラゴン以外はそれに並ぶような魔獣は出てきていない。

 もちろんレベルもステータスも高いのだが、異世界人じゃないライアンさんやヴィルさん、それに下級職のリコットさんでも果物を食べれば倒せる魔獣ばかりなのだ。

 そう考えると、一時的に能力が上がるこの果物は魔の森を開拓するのに必須の物であることは間違いない。


「……いや、開拓ではなく攻略かな?」


 魔の森の手前しか俺は知らないが、アリーシャが言うには奥に行けば行くほどに強い魔獣が出てくるという。

 その場合でもこの果物は最重要なものであることに変わりはなく、奥に進むにつれてみんなもレベルアップしていくだろう。

 元の能力が高くなればその分、果物で上がる数値も上昇するのだから。


「……くっ! 考えれば考える程、俺はどうしてここでレベル上げができないんだ!」


 魔の森とは逆側で、俺はブルファングを何度も狩っている。もちろん筋力を上げるりんごを食べてからだ。

 それでも鑑定をフルに活用しての討伐なので時間が掛かって仕方がない。いまだに剣を振り抜いてもブヨンと跳ね返されてしまう。

 ……俺の筋力、どれだけ低いんだよ。

 鑑定士(神眼)が特級職であれば、戦闘職でなくとも能力値がもっと上がっても良いと思う。


「……まあ、思ったところで強くはなれないんだけどなぁ」


 結局は地道に努力するしかない、ということだろう。


 午前中を魔獣狩りに費やし、巡回する魔獣の一組であるジャッジオーガを殲滅する事ができた。

 次にやってくる魔獣はポイズンスネイクで猛毒を吐き出す魔獣である。戦闘時は毒を警戒しながらになるので時間を掛ける事になるだろうが、準備はしっかりと終えている。

 解毒ポーションは準備しているし、それ以外の各種ポーションも大量に持ってきている。

 貴重な物ではあるが、兵士長であるライアンさんが許可を出しているのだから誰も文句は言えないし、実際に魔の森が開拓されているのだから当然の結果だろう。


「うん、美味いな」

「本当に美味しいね、桃李君」

「なんで一番何もしてない桃李が一番食べてるのかしら?」

「まあまあ、いいじゃないのよ、近藤さん」


 俺だって腹は減るんだ。円のように弁当が美味いと同意するだけでいいのだよ、ユリア。


「魔力を使うとお腹が空きますからね」

「そうですね。私も久しぶりに魔法を使ってお腹が空きました」


 アリーシャとレレイナさんはだいぶ打ち解けたのか、最初の頃のように互いを見極めるような様子もなく、隣同士で弁当を楽しんでいる。


「うん、美味いな!」

「ハルカ様が作ってくれたようですよ、兵士長」

「えっ! ……アキガセさん、女子力高いなぁ」

「ほほう! ハルカ様は魔法の腕前だけではなく、料理までできるのですか!」

「うふふ。まあ、簡単なものだけですけどね」

「いやいや、これほどに美味しい料理は食べた事がありません!」


 兵士の三人は先生が作った弁当にとても感激していた。

 アリーシャが作ってくれた料理も美味しかったが、やはり先生の……いや、日本の味付けで作られた料理は口に合う。

 俺もだし、円やユリアも懐かしそうに食べていた。


「ねえ、桃李君。次の魔獣……ポイズンスネイクはどれくらいでやって来るの?」

「あと一時間くらいしたらかな。基本は魔法で遠距離攻撃、近寄られた時はライアンさんとヴィルさん、それとミレイさんの三人が対処してください」

「え? 私は?」

「リコットさんではまだ対処できません。鑑定でも前に出ると危ないと出ているんです」


 リコットさんは少しだけムッとしていたが、我儘は言わなかった。それだけ鑑定スキルの事を信頼してくれているのだろう。


「んぐっ! んぐぐっ! はああああぁぁ……これが、姉御のお手製だなんて!」


 ……うん、ミレイさんはきっと何とかしてくれるだろう。先生の弁当を食べたから、きっとやる気も満たされたはずだ。

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