第75話:自由とは程遠い異世界生活 14

 食事の準備をしてもらいながら、食器を置いてくれたメイドの名前を聞いてみた。


「私ですか~? 私はニコ・ボドウィンと申します~! セバスさんは私の父上なのです~!」

「親子揃ってレレイナさんについてきたんですね」

「そうなのです~! お嬢様はとても努力家なので、ついていきたいと申し出たのです~!」

「これこれ、ニコ。口を動かす前に手を動かしなさい」

「はっ! も、申し訳ないのです~!」

「いいよ。俺から声を掛けたんだしね」


 語尾が微妙に気になってしまうが、レレイナさんの事を尊敬しているようだ。

 それにしても、王命でグランザウォールにやって来ているレレイナさんの従者が二人だけっていうのはどうかと思う。

 これは、マグワイヤ家が手を回してそう仕向けたの可能性も否定はできないな。

 グウェインにはレレイナさんの待遇についても聞いてもらうよう伝えておいたけど、そんな暇があるのかどうか。

 ……まあ、なるようになるだろう。


「お待たせしました。それでは、遅くなりましたがお昼ご飯にしましょうか」


 そうして始まった昼食を、俺は一心不乱に食べ出した。

 話し合いをしている時は感じなかったが、相当お腹が空いていたみたいだ。

 まあ、丸一日寝ていたわけだし腹も減るというものだが。


「そういえば、レレイナさんたちの屋敷はもう大丈夫なんですか?」

「はい。初日でアリーシャ様が人を遣わしてくれて、夜には掃除も済んでいました」

「さすがアリーシャですね」

「これくらいはやらないとね」

「マドカ様とユリア様はどちらに?」

「私たちはこのお屋敷の一室でお世話になっています」

「同郷だし、同じ部屋でね」

「いいですね! ……私も、誰かと一緒に話ながら寝てみたいです」

「だったら、今日一日くらいは私たちの部屋で寝泊まりしませんか?」

「い、いいんですか!」

「まあ、セバスさんの許可が出ればだけどね」

「よろしいですよ、レレイナ様」

「あっ! だったら私も一緒に!」

「アリーシャさんもぜひ!」

「楽しくなりそうだね」


 こんな感じで話が盛り上がっているが、途中から俺は話に交ざっていない。

 まあ、食事に集中していたからっていう理由もあるが、女性陣が話し出したら止まらなくなっていたのだ。

 盛り上がっているので止める理由もないし、仕方なくそのまま黙々と食事を楽しむことにした。


 そのまま食事が終わり食後の紅茶を啜っていると、アリーシャが口を開いた。


「さて、食事も終わりましたし話の続きを話し合いましょうか」

「場所はここでいいんですか?」

「構いません。見知った者しかいませんからね」


 俺の問い掛けに笑顔で返答してくれる。

 まあ、さっきの話し合いで一緒にいた人たちしかいないしな。


「魔獣の巡回ルートが分かれば、タイミングを見て倒しやすい魔獣から掃討していく方法が取れると思う。巡回しているなら、戦闘は避けられないからな」

「レベル上げにもなるし、それでいいんじゃない?」

「私も頑張るよ、桃李君!」

「それでは、ライアン兵士長とヴィル副兵士長にも通達しておきます。決行はいつにしますか?」

「スキルについてはグウェインが戻ってくるまで手を付けられないし、開拓は準備ができ次第でいいんじゃないかな?」

「私はいつでもいいわよ」

「私もです!」

「そうなると……」


 そこでアリーシャが言葉を区切ると、全員の視線がレレイナさんに向く。


「……え? わ、私ですか?」

「はい。レレイナ様の準備が整い次第、開拓を進めて行きたいと思います」

「……えっと、皆様は、魔の森の魔獣を倒す前提で話を進めてます、よね?」

「「「「はい、そうです」」」」

「……それって、普通の話なんですか?」


 アデルリード国では……というか、この世界の人たちからすると魔の森の魔獣は凶暴であるというのが共通認識であり、間違ってなどいない事実だ。

 俺たちが魔の森の魔獣を倒す前提で話を進めている事に疑問を思うのも理解できる。


「ここにはトウリさんがいらっしゃいますから」

「桃李君がいるから」

「桃李がいるからなー」

「まあ、概ね俺のせいですね」

「……さ、さすがは特級職、ということでいいの、かな?」


 腕を組みながら首を傾げているレレイナさんの姿が少し面白く笑みを浮かべてしまうが、このままでは話が進まないと口を開く。


「それで、準備はいつ頃できそうですか?」

「あっ! す、すみません。そうですねぇ……まあ、私は現場を見ながら博識スキルで疑問を呈するだけなので、いつでも問題ありません」

「でしたら、明日から早速決行いたしましょう。トウリさんは体調、大丈夫ですか?」

「問題ないですよ。飯を食べたら動きたくなってきたくらいです! レベル上げだって今なら――」

「「「無理」」」

「……で、ですよね~」


 いまだにレベル4の俺は、三人からの返答にため息をつくのだった。

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