第73話:自由とは程遠い異世界生活 12

 ――……ぅぅ……ぁー……うん、いつもの天井だ。


「……おはよう」

「と、桃李君!」

「トウリさん!」


 目を覚ました俺が見たのは、ベッドの横の椅子に腰掛けて下を向いていた円と、窓際の花瓶に花を活けていたアリーシャの姿だった。

 声を掛けると弾かれたようにこちらを向いて名前を呼んでくれる。


「だ、大丈夫なの、桃李君?」

「あぁ、大丈夫だよ。ごめんな、心配を掛けた」

「私はみんなに知らせてきます!」

「ありがとうございます、アリーシャ」


 部屋を飛び出したアリーシャが大声でグウェインを呼んでいるのが聞こえてくる。


「あの、桃李君。私が出て行ったあと、何があったの? アリーシャさんは、急に倒れたって言ってたし、心配で……」

「あー、えっと……ごめん、完全に俺のミス」

「そうなの?」

「うん。まあ、説明はアリーシャが戻ってきてからにしよう。それと、俺ってどれくらい寝てたのかな?」


 どうせアリーシャからも説明を求められるのだから、全員が集まってからの方がいいだろう。


「一日中寝てたんだよ?」

「一日か。ならまあ、問題はないな」

「えっ!? い、一日中だよ? 大変な事だよ!」


 以前には三日間も寝ていた時もあったわけで、丸一日くらいならどうってことはない。

 そんな事を考えていると、アリーシャがグウェインとユリアを連れて部屋に戻ってきた。


「トウリ、大丈夫なのかい?」

「あぁ、大丈夫だよ」

「あんたねぇ。心配かけさせないでよね?」

「マジですまん」

「それで、桃李君。自分のミスって言うのはどういう事なの?」


 円の言葉に全員の視線がこちらに向いたので、そのまま説明に入る。


「レレイナさんの博識ってスキルがあったでしょ?」

「はい。確か、いつの間にか増えていたって言ってましたね」

「そう! それで、後天的にでもスキルを得られると知ったから、スキルの習得方法を鑑定してみようと思ったんだけど、魔力が足りなかったみたいでね」

「……え? それってもしかして、魔力切れで倒れたって事?」

「そういう事だねー! あっははー!」


 ……うん、みんなの視線が痛い。


「ほ、本当に心配したんですからね!」

「そうだよ桃李君!」

「まあ、トウリならそうしそうだよね」

「でも、周りの心配も考えて欲しいところだわ」


 アリーシャと円からは怒鳴られ、グウェインとユリアからは呆れられてしまった。

 まあ、そうだろうな。少なくともレレイナさんと話し合いをしているところでやる事ではなかった。


「あっ! すみません、レレイナさんたちはどうしてますか?」


 俺のせいで話し合いが中断されてしまったはずだ。

 せめて一言謝らなければと思ったのだが、すでに屋敷にはいないらしい。


「レレイナ様たちはグランザウォールと宿場町を見てもらっています。ライアン兵士長とヴィル副兵士長も一緒なので問題はないと思いますよ」

「そっか。戻って来たら謝らないといけないな」

「レレイナ様、もの凄く慌てていましたからね」

「うぅぅ、マジで申し訳ない」


 ほんの数時間しか見ていないが、何となく慌てそうな雰囲気はあった。そして、慌てている姿も想像もできる。


「それで桃李。その、スキルの習得方法ってのは分かったの?」

「いいや。単に魔力が0になっただけで、分からなかったよ。これが分かれば、俺も魔獣を倒してレベル上げができるかなって思ったんだけどなぁ」

「魔力をあげるバナナを食べたらどうかしら?」

「それも考えたけど、実際にどれだけの魔力が必要になるのかが分からないんだ」

「また倒れられたら大変だもんね。だけど、その情報が得られれば大きな益にもなる」


 グウェインの言葉も間違いない。

 そして、その益は俺だけではなく他の者にも与えられる。

 ヴィルさんやライアンさんが先頭に特化したスキルを習得できれば魔の森の開拓も一気に進むだろうし、それは他の兵士も同様だ。

 さらに言えば、円やユリアの特級職、先生やギルマスのゴラッゾの上級職がスキルを習得できれば発展の速度は桁違いだろう。


「だが、そうなるとグランザウォールに多くの戦力が集まることになる」

「え?」

「そう、ですね。陛下に謀反の気配ありとでも思われたら……困ったものです」

「あ……そういう事なのね」

「有益な情報はそれだけで大きな武器になるか……全く、その通りだな。というわけで、スキルの習得方法に関しては王様の許可が貰えてからになるかな」


 俺の考えが正しければ、鑑定スキルでスキルの習得方法を知る事は可能だ。それは俺の魔力が0になった事が証拠だろう。

 意味のない鑑定なら消費されない、もしくは消費されたとしても0になる事はないはずだ。


「すみませんがアリーシャ、すぐにでも王様に伝えてもらえませんか?」

「分かっています。ですが、私はここの指揮を取らねばなりません。ですから……」

「うん、分かった。僕が行くよ」

「よろしく頼む、グウェイン」


 思わぬところから魔の森開拓の足掛かりを手にすることができた。

 だが、一番の問題はまだ片付いていない。そこを解決するには、王様の判断を待つしかないかな。

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