第29話:本当によくある勇者召喚 25
……ぅぅん……えへへ……。
「――……もう、食べられないよぅ」
「「「なんでそれ!?」」」
「ふへえ?」
目を覚ました俺の顔を覗き込んでいるのはアリーシャにグウェイン、それにリコットさんだ。
何故この三人が俺のベッドの横に……あれ、っていうか俺はなんで寝てたんだっけ。確かレベル上げをしに森の中に入っていたような……?
「トウリさん、自分のことが分かりますか? 私たちのことは分かりますか?」
「えっと、はい。俺は真広桃李で、アリーシャにグウェインにリコットさん……リ、リコットさん!」
「……マヒロ、本当にごめんなさ――」
「無事でよかったですよ! 怪我はありませんでしたか? 体の調子は問題ありませんか?」
俺はリコットさんを助ける為とはいえ、森の中に一人置き去りにしてしまった。
目を覚ました時にはとても驚いただろうし、もしかしたら護衛対象がいなくなって焦ったかもしれない。
そんな目に遭わせるつもりはなかったのだが……あぁ、俺もようやくあの時のことを思い出してきたよ。
「本当にごめん、リコットさん。置いていくつもりはなかったし、助けに戻るつもりだったんだ。だけど、あまりに疲労困憊で、ブルファングを倒してすぐに気を失っちゃったんだよ。あぁー、マジで無事でよかったー!」
「……マヒロ、それは私のセリフなんだけど?」
「えっ? 何か言った?」
「……うふふ、よかったですね、リコットちゃん」
「トウリなら許してくれると思っていたけど、まさか何も言わせないとは思わなかったな」
「ん? 許すって、誰が誰を?」
護衛をしてもらっていたのは俺なんだし、お礼を言うのは当然として、許す許さないの意味が分からないんだが。
「……マヒロ!」
「は、はい!」
「私は護衛として付いていたにもかかわらず、ヌメルインセクトに恐怖して冷静さを欠いただけではなく、そのまま気を失ってしまい助けられました! これは職務怠慢であり、処罰も覚悟しております!」
「……しょ、処罰?」
いやいや、何を言っているんでしょうか。
今回の一件に関して、リコットさんに悪いところなど一つもないではないか。むしろ苦手なヌメルインセクトを前にし、果敢に戦ってくれたのだから俺からあーだこーだ言うつもりはない。
むしろ、文句を言いたい相手は他にいるのだ。
「リコットさんを処罰する必要はないでしょう。それよりも――グーウェーイーン?」
「あははー……やっぱり、僕?」
「当然だろう! リコットさんがヌメルインセクトを苦手だって知ってて相手をさせたでしょう! あの状況、俺じゃなかったら確実に死んでたからな!」
鑑定士(神眼)の能力があって初めてあの場を切り抜けることができたのだ。レベルも1だったし、仮に他の職業だったとしても、ブルファングを倒せずにこちらが殺されていただろう。
……おいおい、今考えても恐ろしいことをしてたんだな、グウェインは!
「その件に関しては本当にごめん! リコットにも何度も何度も頭を下げたんだ!」
「当然だろう! 苦手を克服するにしてもやり方があるだろうし、もっと状況を考えてから行動してくれよな!」
「全く、トウリさんの言う通りよ。今回は二人とも生きていたし、被害がなかったから良いものの、もし何かあればグウェインが全ての責任を背負わないといけないのよ?」
「……軽率だった、反省してる」
……うん、本当に反省しているみたいだし今回は大目に見るとしよう。
グウェインも俺のことやリコットさんのことを考えての行動だったわけで、悪気があったわけじゃないだろうし。
「……こ、今度は安全ないたずらを――」
「分かってねえなこの野郎!!」
「じょ、冗談だから、冗談!」
「グウェイン!」
「……今度グウェインから依頼があっても、私は絶対に受けないからね!」
「ちょっと、リコット、冗談だって! 本当にごめんよー!」
「もう知らない!」
寝起きの人間を差し置いてこうも騒げるものかと内心で呆れながらも、これだけ騒がれるとむしろ心地良いとすら感じてしまう。
「そういえば、俺はどれくらい寝てたんですか? 丸一日とか?」
「トウリさんは丸三日、寝込んでいましたよ」
「三日ですか、それは結構寝てましたねー……って、三日!?」
俺の大声に、騒いでいた二人もこちらへ振り向いた。
「……俺は、そんなに寝てたんですね」
「はい。ですから、とても心配したんです。リコットちゃんも毎日こちらに足を運んでくれていたんですよ?」
「……その、やっぱり責任は私にあるからさ」
「そうだったんですね……ありがとうございます、リコットさん。俺の護衛がリコットさんで本当によかったよ」
「マヒロ……そう言ってもらえると、私の方が嬉しくなっちゃうわね」
丸三日寝ていたからといってリコットさんが責任を感じる必要は全くないし、毎日お見舞いに来てくれていたと知ればなおさらだ。
むしろ、俺が驚いていたのは――
「俺が丸三日も寝てたのに、グウェインはよく冗談が言えたもんだよねー?」
「えっと、それは、この場を和ませようとね?」
「……」
「……本当にごめんなさい! もう許してください!」
俺が無言で睨んでいると、耐えきれずに今日何度目になるか分からない謝罪を口にした。
その後は俺のお腹の具合が限界を迎えたこともあり食事を取り、今日までら大事を取って休むことになった。
確認したいこともあるのだが、それも明日に後回しだ。
今は休む、それが俺の仕事だからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます