第17話:本当によくある勇者召喚 15

 とはいえ、なんの理由もなくそう口にしたわけではない。


「もしかしたら、俺と同じように魔の森へ転移させられる異世界人がいるかもしれないから、なるべく安心して通れる道順を教えられたらなって思ったんだ」

「……で、ですが、今回はトウリさんが鑑定士(神眼)という特殊な職業だったからこそ生き残れただけで、他の初級職の方ではいくら異世界人とはいえすぐに殺されてしまうかと」

「そうですね、今回は僕も姉さんに同意です。トウリのような特殊な職業が頻繁に現れることもないだろうし、そもそもシュリーデン国側が(神眼)のようなケースがあると知れば、本当にただの初級職の異世界人しか転移して来ないでしょうから」


 二人の意見はもっともだが、それでも俺はできるだけ多くの異世界人を救いたい。

 生き残れる可能性が低いとしても、その確率を少しでも引き上げられるのなら行動してみたいのだ。


「転移魔法陣が移動することはないと思うので、そこにまずはここが魔の森だということを説明する案内板を立てます。そして、そこから一時的に能力が上がる果物がある場所を示す案内板も一緒に立てるんです」

「ですが、それだと辿り着けるかは運任せってことですよね?」

「そうなりますね。本当はグランザウォールと連絡が取れる道具とかがあればいいんだろうけど、ありませんよね?」

「そうだね。むしろ、そんな魔導具みたいなものがあったら僕たちが使いたいくらいだよ」


 俺のいた世界ではスマホがあったんだけど、今はそれを言っても始まらないよね。


「だから案内板なんです。壊されてもいいように立てておいて、レベルの高い冒険者の方に依頼して時折見回りをしてもらいます。残っていればそのままでいいですし、壊れていれば再度立て直す。仮に異世界人が生きてグランザウォールに辿り着ければ、ここはもっと発展すると思いませんか?」


 転移してくる異世界人は初級職のレベル1がほとんどだろう。

 だが、そのレベルを上げれば初級職とはいえ格段に上がりやすい能力値が職業のハンデを補ってくれるはず。

 ……まあ、その仮定には俺の能力値が上がって欲しいという願望も含まれているんだけど。


「……興味深い話だけど、受けてくれる冒険者がいるかどうかなのよね」

「領主からの依頼ってだけでも問題が起こるものなんですか?」

「レベルの低い冒険者とは上手くやれているんだけど、熟練の冒険者や中級職以上の冒険者はすぐにギルドが囲い込んでしまうから、こちらから依頼を出すと足元を見られてしまうのよ」

「そうなると、異世界人が来るよりも先に僕たちが破産してしまう。そして、領地運営すら冒険者ギルドに奪われかねないんだ」

「……そ、そこまで関係が悪化しているんだね」


 しかし、そうなると俺の考えを実現させるのは難しそうだな。

 この依頼を俺個人が出すにしてもよそ者扱いだろうし、説明しても信じてもらえるはずがない。

 発言力を持つ人が依頼してこそ意味があるんだよな。


「だけど、トウリがいればそこまでレベルが高い冒険者ではなくても行ける気はしているよ」

「ちょっと、何を言っているのよ、グウェイン」

「……どういうこと?」


 二人とも諦めていると思っていたのだが、グウェインだけは違うことを考えていたようだ。


「考えてもみてよ、姉さん。トウリの鑑定スキルは魔の森の魔獣を鑑定できるだけではなくて、視界に入れていなくても鑑定できるんだ。それに、探したいものがあればその場所まで案内もしてくれるんだから、魔獣を避けて目的の場所まで進める可能性もあるだろう?」

「ちょっと! それではトウリさんまで魔の森に向かうことが前提ではないですか!」

「えっ、俺はそのつもりで話してたけど? むしろ、俺がいないと転移した場所とか果物の場所も分からないし」


 俺が当然のように口にすると、アリーシャは気づいていなかったのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「……で、でも、危険であることに変わりはありません! 今のトウリさんはレベル1なんですよ!」


 そこが一番の問題なんだよなぁ。

 俺のレベルが上がらないことにはアリーシャから許可を得ることはできないだろう。


「それじゃあ、レベルが上がれば問題ないですか?」

「当然です! 最低でもレベル15は必要だと考えてくださいね! グウェインは絶対にトウリさんを守れる護衛を選んでね!」

「了解だよ、姉さん」

「それと、トウリさん。根本的な問題なんですが、一時的に能力を上げる果物については秘匿するので、今の内容では案内板を立てることができませんよ」

「……あー、そうでした」


 先ほどの意趣返しかのようにアリーシャがどや顔を浮かべている。異世界人を助けるということだけを考えていたのですっかり忘れていた。

 頭を掻いている俺を見ながら苦笑を浮かべていたグウェインは、立ち上がると俺たちに断りを入れてリビングを後にする。

 残された俺はアリーシャのことについて聞いてみることにした。

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