第3話 YouTubeライブ

今日の夜は、同じピアノ教室の生徒だったタオくんがYouTubeライブをすると告知していた。

宿題をしながらライブを聞こうと、スマホを机に立てかけた。


「こんばんは~音、聞こえてますか?」

タオくんのチャンネルは、登録者2,000人を超えていた。

ピアノ系ユーチューバーが最近増えているからライバルも多いけど、タオくんに興味を持ってくれている人もいるみたいだ。


「あ、ライブ50人超えてますね!ありがとうございます。一昨日から告知しててうるさくなかった?」


「楽しみにしていてくれてありがとうございます~今練習している曲?ええと今度コンクールの本選で演奏する曲ですけど、まだ動画を上げられる状態にはありません。でも、みんなに楽しんでもらえるよう、映画とかアニメの曲をアレンジして載せようと思ってるよ」


視聴者のコメントを読みながら、タオくんが話を進めていく。

コメントを読みだすと宿題が出来ないため、タオくんの声だけを聞きながらだけど、もともとお喋りなタオくんらしく、楽しく視聴者に話しかけている。


それにしてもすごいな、アレンジにも手を出すのか。

僕は曲を作るとかアレンジするとか、ちょっとやってみたことはあるけど、まったく長続きしなかった。

それよりも、作曲家の描いた楽譜を突き詰める方が面白いから、アレンジは多分向かないのだと思う。


「ゲームの曲もいいよね。何かリクエストがあったら教えてください。うん、あ、それはユーチューバーの人も演奏してるよね。かっこいいアレンジで。うんうん、あれカッコイイよね~~!」


「はい、ゲームも少しやりますよ。でもやり始めると時間がすぐ経っちゃって。ピアノ弾く時間も減るから、ほどほどに抑えてます。

え?あ、そうそう、あのユーチューバーの方、結婚発表されてましたよね!

おめでとうございます!

面識ないけど、いつかお会いできるといいなぁ。ピアノ系ユーチューバーでコラボとかさせてもらえるようになればいいですよね。東京近辺に住んでたら、コラボもしやすかったのかなぁ」


タオくんの進学した中学は、ここよりは都会だけど関東近郊ではないため、コラボは距離的にネックとなるのかもしれない。

人懐っこい性格だから、会ったら一気に可愛がられそうだけど。


「僕ですか?今中学2年ですから、14歳ですね。あのユーチューバーの人、大学卒業してすぐ結婚かぁ。22歳くらいですか?合ってます?

うん、早い?あ、でも経済的に問題ないんだったら、いいですよね。


え?僕ですか?そうですね、もし…もしも経済的な問題がクリアできるのなら、18歳でも結婚したいくらいですね」


まさかの発言に鉛筆が止まり、スマホの画面を見た。

一般的には突拍子もない発言と思われる内容に、コメントもたくさん書き込まれている。


『えーまじで?ありえねー』

『コドモらしいね』

『18歳はさすがに早すぎませんか?』

『純情なのよ、タオくん』

『結婚に夢見ると痛い目見るぜ』

『18歳となると、相手はいくつ?』


「え?そんなに変なこと言ったかなぁ?あれ~?

え~結婚って、好きな人と出来たらいいなって普通に憧れますけど。だって一緒にいれたら楽しいじゃないですか」


『若い!』

『結婚は墓場』

『同じくらいの年の相手だったら、向こうの親に反対されそう』

『18歳の男にムスメを任せられるか!』

『結婚を急ぎたい理由。もしや、好きな人は年上?』


コメントの内容は至極ごもっとも。

僕でも正直、そう思う。僕は16歳だから、あと2年後ということだ。

付き合うとかならともかく、結婚?

想像できる?

できないな。


「そりゃ、僕はまだ好きな人に告白もできないし、結婚なんて夢のまた夢ですけど。でも、何もしなかったら、他の人に取られちゃうかもしれませんよね。

親のすねかじってる状態なら結婚なんてできないと思っているけど、もしその辺りをクリアできるようになったら、結婚もしたいです」


『なんという純粋培養…』

『タオの純真、恐るべし』

『やっぱり好きな人、年上なんじゃ』

『私もそう思う、結構年上なのかも』

『そうだよ、同級生とかだったら、そんなに急がなくても』


「じゃあ、皆さん、大学卒業後の22歳くらいなら、別に普通ですか?うちの両親は大学卒業して1年後くらいに結婚したって言ってたけど」


『それなら、まぁ普通』

『でも今って、結婚年齢って30でもフツー』

『急いでしなくてもよくない?』

『独身のうちが華だよ』


「そうなのか~たしかに同級生に結婚の話をした時も、そんなこと言われました」


『同級生にもしてるのか。ネタじゃねぇな』

『ませガキ』

『いや、ただ単にタオくんが純粋』

『やっぱり、かなり年上の人に片思いだな』

『純真なタオくんだから、あんなピアノが弾けるんだね』


「で、皆さんは結婚してますか?ああ、色々なんですね。きっと僕の両親と似たような年齢の方も見てくださってますよね。ありがとうございます。え?おばあちゃんみたいな年齢って(笑)、そんなことないんじゃないですか?

そっか、でも早く結婚したいなんて、やっぱり変わっているのかもしれませんね」


コメントには色んなことが書かれていたけど、タオくんは否定することもなく受け止めて返答をしていた。ちょっと辛辣だったり、バカにしたコメントもあったけど、あまり気にしている素振りはない。


ただ、いくつかのコメントにある『かなり年上の人に片思い」はきっと正しい。

僕でも、はるか先生と20歳の年の差があるわけだから、タオくんはそれ以上だ。

普通に考えて、恋愛対象として見てもらえるはずはないけど、タオくんはそんなことは気にしていないように感じる。

それが幼さゆえなのか、天然なのかは分からないけど。


だからこそ、ひょっとしたら、あり得るかも?


僕がうじうじとしている間に、ひょいっとはるか先生を奪い去っていくタオくんを想像した。怖いものしらずの猪突猛進。


色々考えていたら、タオくんのキッパリとした声が聞こえてきた。


「でも、僕は好きな人のために努力してますよ。もちろん今でも」


画面に映るタオくんは、幼いようで男らしい。

そういうところ、僕なんかよりよっぽど大人だと思う。


ダメだダメだ。比べても仕方ない。宿題しよう。


タオくんに心を乱された気がして、僕はYouTubeを停止してスマホを閉じた。

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