第28話 低空飛行

ある日のお弁当タイム、ほたるは僕と陸郎のところに来て、一緒に食べると言い出した。

「え?今日は女子と一緒に食べないの?」

「うん、みんなもタケルと食べなって言うし」

「俺、邪魔じゃね?どっか行こうか?」

陸郎が気を遣って言う。


「あ、いいよいいよ、私が割り込ませてもらうだけだから」

ほたるは、あっけらかんと返答しながら、お弁当を僕たちの机の上に乗せた。


「ね、陸郎くんってどこ中出身?」

「俺、南中だよ」

「まじで?バレー部の美咲ちゃん知ってる?」

「クラス一緒だったよ、なつかしーな!」


ほたるは、誰とでもすぐに仲良くなる。まるで陸郎とほたるが付き合っているみたいに話が進んでいく。


「おい、タケル、お前もちょっとは話に混ざれよ」

「聞いてるよ」

「あ、いいの、タケルはこれくらいがちょうどいいから」


ほたるは幼馴染みらしく、僕のフォローをしている。僕の性格もよく分かっていて、無理に話をさせようとはしない。


「えーそういうもんなの?」

「そ。いつも低空飛行」


その低空飛行も、高校に入ってから少し上昇させているつもりだが、残念ながらそのようには見えていないようだ。


「そうそう、本題」

ほたるが、唐揚げを頬張りながら話しかけてきた。


「6月の予選、聴きに行ってもいい?」

「え…」


すごく意外だった。

ほたるはこれまで、僕のピアノを聴きに来たことはなかったからだ。


「興味あるの?」

「うん、聴いてみたいなって思って」

「そりゃお前、カノジョだもんな。当然だろうよ」


陸郎がチャチャを入れるようにからかってきた。


「6月23日だけど…」

「え~~~」


ほたるは、ガッカリした声でうなだれた。


「試合の日だぁ…」


その姿を見て、陸郎は決意したように立ち上がった。


「ほたるちゃん、俺がほたるちゃんの代わりにタケルの応援に行くであります!」


「陸郎くん~!いい奴~~!!」


ほたるも立ち上がり、二人でハイタッチをする。

なんか、この二人の方が気が合いそうだな。

僕はぼんやりと二人を眺めながら、お弁当を食べ進めた。

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