第24話 お弁当タイム
男子高校生の楽しみな時間といえば、お弁当だろう。とにかくお腹がすく。どんだけ飢えてるんだ!とお母さんによく言われるけど、朝ごはんを食べていっても、2時間目が終わればもうお腹がすいている。
ようやくお弁当の時間になり、陸郎と一緒に食べる。陸郎は偶然、机が横だ、というだけで話し始めたが話しやすく面白いやつだ。
今日も大きなサイズのお弁当箱にたくさん詰め込まれていた。
唐揚げが入っているのを見て、陸郎が言った。
「いいな~、タケルの母ちゃんって、男子高生の気持ち分かってるよな~」
「兄がいるからかも」
「え?兄貴いるんだ、初耳。いくつ?」
「うん、一つ年上のね」
「そっか、うちは妹がいるんだけど、母ちゃんと妹はパスタが好きとか言って、唐揚げとかあんまり作ってくんないんだよな。兄貴がいれば、母ちゃんも男子向けごはん作ってくれるのかもな」
僕はあまり話が得意ではないし、相手に自分の気持ちをうまく伝えられる自信もないから、口数が少ない方。陸郎はよく喋るから、会話が途切れることもないのが心地よかった。
「唐揚げ、食べる?」
「マジ!?食べる食べる!!タケルの母ちゃんありがとう~」
まるで神様に祈るように唐揚げに祈りを捧げてから、陸郎は唐揚げを頬張った。
『バッハのトッカータ』
急に気配もなく女子の声が響いてびっくり振り返ると、僕の背後にピアノコンクール常連で隣のクラスの絹さんがいた。
「・・・!!!」
陸郎は唐揚げを頬張りながら、絹さんを見上げた。
「それってヤバイ時のやつじゃん」
「ヤバイわけじゃないのか、でも唐揚げに救われていく感じが彼の状況に似てるわ」
陸郎は、なんのことかちんぷんかんぷん。
「ねえ、来月のコンクールの締め切り今日までだけど、もう申し込んだ?」
「GW中に申込してある」
「そう、結局、ブラームスのラプソディにしようと思うの。この前相談に乗ってもらったから報告しとこうと思って」
「そう」
絹さんのブラームスか。どんな演奏になるかな。
「唐揚げの邪魔をしてごめんね。それだけだから」
「いや」
颯爽と教室を出ていく絹さんを、陸郎が目で追う。
「やっべー。なんだろね、あの大人の雰囲気。なんだよ、お前、あんな美人に何相談されてたんだよ?」
「ピアノのコンクールの課題曲」
「はぁ?なにその高尚な感じ」
「べつにそんなんじゃないよ」
「すげーな、別世界じゃん。相談されるってことは、お前もかなり弾けんの?」
「いや、フツー」
「フツーな人に、あの美人がわざわざ課題曲を何にするか相談するはずねーだろ。でさ、トンカーツって何?」
「は?」
なんだ?それ…
お弁当タイムに入ってからの会話を思い出して、思いついた。
「バッハのトッカータか!」
曲名を知らない人が聞いたら、トッカータがトンカーツになったのか、はたまたひたすら空腹で揚げ物に飢えている陸郎ならではの耳の錯覚なのか。
「ちゃらら~鼻から牛乳~だよ」
「あ?なんなんだよ!それ」
こいつのこういうとこ、嫌いじゃない。
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