第20話 ゴールデンウィーク3

僕と望美ちゃん、太一くんは、レッスンスタジオを出て一緒に歩いていた。


「あの汰央くんくんのコメント、やばくない?」


恋バナ大好きな望美ちゃんが、面白そうに話してる。


「あ~でも、汰央くんにとって先生って特別な存在だろうし」


「そりゃそうだけどさ『はるかさんのために』なんて、なかなか書けないよ。でも、そうだね~あんなロマンティックな演奏ができる汰央くんならでは、とも言えるか」


太一くんは話に混ざってよいものか、迷っているようだ。高校生二人の会話は小学5年生にはとっつきにくいだろう。


「太一くんは先生のこと好き?」


望美ちゃんは、まだまだ恋バナがしたいらしく、太一君に聞いた。


「尊敬してます。多分、先生のところにレッスンに来てなかったら、こんなに弾けるようになってないと思うし」


「真面目な太一くんらしいね。まぁ、でもそうかもね。私も小さい頃からこの教室に通ってたら、もっと上手になれてたかも、って思うもん。あ、私、そこの信号渡るから、またね!」


太一くんと二人きりで少し歩くことになった。


「タケルくんは、小学5年の時にはどんな曲を弾いてましたか?」


「なんだったかな、シューマンの小品とか、ショパンのポロネーズとか。でもたった2ページだったよ」


「そうなんだ。僕も高校生になったらラフマニノフとか弾けるかな」


「弾けると思うよ」


「あ、ここ僕の家です。ちょっとだけ待っててもらえますか?」


太一くんは慌てて玄関を入っていって、お母さんを呼んできた。


「タケルくん、ちょっとなんだけどクッキー持っていって。今日の弾きあい会、私も行きたかったんだけど、太一に来るなって言われて…タケルくんの演奏聴きたかったわ」


「ありがとうございます」


「タケルくん、また弾きあい会で!」


多分、ゴールデンウィーク明け、5月20日頃も弾きあい会があるのだろう。僕たちはそうやって、時々集まってはそれぞれの演奏を披露して、他愛もない会話をしている。

それははるか先生の作り出した暖かい世界で、僕たちの頑張る原動力になっている。


「それにしても、はるか先生、ひどいな…」


ふと、汰央くんの返答を読んだ時の反応を思い出した。完全に子ども扱いだ。当然か。


「当然だ」


僕が同じことを書いても、きっと同じ…

日が長く始めた空を見上げたら、夕方5時半なのに青空だった。

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