第16話 バスケ部、始動
「キャプテンの
キャプテンが下がると、次の人が少し前へ出た。
「
「
「
最後に
「私が顧問の九間だ。まず一年生たちにバスケ部の実績と今後の目標を言っておこう。男子バスケ部は昨年秋の新人戦で県大会ベスト16まで勝ち進んだ。今のところはその記録が部の最高で、直近の冬大会や先月行われた春大会では残念ながら予選敗退している。目標は、六月に行われる総体で県ベスト16の記録を越えること。三年生にとってはその大会が現役最後となるので、一年生はできるだけ三年生の練習補佐や雑務を請け負い、サポートしてほしい。一方で、うちの部では基本的に実力に応じて試合に出すのが方針だ。早く上達すれば三年生や二年生に混じって試合に出ることもできる。ただし、いくら上手くなっても普段の練習態度を怠けるようならユニフォームは渡せない。上手くなると同時にチームメイトから信頼される選手になること。それが君たち一年生の最初の目標だ。わかったな?」
「はい!」
「
「オーーーーー!」
整然と列をなしてランニングに入りながら、舜也は心臓が高鳴るのを感じた。これから三年間、この体育館で戦いが始まる。バスケ未経験であるものの、舜也には小学三年から陸上で鍛えた身体能力と根性に自信があった。
やったるで! まずはベンチ入りしてレギュラーになることや!
ランニング、準備体操、フットワークが終わると、一年生は先週と同じようにコートから出てパスやドリブル練習を指示された。ドリブル練習はその場でボールをつくだけだが、それでも手元を見ずに真っすぐ前を向くと難しい。特に右利きの舜也にとって、左手でドリブルをつくのが難しかった。運動オンチのETにとっては右だろうと左だろうとどちらも同じなようで、しょっちゅう足にボールをぶつけては転がるボールを追いかけている。
「ドリブルで大事なのは視線を前へ向けること、そして膝を曲げることだよ」
広宣がみんなの前に出て手本を見せた。
「見てて。理想のフォームは膝を曲げたとき、膝小僧が自分の足のつま先よりも前に出ること。こうすることで左右に動きやすくなるんだ。逆にやっちゃいけないのは空気椅子みたいにお尻に重心を残して膝を曲げること。こんな感じ」
そう言うと、広宣はまるで今から便座に腰を下ろして用を足すかのように、お尻を後ろへ突き出した。
「やってみるとわかるけど、お尻に重心がかかったこの体勢だと俊敏に動きにくい。ちなみに正しいフォームはディフェンスの基本姿勢にもなるから。常に膝を軽く曲げて腰を落とす意識かな」
一年生は互いにフォームを確認し合いながらドリブル練習に励む。
一方で、舜也は初めて九間先生が実際に練習を指導するところを見た。頼りなさそうな外見とは違い、練習中はキビキビと声を出している。時折、選手たちの動きを止めてコンビネーションについて注意したりもした。
部活見学期間と違うのは、先輩たちが十分間休憩する間、一年生はコートに入ってランニングシュートを打つようになったことだ。いわゆるレイアップ。走り幅跳びのように前へ跳びながら放つこのシュートは、足取りのコツを掴むのが肝心だった。ドリブルした状態からボールを手に持ち、一歩、二歩目で跳躍してゴール下からシュートを決める。舜也は広宣のフォームを得意のモノマネで簡単に成功させたが、このシュートもまた、左側から放つシュートが難しく、足の動きが混乱した。ドリブルにしてもシュートにしても、利き手の反対でこなすのが難しい。
「
広宣が指摘したので舜也が顔を向けると、ETは知恵の輪に取り組むように難解な顔をしながらシュート体勢に入った。二歩目で地面を蹴って跳ばなければならないのに、一歩、二歩、三歩と歩んでからぎこちなくシュートを放ち、シュートも外れる。
「ボールを持ったまま三歩以上歩いちゃ駄目なんだ。審判に笛を吹かれて相手ボールになる」
「わかっちゃいるけど、こう…難しいんだよ」
見かねた九間先生がETに近寄って指導した。
先輩たちの休憩が終わると、一年生は再びコートから出てボールを使った練習をこなしていく。次にコートへ入ることが許可されたのは、先輩たちのシュート練習のリバウンドを任されたときだった。先輩たちが各々の場所からシュートを打ち、ゴールに入ったボールや外れたボールを一年生が拾い、再び先輩にパスする。野球部でいうところの球拾いのようだ。
それが終わると、今度は腕立て伏せや腹筋、背筋の筋トレに移り、最後に先輩たちの五対五のゲームを観戦して整理体操に入った。舜也にしてみれば不完全燃焼で、体力はまだ有り余っている。ま、はじめのうちはこんなもんかと思いながら、体操後、モップで体育館の床を掃除した。
終わりのミーティングでは、九間先生は一言も一年生の話題に触れなかった。練習やゲームを見たうえでチームの弱点やその補強方法を述べ、今後の練習の課題を告げて「以上」と締める。
「きょうつけ!」
沖キャプテンが鶴の一声を発すると、部員全員が背筋を伸ばした。
「ありがとうございました!」
キャプテンがそう言って一礼すると、先輩たち全員も揃って「ありがとうございました!」と唱和して、一礼を
九間先生が体育館から出て、その日の練習は解散となった。
「うーん、走り足らんな~」
言いながら、舜也は練習で使っていたTシャツの上にカッターシャツを着て学ランに袖を通した。ほとんど汗もかいていない。
「まずは先輩の動きを見て覚えろってことさ」
広宣が水筒のお茶を飲みながら言った。
「もし体力に余裕があるんだったらこのあと自主練に付き合ってみる?」
「自主練?」
「うん。もともと兄貴が始めたんだけど、練習後に学校裏の坂道使ってフットワークやってんだ。今のところ俺と兄貴だけがやってるんだけど…」
「やる。ちょうど良かったわ。なんぼでも付き合うで」
「よっしゃ」
他の一年生たちと別れ、舜也は広宣と兄の沖キャプテンに付いて学校の裏側へと向かった。
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