第15話 ドレミファソラシ
入学式を迎えてから二週目。
満開に咲いた校庭の桜もついに地面に撒かれた花びらだけを残して姿を消し、代わって太陽の光を一身に浴びようとする新緑の葉が木の枝を覆い隠した。時折降る雨が少しずつ春の彩りを変えていく。部活見学期間が終わり、正式にバスケットボール部へ入部した一年生は、合計で十九人となった。新たなメンバーを加えて始動する一回目の練習では、顧問の九間先生も含めた全部員が集合し、自己紹介を兼ねたミーティングが
意外だったのは、部活見学二日目からめげずに毎日通い続けたETも入部したことである。こうして一列に並んでいると、やはりパーマのような癖毛の頭が他の生徒の頭から飛び出していて目立つ。今はまだ運動能力において他の生徒より後れを取っているが、何かキッカケをつかんで上手くなればすぐさま戦力として重宝されるはずだ。
「今年は十九人か~。わりと大量じゃん」
あっけらかんと土居が言った。九間先生が咳払いして引き締めると「次は二年生。一列で前へ」と指示を出した。一年生と向かい合わせるようにして、二年生が並び立つ。端にいた土居から始まった。
「
「待て待て待て」
二年生がどっと笑い、場が和んだ。二年生の列の中央にいた小柄で丸顔の生徒が叫ぶ。
「お前の趣味は映画だろ。恋愛映画」
「え、土居さん恋愛映画なんて観るんですか?」
舜也が思わず聞くと、土居は照れくさそうに言った。
「それほどってわけじゃねえよ。ただ、たまにテレビで放映するのをな」
丸顔の先輩が補足する。
「去年さ、〝宇宙の中心で愛を叫ぶ〟って邦画あったろ? 健吾はあれ一人で三回観に行って三回とも号泣したという伝説を…」
「わーっ! 言うなそれ個人情報だろ! しかも泣いたのは二回だからな!」
はっと気がついて土居が一年生へ顔を向けると、一年生は一人残らずドン引きしていた。二年生の列の後ろにいた三年生たちからも奇声が上がる。
「マジかよ健吾…」
「現代に蘇ったネアンデルタール人みたいな顔のくせして」
「断じて顔は関係ないでしょ! 沖さんもそんな哀れんだ目を向けないでくださいよ!」
ひとしきり騒いだ後、土居は開き直って一年生に向き直った。
「彼女募集中。可愛い女子いたらいつでもどこでもすぐに連絡くれ! いやください!」
「なんで敬語!」
一年生はもちろん、その場にいた全員が笑った。続いて、土居の横にいる細身の先輩が顔を上げる。土居よりも三センチほど高く、バスケ部の中で一番身長が高い人だ。
「
一年生が揃って「お願いします」と一礼した。三人目は、入学式の日にシュート勝負した三上だ。
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四人目はキツネ顔の先輩だった。土居、冷前先輩に続き、二年生の中で三番目に背が高い。
「
一礼しながら、一年生全員がこの人は怒らせては駄目だと悟った。
「
「
「
お願いしますと一礼してから、ふと舜也が呟いた。
「この順番の先輩たち、苗字の頭文字だけ取ったらドレミファソラシですね」
「え?」
土居さんたちが狐につままれたように互いを見つめた。
「おお! すげえ! ホントだ。ド、レ、ミ。フア、ソ、ラ、シだ! 気付かなかった!」
「なんたる偶然!」
「
二年生全員が盛り上がる中、土居が大声を上げた。
「おっしゃあ! シの次は誰だ!」
「
先ほど土居の恋愛映画観賞の趣味をばらした丸顔の部員がおずおずと名乗った。途端に二年生が落胆する。
「なんだよー! シの次はドだろ! 山田、もうお前今日からドヴォルザークって名乗れ」
「誰だよ!」
こうして進みながら二年生の自己紹介は終わった。二年生は総勢十七人。続けて三年生の自己紹介となったが、三年生は全員で四人しかいない。
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