第23話 黒衣の男

「父上、私がこの方が信頼に足る方だというのは保証いたします。

 どうかお話をお聞き下さい」


 今まで静かにやり取りを聞いていたメアリー王女が、

 感情を抑えた声で、しかしきっぱりとそう言った。


「そうか?こんな小童に領地経営を任せても良いとな?考えてることはご立派じゃが、所詮は小童じゃ。

 わしの金が減ってしまうわい」


 不機嫌そうな顔で言い放つ国王。


 そこで隣にいた黒衣の男がすっと立った。

 何者なんだろうな?ちょっとだけステータス見てみようかな……


 名前: ????

 年齢: ???

 性別: 男

 種族: 人間

 レベル: ???

(レベルが相手の方が上である為、鑑定できないステータスがあります。)


 スキル一覧: 現在非表示の状態


 ん?レベルが上だと見れないの?

 さすがに情報が保護されているのか……


 その謎の黒衣の男は王に何か耳打ちをした。


 国王はふむ。と頷くと、


「残りはお前に任せる。

 お前の一存で決めて良い。王家に利するものであれば領地を渡す手続きをしよう。

 そうでなければ追い返せばよい」


 と黒衣の男に言って、謁見の間から退出した。


 王家専用の扉から出た後、はぁ……とスカーレット33世は大きくため息をついた。


 そして……そして、ニヤリと笑った。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼


 国王が出て行った後。


 黒衣の男はメアリー王女に恭しく頭を下げると、僕の方を向いた。


「ではここからは私と話をしましょう」


 黒衣の男は想像よりも丁寧な対応をしてくれた。そして結構饒舌であった。


「私はローテン王国で現在宰相をしております、ニコライと言います。

 あ、名前の響きが不思議でしょう?

 北方の出身の家に生まれましたので、北方の方の言葉ですね!!


 それから、宰相と言っても、あまり私が表に出ることはないのでフラートさんたち国民は私のことをよく知らないでしょう。


 仕事は簡単に言えば国王の補佐ですね!!」


 めちゃくちゃ喋るなこの人。

 裁判官のような黒い服を身にまとい、すらっとした出で立ちで、首には赤い剣を象ったペンダントがついたネックレスをつけている。


 来ている服を見てたら怪しいが、あの冷酷な国王のもとで本当に働いてる人なのか?と不思議に思うくらいには気さくな感じだ。


 ただ、さっきの謁見中の立ち振る舞いを見てたらかなり仕事はできそうな人なので、パブリックでは冷酷なのかもしれない。


 そう簡単に気は許してはいけないな。

 さっきのステータスが見えなかったのも気になるし。


「あー!そういえばフラートさん!!

 さっき私のステータス見てましたよね??」


 え?バレてる??


「いやーなかなかえっちですね笑笑

 あんまり覗き見ないでくださいよーお恥ずかしいー!!」


 あらっ?

 なんか拍子抜けしたな……


 んもー……!!と言って

 ープンプンという効果文字が似合いそうな感じでー頰を膨らませていた。


「なかなか、個性的な方ですね……」


 なんとも言えない気持ちで、メアリー王女の方を向くとニヤリと笑っていた。


「変でしょう。そうでしょう!!

 私もこの変人さに付き合わされて困ってるのよ?

 でも父上と違って悪い奴じゃないわよ。

 こんなんで仕事はできるからたちが悪いのよねぇ」


 とか言ってる……


「さ!さ!王女様!!フラートさん!!

 こちらが宰相室です!!!

 こちらでお話ししましょう!!」


 ▼▼▼▼▼▼▼▼


 宰相室はそんなに広くないが小綺麗な部屋であった。

 壁中に本が並んでいて、宰相ニコライの勤勉さを表すかのようである。


「さ!さ!お茶をどうぞ!!最高級品ですよ!!」


 なんか、ものすごくいい待遇だな?


 そうして出されたお茶を飲む。確かに美味しい。

 ミーシャさんが入れてくれた紅茶のようなものも良かったけど、このお茶はさらに深みがある。


 美味しい。


 そう思いながら……

 でもこのお茶も、この王国のどこかで、誰か虐げられている人々が作ったものかもしれないな……

 と思う。


「今フラートさんが何思ってるか当てましょう。

 今、高級なこのお茶飲んでる間も人々は苦しんでるし……なんなら、このお茶もそういう人が作ったかもしれないし……

 みたいなこと思ってませんか?」


 ニコライはニヤリと笑う。


 僕は自分の心を見透かされてしまったことに驚く。


 驚いて目を見開いていると


「なんで分かった?という顔ですね。

 簡単ですよ!!さっきのフラートさんのお話は基本的に民のみなさんのことを考えてのことなんでしょう?

 私もこの現状は変えたいと前々から思っていましたからね」


「そうなんですか?!」


「ええ!!ここだけの話、私もあの王様にはうんざりしてますからね……

 上辺だけ取り繕ってるんですよ。メアリー王女と同じですね」


 ふふっと笑った。


 メアリー王女も、そこまでお見通しなのね……と呆れ顔だ。


 この宰相、人の心を見抜くのが得意みたいだ。交渉とかで心理戦をするには厄介そうだな、ははは……


 そうこうしていると


「じゃあ、フラートさんの考えが聞きたいです!!

 国王はあのようにおっしゃいましたが私はあなたを領主にするのは面白そうなので、賛成します。

 考えを聞くのは単に興味本位です!!」


 裏表があるのかないのか……掴み所がない。


 こうして僕は宰相ニコライに僕の考えを話したのであった。

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