第62話 石見吉見

天文二十一年(一五五二年) 一月 但馬国二方郡芦屋城 塩冶 彦五郎


 年が明けた。なのでそろそろ京へ向かうことにする。いつまでも民部少輔を待たせるわけにはいかない。尼子甚四郎吉久を供に、あと数人を連れて京へとのぼる予定だ。


 そんな矢先に弥右衛門が吉見大蔵大輔広頼を伴って大内領より戻ってきた。どうやら父の吉見式部少輔も劣勢を自覚しているのであろう。せめて子だけでもという思いから俺の元に送ったはずだ。


 大蔵大輔の護衛である吉見家の家臣、下瀬加賀守頼定という剛の者も一緒だ。彼は吉見氏の支流に当たるのだとか。であれば、俺とも親戚筋といっても過言ではないだろう。


 戦の最中、しかも劣勢だというのに貴重な戦力をこちらにこれだけ割くとは。それだけ息子が大事なのだと見受ける。


 それであれば、俺は想いを汲むまでである。必ず公方様の元まで送り届けよう。俺は大蔵大輔と加賀守の二人と面会し、自己紹介を行う。一応、石見吉見氏の本家は向こうだ。下手に出ておこう。


「お初にお目にかかりまする。某、塩冶彦五郎と申しまする。いや、吉見兵部大輔範仲の息子と申した方が宜しいか」

「どちらでも構わぬ。某は吉見大蔵大輔広頼である。この度はご配慮いただき誠に忝い」

「下瀬加賀守頼定でございます。此度は若君の件、誠にありがとうございまする。殿も感謝してござった」

「何を申されますか。同じ吉見氏として協力するは必定。お互いに力を合わせていこうではございませぬか」


 陶尾張守に進物を贈っておいて良く言う。自分で自分が嫌いになりそうだ。ともかく、彼を公方様の傍に捻じ込まねば。吉見氏であるから奉公衆に加えてもらえるだろう。何なら俺の代わりでも良いぞ。


 出立する前に弥右衛門に指示を出す。それは下瀬加賀守を味方に引き入れよと言う命だ。今すぐとは言わないが、いずれは麾下に加えたい人物なのは間違いない。


 忠義に篤く剛の者。なんでも弓を得意とし、「鰐加賀」なんておい二つ名まで持っているくらいだ。先の大内家の内紛の時も益田何某と言う武将を追い払っている。家臣にしたい。それであれば、逆に吉見式部少輔は邪魔だな。


 俺は陶尾張守に暗に与している。が、それはまだ吉見式部少輔には露見していないようだ。していたら子息を送ってきたりはしないだろう。しかし、それも時間の問題である。であれば、露見する前に何とかしたい。


「密かに消しますか?」


 そう提案してくる弥右衛門。暗殺か。露見した時が危ない。リスクが大き過ぎるので、それは却下だ。冷静に考えろ。今、下瀬加賀守が此処にいるせいで吉見式部少輔の本陣が手薄なのか。それを上手く使えないだろうか。


 下瀬加賀守を芦屋城で手厚くもてなし足止めをする。その間に蒲殿衆が陶尾張守の元へ走り、このことを伝えるのだ。下瀬城が落ちれば主家との対立を煽れるか。しかし、下瀬家は親子揃って武勇に優れているんだよなぁ。


 あとは出たとこ勝負だ。これが駄目だった場合、潔く諦めるとしよう。弥右衛門にそれだけを伝えてこの話を打ち切りにする。何としてでも毛利に流れるのだけは阻止したいところであった。


————


何度もごめんなさい。

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