第39話 論功
天文十八年(一五四九年) 八月 但馬国二方郡芦屋城 塩冶 彦五郎
治郎左衛門が戻ってきた。それと合わせて諸将を芦屋城に呼び出す。源兵衛に勘兵衛、弥太郎に五郎左衛門である。それから弥右衛門も呼び出した。みんなの前に現れるのは初めてのはずだ。
全員が揃ったのを確認してから俺が口を開く。まずは感謝を述べるつもりだ。しっかりとこちらの意思、意図を伝えておかねばすれ違いが生じるからな。
「皆の者。此度の戦、誠に大義であった。皆のお陰で七美郡が正式に我が領地となることが御屋形様に認められたぞ。改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」
「我らにはもったいなきお言葉。これからも殿を支えるために全力を尽くす所存にござる」
治郎左衛門が代表して返答した。俺はそれに満足そうに頷く。きちんとリアクションを返してやるのも大事なコミュニケーションだ。それを疎かにしてはならない。
「此度の戦は全員に功があったと俺は考えている。その中でも第一功はそこの弥右衛門よ」
そう言うと皆の視線が弥右衛門を捉えた。思わず弥右衛門が頭を下げる。良い機会だと思い、俺は皆に弥右衛門について話すことにした。
「弥右衛門はな、俺が新たに召し抱えた忍衆の頭領よ。出自が同じなので蒲殿衆と名付けた。田公土佐守の出兵も田結庄左近将監の裏切りも全て蒲殿衆の知らせよ。これからも頼りにしている。俺を助けてくれ」
「畏れ多き言葉、身にあまる光栄にございまする」
俺は弥右衛門に感状を手渡す。もし、当家が潰れて再就職するとなったら有用になるだろう。まあ、まだ潰す気はさらさら無いが万が一ということもある。
「それから南条勘兵衛。柤大池砦をよう守りきった。其の方が居なければ負けておっただろう」
「勿体なきお言葉、忝うございまする」
「其の方には褒美として銭を十貫つかわす」
俺は後ろに用意して居た十貫を南条勘兵衛の前に置く。彼もまた我が塩冶家に必要な人材だ。みすみす手放すようなことはしなくない。
それから田公土佐守を討った源兵衛にも褒美を与えた。源兵衛を土佐守の居城である城山城に城代として入れることにする。弥太郎と五郎左衛門には後でこっそり何かあげるとするか。今回は全員で掴み取った勝利なのだから。
「それよりもだ。治郎左衛門、御屋形様の様子は如何であった?」
「はっ。最初はごねましたが左近将監殿が道理であると仰られると御屋形様もすんなりと同意され申した」
「そうか……それは怖いな」
「怖い、でございますか?」
「そうだ。考えても見よ、ごねていた男がいきなり同意したのだぞ? 何か裏があるに違いない。弥右衛門、それを突き止めること能うか?」
「お任せくだされ」
やれやれ。せっかく領地を広げることができたと思ったんだが、これは御屋形様を敵に回してしまったのかもしれない。事を急ぎ過ぎたか。悪手の予感がする。
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