第33話 田公
天文十八年(一五四九年) 六月 但馬国七美郡城山城 田結庄左近将監是義
「何!? 塩冶の小倅が其のようなことを申しておったのか!?」
「そうじゃ。あれはお主を嘗めて掛かっておるな」
「あの小僧めっ!」
目の前にいるきつね顔の男こそ、田公土佐守その人である。土佐守の奴、完全に頭に血が上っておるな。まあ、無理もないだろう。年端もいかない稚児に馬鹿にされるなど面子も糞もあったものではない。
「左近将監殿、某は決めましたぞ! 塩冶を滅ぼすと!!」
「それが宜しいでしょうな。何、塩冶は若狭守が亡くなって家臣が見限ったとも聞く。今が好機であろう」
そう告げると自分も同じ考えだと言わんばかりに頷く田公土佐守。悪いが村井殿が申していたことを少しだけ誇張して伝えさせていただいた。なに、少しだけよ。
「土佐守殿、我らも協力いたしましょう。過去のわだかまりは捨てようではありませぬか。兵を……そうですな。百ほど派遣しましょう」
田公氏はたしか日下部氏の支流の家だ。同じ日下部氏の太田垣と八木がどちらが日下部氏の長者なのかで争っていたはず。そして田公土佐守はいづれに付くか揺れていたはずだ。
そのため、どこからも援助してもらうことはできぬ。どちらか一方に肩入れすることになるのでな。なので儂が援助してやるだけのことよ。なに、バレなければ良いのだ。垣屋? そんなもんは知らん。
「おお、忝い!」
「その代わりと言っては何ですが、塩冶を滅ぼした暁には浜坂の辺りを貰い受けたい」
二方郡で旨味があるのは浜坂か神鍋かのどちらかである。そして行く行くは垣屋の領地も奪うつもりだ。それであれば浜坂を貰う方が利になるだろう。
そしてそこに奈佐日本之介を任せる。彼奴のことだ、周辺の領地を荒し回るだろう。垣屋の兵が西に寄った隙に東側を奪い取る。其の時は土佐守にも協力願うか。よし、これで行こう。
「なに。神鍋の平原を丸っともらえるのだ。悪い話ではないと思うか如何か」
「確かに左近将監殿の仰る通りだ。今は少しでも兵が欲しい。確実に塩冶を潰すための兵を」
これで話はまとまった。土佐守の兵が百五十くらいか。そして儂が百を送るから合わせて二百五十。塩冶は集めることができて二百そこそこだろう。うむ、間違いなく勝てる。兵数の寡多は兵法の基本じゃ。
「それでは兵を百ほど派遣する故、暫し待たれよ。到着してから一気に攻め上がれば良い」
「ご助力忝い。必ずや塩冶の首をご覧に入れてみせましょう」
「期待しておるぞ」
戦は七月になるであろう。刈り取り前に一戦と言うところじゃ。さて、儂も戻って援軍の用意をせねばなるまい。恨んでくれるなよ、村井殿。それもこれも戦国の世がいけないのじゃ。くっくっく。
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