第117話 昔話
「そうか…」
俺がエルフの王からの伝言を伝えている間、ダークハイエルフはただ黙って聞いていた。
そして、伝言が終わると、ダークハイエルフは一言そう言って空を見上げた。
「このタイミングで急に父上が言うということは、覇王様には私をここから連れ出したい目的があるということか?」
「ああ。そうだ」
1分程で再び前を向いた涙目のダークハイエルフは俺にそう問いかけてきた。察しのいいダークハイエルフにコボルトについての話して協力を求めた。
「なるほど…エルフには人員の余裕はないから、余っている人材である私の力を借りたいということですね」
「ああ…」
さっきから詳しい説明をする前から、こちらが何を言いたいのかを分かってくれている。これは元王女だからなのか、エルフの長寿が所以なのか。
「分かりました。条件付きでその頼みは聞き入れましょう。エルフだけ協力しないというのは体制が悪いですから」
「えっと…なんかごめんね」
他の種族達が協力するのに、エルフだけ協力しないというのはできないか。拒否権がほぼない提案をしてしまったかもしれない。しかし、それはドワーフなどの他の種族にも言えることだ。だから、今さらエルフだけ参加しなくていいよなんて言うことなんてできない。
「いいですよ。元より、私が参加しただけで覇王様の加護を得られるのですから。エルフにとって得でしょう」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとう」
社交辞令かもしれないが、そう言ってもらえると気持ちが少し軽くなる。
「条件の話に進んでもよろしいですか?」
「あ、いいよ」
ダークハイエルフはコボルト討伐を手伝う条件を言い始めた。
「まず、1つ目の条件はコボルト討伐時以外はこのダンジョンでエルフを陰ながら守る事を許可してくださいということです。
私は堕ちた身ですが、心は誇り高いハイエルフの第1王女のつもりです。王女として国民は守りたいのです」
「…そういうことなら構いませんよ」
「ありがとうございます」
例え、もうエルフの国に入ることを許されていないとしても、エルフのことを何時でも守れるようにこのダンジョン内に居たいそうだ。下の階からモンスターが上にやって来ないと決まっている訳では無いからだそうだ。
「それと、もう1つの条件は私に名付けするということです。しかし、こんな得体の知らない同族殺しに名前を付けたくないと思います。ですので、少し昔話を聞いてください。もしその話を疑うのであれば、エルフの国で国王様に確認をとってもらっても構いません」
「…ああ」
ダークハイエルフはそれから、昔にあったダークハイエルフになった出来事を話し始めた。
「…私が殺した相手はエルフでは珍しい同い年の女性のエルフでした」
エルフは出生率が低いため、同じ年に生まれるということはかなり珍しいそうだ。
「私とその子は同い年ということもあって、身分なんて関係なく仲良くしていました」
その相手は一般家庭に生まれた子だったそうだが、それでも仲良くしていたそうだ。
「私が将来、女王になって、その子が私の護衛になって私を守る…なんて将来の話をしていたりもしました」
話を聞く限り、仲睦まじい普通の幼なじみだ。
「そんなその子と関係が悪くなったのは、私がハイエルフに進化してから…いえ、もっと前からでしょうね…。
元々、ハイエルフの血が混じっている王家の私とその子では成長スピードが違いました。同じ量の練習をしても、ステータスやスキルレベルはどんどん差がついていきました。」
エルフの初代の王はハイエルフだったそうだ。と言うよりも、ハイエルフの初代国王がエルフをまとめあげてエルフの国を作ったそうだ。
そして、そんなハイエルフの血を継いでいるので、他の誰よりもずば抜けて精霊との相性が良かったそうだ。
「私が女王になるために帝王学などを学んでいる間でも、その子は私に追い付かけるように努力していたそうです。ですが、私とその子の差は広がる一方でした。
…今にして思えば、その子の努力はがむしゃらにやっているだけで質が良いとは言えませんでしたね」
その子はそれからも努力をしていたそうだが、差が広がり続けていくことで、どんどん腐っていったそうだ。
「私はその子の変化に気付けませんでした。プライドでしょうかね。私の前では特に強がっていましたから」
その子は絶対に自分の前では弱いところを見せなかったそうだ。というよりも、誰の前でも弱いところは見せていなかったそうだ。
「……そして、私がハイエルフに進化して十数日後のある日に行方不明のエルフが3人出ました」
「え…それって…」
この話の流れでそう言うということは、犯人は…。
「私に追い付けるように人一倍努力をしていたその子にとって、平和な日常に住んでいるか弱いエルフを眠らせてバレずに攫うことなど簡単でした」
「一体、何のために…?」
やはり犯人はその子だったそうだ。でも、エルフを攫う目的がないような気がする。
「人間にエルフという容姿が良い人に似た種族がいると伝えるためです」
「え!?それは…」
「その子は人間にエルフを売ったのです。エルフという種族がいると知った人間共は、容姿の良いエルフを奴隷にしたい思ったそうです。その子はそんな人間共を結界内に大量に連れ込みました。そして、人間共はエルフに気付かれぬように、私達を囲むように森に火を付けました」
エルフの国の森には誰かが立ち入らないように無意識に遠ざける結界があるそうだ。それはエルフと一緒ならば、効力は発揮されなかったらしい。
「精霊魔法が得意なエルフは急いで火を消そうとしました。しかし、それが罠でした。一生懸命に火を消しているエルフを人間共は殺していきました」
あくまで人間の目的は容姿の良い奴隷を手に入れることで、強い魔法の使い手は面倒な抵抗されるだけで邪魔な存在だったそうだ。だから火を消しているエルフは躊躇いなく殺されたそうだ。
「私は強かったので、火を消すのでは無く人間共を殺して回っていました。その時にその子と会いました。私は人間共を殺す手伝いを頼みましたが、その子は今回の事件の手引きは自分がしたと言いました。
私は信じられませんでした。しかし、次のその子の発言でそれらが事実だと気付きました」
そこで一旦話を止めて、決心するかのように1回大きく呼吸してから続きを話し始めた。
「その子は
「これで、私は君より強くなれるよ。安心して、約束通り私は君を護衛として守るから。人間達はエルフの男を数人くれるらしいから、2人で国を作ろうよ。もちろん、君が女王で、私が護衛だよ。さあ、一緒にエルフを殺しに行こうよ。私達は疑われないから、逃げたエルフの集団に2人で魔法を放てば一気に殺せるよ。2人で1から始める国に邪魔者は要らないよね」
っと言いました」
その子は人間達から精霊魔法よりも強い特別な魔法を教えるのと条件にエルフの国に案内したそうだ。
「まだ人間共は数多くいる。まだ火は森を燃やしている。こんな状況でその子を幽閉する時間は誰にもありませんでした。また、その子を放置しても、エルフに死人が出てしまう。もう私が取れる手段は1つでした。
私のせいでおかしくしてしまった幼なじみでもあり、親友でもあるその子を私の手で殺すしかありませんでした」
また、その子を実力的にも確実に殺せるのは自分だけだったそうだ。
「だから私はせめて苦しまないようにその子の首を精霊魔法で跳ねました」
その後は無我夢中で火を消し、人間を殺していたそうだ。火を消し終わり、人間が居なくなった後に返り血に染まった体を魔法で綺麗にすると、その時には肌は真っ黒になっていたそうだ。
「余談ですが、それからもエルフを狙う人間は多くいました。エルフは逃げ続けました。…その間、ダークハイエルフとなった私はエルフを追う人間共を1人で殺して回りました。
その時に知ったのが、その子に教える魔法なんてありはしなかったということです。私とその子も漏れなく奴隷にするつもりだったそうです。
本当に救えない話ですよね。
長話に付き合ってくれてありがとうございました」
ここでダークハイエルフの昔話が終わった。
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