第111話 想定外
「よっ」
俺は魔竜の目の前に隠密を使って降り立った。
「結界魔法・常闇」
結界魔法を使って俺と魔竜を囲むように結界を作った。外からは急に魔竜が黒い半円に取り囲まれたように見えているだろう。
「グア…」
「あ、バレたか」
隠密を使っていたとはいえ、魔竜クラスの魔物の前でこんな大規模な魔法を使ったらバレるよな。バレているのなら…と俺は潔く隠密を解除した。
「どのくらいボコればいいかな?」
『今回はリュキの時の仲良しテイムとは違い、無理やりテイムになります。そのため、残りHPが1割程になるくらいまでお願いします。その加減については私も協力して調整します』
「ありがとう」
俺の究極テイムというスキルはその仲良しテイムと無理やりテイムを極めたものだ。リュキは最初から俺に好意的だったから、戦闘もせずに仲良しテイムでテイムができた。しかし、最初から好意的では無い今回の場合は力の差を分からさせて、無理やりテイムを行う。
「…あれ?」
俺と魔竜との距離は3mくらいしかない。だからすぐにでも攻撃をしてくると思っていたのだが、ナービとの話しが終わっても全く攻撃が来ていない。
もしかして俺のことに気付いていないのかと思ったが、目線では完全に俺の事を見ている。
「え?生きてるよね?」
『…そのはずです』
生きているのか不安になるほどまで全く動かない。少し心配になりながらも、俺はとりあえず魔竜へ向かって1歩踏み出した。
ズズ‥
「ん?」
俺は1歩踏み出したのに、魔竜との距離は変わっていない。俺はまた1歩、2歩と魔竜へ向かって歩いた。
ズズ‥ズズ‥ズズ‥ズ‥バンッ。
魔竜は俺の歩幅に合わせて距離が変わらないよう、器用に下がっていた。しかし、すぐに俺の張った結界に当たって下がれなくなった。
ガクガクガクガクガクガク…………
「…ナービ、この状況の説明をお願い」
後ろに下がれなくなった魔竜は震えながら必死に頭をペコペコとし始めた。さっきからこの魔竜の行動は俺の想定外でしかない。
『…召喚主を殺した新種ということから、悪魔と竜の凶暴さを強く引き継いでいるかと思っていました。しかし、どうやらこの魔竜はかなり温厚で臆病みたいですね』
「それは分かったけど、結局なんでこんなに怯えているの?」
マッシュ達をあしらっている姿からもあまり凶暴そうではなかったが、実際に凶暴ではなかったみたいだ。とは言ってもここまで怯えられる理由が分からない。
『少し私の想像も入りますが、今の魔竜の状況を説明しますね』
「お願い」
ナービは魔竜が怯えている理由を分かりやすく伝えるために魔竜の気持ちの代弁を始めた。
『まず、魔竜はのんびりとこの人気のない山頂で休んでいました』
「そうだね」
『そんなところに人間がちょっかい出してきました。無視しようかと思いましたが、ウザかったので少し魔法を使って追い返そうとしました。
ここまではいいですね?』
「うん」
ここまでは俺でも簡単に予想ができる。問題はここからだ。
『やっと人間が逃げ出してきたと思ったら急に結界に囲まれました。しかもその結界は自分が取得している暗黒魔法の進化後の魔法を使ってです』
俺が今回結界に使った常闇魔法は暗黒魔法が進化したものだ。この魔法は東のダンジョンで常闇竜から奪ったスキルだ。
『そして、結界が張られたと思ったら、目の前には自分の上位種である龍族であり、さらに全ての種族の王でもある覇王がいました』
「あっ」
『どうすれば良いか分からずに呆然としていると、その者は自分にゆっくりと歩いて近付いてきました。とりあえず距離が縮まらないように下がっていたら、結界にぶつかりました』
「……」
『後ろには破れない結界、前には勝てるわけもない覇王。追い詰められた結果が今のあれです』
俺は未だに頭をペコペコと下げながら震えている魔竜へ視線を移した。ナービの説明で魔竜に怯えられている理由がわかった。俺は怖くないよとアピールしようと1歩踏み出した。
「ッ!?」
ダンダンダンダンッッ!!
魔竜はペコペコ振っていた頭をヘッドバンキングのように激しく上下させるようになった。地面に何度も頭をぶつけている。
「ナービ…どうすればいいの?」
最初の印象が悪かっただけで、俺は覇気なども纏っていないし、魔力も使っていない。それなのにこんなに怯えられたらさすがに傷付いてしまう。
『殺す気はないと伝えるためにテイムをしてあげてください』
「えっと……どっちの?」
今の状況では2種類のテイムのうち、どちらを使えばいいか分からない。絶対に俺と魔竜は仲良しではないだろうし、無理やりテイムをするための戦闘は全く行っていない。
「………………………仲良しの方でよろしいかと」
ナービは長い時間考えたあげく、仲良しの方でいいとの結論を出した。
「本来は状況的には無理やりテイムの方が妥当なのですが、無理やりテイムにするとこの魔竜は余計に怖がりそうなので…」
「納得だわ…」
どうやら、どちらのテイムを提案されたかは相手側も分かるようだ。それなら、これ以上怯えさせないために仲良しテイムの方がいいだろう。
「…仲良しテイム」
別に言わなくてもテイムは飛ばせるのだが、不安になって声に出してしまった。
「ッ!キュンキュン!!」
魔竜はヘドバンをやめて、その巨体に似合わない高い声を出しながら嬉しそうに仲良しテイムを了承した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます