第103話 白虎術

『……マスターは私が居ないと本当にダメダメですね。どうやったらこんな大量の魔術に囲まれるという危機的状況になるんですか…』


「ごめんって!でも、仕方なくもあるじゃん!」


大盾でずっとガードしていたせいか、俺を囲うように魔法陣が現れ続けている。全方位から魔術が放たれればさすがの大盾でも防げない。いや、カグロを俺を囲えるような盾にまで大きくすれば防げるかもしれない。

でも、いくら不壊のカグロでもそれはきついだろう。いや、それよりもそんな状況になったら俺から攻撃することもできなくなる。

だが、俺も魔術を取得した今となっては魔術に囲まれようが大丈夫だろう!



『マスターの取得したばかりの魔術では朱雀の魔術には威力負けし、さらに魔法陣を構築する時間も朱雀よりも遅いです』


「え…」


それってかなりやばくない?つまり、この状況をどうすることもできないってことだよね?


『そんな絶望した顔をしなくても大丈夫です。策は私が考えてあります。まずは放たれてくる魔術を火炎化を使ってからできるだけ躱してください。さらに身体属性強化も火炎魔法に変えてください』


「火炎化!身体属性強化・火炎!」


もう魔術が放たれたので、慌ててナービの指示に従った。そして、ナービの言う通り、できるだけ魔術を躱した。


「あちっ!あっつ!!」


全方位からやってくる魔術はさすがに全て躱せなかった。でも、躱せなかった魔術が当たってもかなり熱いだけで大ダメージにはならない。俺自体が火炎状態なので火傷の心配もない。かなり熱いけど。


『マスターの天使召喚によって減った魔力では魔法化はそう長くは持ちません。魔力に余裕があるうちに朱雀を地面に叩き落とせますか?』


「任せろ!よっと!」


俺は鞭にしたカグロを上空に飛んでいる朱雀の足に巻き付けた。


「魔法特化のお前に力では負けな…あっ」


鞭を引っ張って地面に叩き落とそうとしたが、鞭は朱雀の足をすり抜けた。


『…魔法特化なんですからマスター同様に魔法化くらい取得していますよ』


「…ですよね」


自信満々だったのが恥ずかしい。


『助言しましょうか?』


「お願いします」


俺は素直にナービからの助言を貰うことにした。


『白虎術での飛ぶ斬撃で次元斬改のように魔法を付与してみてください』


「なるほど!」


確かに魔法化状態なら物理攻撃は効かないが、魔法攻撃は効く。なら物理攻撃と魔法攻撃を合わせた攻撃も効くだろう。魔法陣だらけで下手に転移できないけど、飛ぶ斬撃ならここからでも当たるから問題ない。



「流星斬!」


「キィェェ!!」


「よしっ!効いてる!」


俺はカグロを刀にして、流星魔を付与した斬撃を朱雀に放った。魔術を放つことに夢中だった朱雀は避けれずに斬撃をくらった。そして空中でかなりふらついた。


『…なんで流星魔法を選んだのですか?結果的には流星魔法は効きましたが、普通は水流魔法や氷結魔法など火に強そうなものを選びませんか?』


「いや、火の権化みたいなやつだから不利属性だろう水流魔法や氷結魔法なんかは耐性があるかもって思って。その点、流星魔法は色んな属性混じってるしどれか1つの属性くらいは効果あるかなって」


流星魔法には岩石魔法と結晶魔法と溶岩魔法と氷結魔法が混じっている。さらに今回は意識して暴風魔法と雷電魔法とも混ぜて放った。


『………』


「無言だけどどうしたの!さっ!」


俺は斬撃を放ちながら無言のナービに話しかけた。朱雀は斬撃を本気で避けるようになった。そのおかげで放たれる魔術の数は半分以下になった。しかし、その代わり斬撃は当たらなくなった。



『すいません。あの右も左も分からなかったマスターがそんなことまで考えられるようになったのかと思うと感動してしまいました。成長しましたね』


「なんかそれ褒められてる気がしないよ!」


なんかナービが母性に目覚めたみたいな反応をしていた。確かにダンジョンに落ちた時は右も左も分からなかったけどさ…。


『冗談はこの辺にしましょう。今の魔術の数ならもう魔法化を解いても全て避けられるでしょう』


俺もナービ同様に気持ちを切り替えた。

ナービの指示に従って魔法化を解除した。


『地面に叩き落せはしませんでしたが、マスターの斬撃にかなり警戒しているようですし、想定よりも魔力があるので大丈夫でしょう。

マスターはこのまま斬撃で朱雀を牽制しておいて下さい。その際は魔力はあまり使わないでください。そして、朱雀から近寄って来るようでしたら……』


作戦を言い終わると、再びナービは反応しなくなった。でもナービが何をしているのかはすぐに分かった。


「水流斬!氷結斬!」


俺は朱雀に斬撃を今までの倍以上のペースで放った。朱雀は魔術を全て解除して回避に専念した。


「ピィ…ピ…」


朱雀はちらちらと上を気にするような様子を取っている。それもそのはずだ。朱雀よりも上空の天井付近に半径50メートルはあるであろう青色の魔法陣が形成され始めているのだから。それが完成に近付くと共に俺の魔力はかなりのペースで無くなっている。



「ピィーー!!!」


朱雀は俺の斬撃を避けながら俺に特攻を仕掛けてきた。このままだと上の魔法陣が完成するのを待つか、魔法陣を消して隙ができた所を斬撃で斬られるかの2択だと気付いたのか。魔法陣を完成させる前に魔法化状態でタックルして俺を燃やしつくそうというつもりなのだろうか。

俺は朱雀に斬撃を放つのをやめて、カグロを両手にしっかりと握って構えた。



「ふっ…はあっ!」


「ピィギーーーー!!!!!」


俺は白虎にやられた時と同じように魔法化中の朱雀を斬った。白虎術を取得しているなら俺もできるはずだと信じて極限まで集中したらできた。

朱雀は俺に突っ込んできた勢いで壁に激突した。


「ナービ!」


『マスター、完璧です』


朱雀は真っ二つに斬られたが、俺の時と同じように身体に傷は負っていない。ただ、斬られたのと同様の痛みとダメージはある。俺はあの時にそれらを理解して覚悟を決めてから白虎に斬られたが、朱雀はそんなこと想定していなかっただろう。

何が起こったか分からない様子で痛みに苦しんで地面でじたばたと暴れている朱雀を閉じ込めるように新たに4個の水色の魔法陣が現れた。


「ピィッ………」


その魔法陣から放たれた無数の氷の槍は朱雀を串刺しにした。

そして、朱雀は泥のように崩れて消えていった。



「ナービ、おつかれ」


「マスター、お疲れ様です」


俺は何も放たれることなく崩れていく上空にある囮の役割を果たした魔法陣を見ながら、朱雀が消えた場所に向かって歩いた。



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