第69話 アザレンカVSルアレ

 「人多過ぎだろ……バカじゃねえの」

 「こんなに多くの人に僕達の試合見られるって恥ずかしいな……」


 決戦の日、俺とアザレンカは戦いの場所王国魔導士団所有の訓練所に向かっていたのだが、まあ人が多い。


 正直、来たとしても数百人程度だと思っていたのだが、余裕で数千人はいる。

 ……というか、オルセク派閥の連中来過ぎだろ。


 そんなに、ルアレがアザレンカにボコられる所を見たいのか?

 それとも本気で、ルアレがアザレンカに勝てると思ってるのか?


 どっちにせよ、理解出来ない。


 「うーん……僕先代勇者の孫なんだけどなあ……すっごいアウェー感」

 「仕方ないさ。オルセク派閥の連中が沢山来ているんだから。流石に、派閥のトップの娘の対戦相手の応援は出来ないだろ」

 「しかも、ダリアさんもステフさんも側にいないって寂しいよ」


 ダリアとステフは、女王様の近くで俺達の試合を見るように言われた為、今日は俺達の側にいない。


 女王様曰く、心配性のダリアはこっそり俺達に強化魔法を掛ける可能性がある為、監視対象に。

 そしてステフは、仮に俺が少しでも対戦相手に怪我をさせられた場合、対戦相手に襲い掛かる危険があるので、これまた監視対象に。


 まあ後ステフは、一応聖剣持ちだから、ダリアと女王様の護衛も兼ねている。

 ……監視対象が監視する側を護衛するってもう訳分からないな。


 「……着いたね。プライス。緊張するなあ……氷の聖剣を本格的に使うのは初めてだからさ」


 アザレンカと色々話していたら、決戦の場の訓練所に着いてしまった。

  そうか、アザレンカ緊張してるのか。


 「ああ、俺も緊張してきたぜ。お前が力加減を間違えて、ルアレを殺すんじゃないかって」

 「そっち!?」

 「とまあ……冗談はこれくらいにして、緊張するくらい心配なのは、ルアレが魔剣に自我を乗っ取られる事だろうな」

 「……うん。そうだね」


 アザレンカは俺の言葉に頷く。

 それもそうだ。

 アザレンカも俺も、魔剣に自我を乗っ取られたセリーナと、戦っている。


 魔剣に自我を乗っ取られた人間と、戦った事があるからこそ、ルアレが魔剣を使う事が心配なのだ。

 敵対勢力のリーダー格の娘だとしても。


 「正直、ルアレには悪いけど瞬殺させて貰うよ。仮に魔剣に自我を乗っ取られて暴走されたら、殺すしか無くなっちゃう」

 「そうだな。頼んだぞアザレンカ」

 「うん、頑張るね」


 そう言って、アザレンカは訓練所の中へ入っていった。

 ルアレとアザレンカの戦いが終わるまで、俺は訓練所の中へ入るなと要求されているので、入れない。


 フルーレ曰く、アザレンカが負けた腹いせにルアレが襲われるかもしれないからだと。

 アホじゃねえのか。


 うーん、仕方ない。


 アザレンカの勝利を、俺はここで祈るしか出来ないよな。



 ◇



 「ううっ……プライスにはあんな事言ったけど、やっぱりちょっと怖いな……それに、いっつも僕が戦う時は一人じゃなかったし」


  訓練所の中へ入った僕は、一人不安になっていた。

  いつも、側にいるはずのパーティーの仲間は、対戦相手側の要求で誰も僕の近くにはいない。


 正直……怖い。

 魔剣使いと戦うのが怖い。


 理由は分かっている。

  自我を乗っ取られ、暴走した魔剣使いに僕は殺されかけたからだ。


 この話をしてしまうと、プライスは僕に申し訳なさそうにするだろうから、もう乗り越えた事にしてある。


 プライスが僕を心配してくれるのは嬉しい。

 でも、プライスの悲しそうにしている顔を見るのはもう嫌なんだ。


  (あら~本当アナタってあの赤髪の坊やの事が好きなのね~)


 本当、うるさいな。

  人が不安そうにしている事など気にもせず、氷の聖剣は今日も僕をからかってくる。


  (フフッ……。安心しなさい、アタシはアナタのお願いを聞き入れたのよ? なら、アナタに赤髪の坊やと一生一緒に戦っていけるだけの力を、与えるに決まっているじゃな~い)


  本当かなあ……。

 イマイチ信用ならないよ……多分、主にその口調のせいだと思うけど。


  (本当だってば! アナタは魔剣を狙いなさい! アタシの力で魔剣を木っ端微塵に、してあげるから!)


  魔剣を木っ端微塵か……。

  それが出来れば、僕も魔剣への恐怖が無くなるかな?

 ……ううん、違う。

 一生一緒にプライスと戦っていくのなら、僕は魔剣への恐怖を無くさなきゃいけないんだ。


 (本当にアナタって健気ね~。どれだけ頑張っても第三夫人止まりなのに)


 うるさいな。

 僕の好きな人は格好良くて強い人なんだ。

 多くの人に好かれて当たり前!


 聖剣との話を一方的に切り上げて僕は、ルアレと観客が待つ決戦の場へ行く。




  ◇



 「頑張れー! ルアレ様ー!」

 「聖剣も使えないポンコツに負けるな!」

 「引っ込め偽者勇者!」


 やっぱり、完全アウェーだ。

 僕が入ってきた途端に、観客から僕へのブーイングが凄い。

 対してルアレには、大声援だ。


 これはしょうがないと思う。

  僕は、皆の期待を裏切り続けてきたんだ。

 このブーイングを、僕は受け止めなきゃいけない。


 「うふふ、凄い嫌われようね? アザレンカ」


 対戦相手のルアレは、物凄い余裕そうにしている。

 これも僕が悪い。

 僕が火の聖剣に選ばれなかったという事は、イーグリット王国の人間なら、今や誰もが知っている事だから。


 「別に良いよ、今まで僕が勇者として役に立っていなかったのは、事実だし」

 「……何、その余裕そうな顔? 腹立つ」


 相変わらずだね、ルアレ。

 逆にもうちょっと余裕を持ちなよ。

 すぐ、本性丸出しの口調になるんだから。


 「僕は余裕なんかじゃないよ。魔剣使いに殺されそうになった事があるんだから。たとえ使い手がルアレだとしても、魔剣が怖いよ」

 「何ですって!? バカにしやがってアザレンカぁ……」


 何を怒ってるんだろうなあ……ルアレは。

 僕だって、頑張っている人が相手だったらバカにしないよ。

 だけど、ルアレは昔から親のコネの力を悪用して、頑張ってこなかったじゃないか。

 それなりに才能があるのは認めるけど。


 何はともあれ、僕もルアレも準備万端だ。

 お互いに剣に手をかけている。


 「それでは、ルアレ・オルセクとアレックス・アザレンカによる、次の勇者を決める戦いを始めるわ! 双方準備!」


 分厚い魔法障壁に守られた女王様が、準備の指示を出す。


 ルアレは魔剣を、僕は聖剣を引き抜く。


 「始め!」


 女王様の合図で僕達の戦いが始まった。


 僕の狙いは……ルアレの魔剣!


 「あっはっは! 遅い! 遅いわアザレンカ!」


 えぇ……何かルアレ普通に突っ込んできたんだけど。

 何も工夫せずに。


 しかも、何これ?

 魔剣使いって、こんなに遅かったっけ?


 ギィン!


 「!?」


  僕に攻撃を防がれた事に、ルアレは驚いている。

 僕の方が驚きだよ。

 魔剣を使ってこの程度なんて。


 ……いや、多分違う。

 セリーナとエリーナ。

 二人の魔剣使いと戦って、殺されかけるくらい惨敗した事が、良い経験になっているんだ。


 「……ルアレ、多分モロに喰らったら死んじゃうだろうから、魔剣で受け止めてね」

 「!? 一体何を……」


 だけど、僕は油断しない。

 この戦いをすぐに終わらせるつもりだ。

 変に追い詰めて、魔剣にすがられても困るし。


 魔剣にこの魔法を喰らわせれば、必ず壊せるはず。

 だから、力を貸して聖剣。


 (了解~)


 ……気が抜けるなあ……。


 「絶対なる氷よ。全てを凍てつかせて、息の根を絶えさせて。絶対零度アブソリュート・ゼロ……全開フルスロットル!」

 「!? 絶、絶対零度!? しかも、全開って殺す気!?」

 「だから言ったでしょ。魔剣で受け止めてねって、後、氷の聖剣の力で更にパワーアップしてるから」

 「イ、イヤアアアアア!!!!!」


 ごめんね、ルアレ。

 でも、悪い事は言わないから。

 これからは、魔剣になんて頼らず努力して力を付けて。


 だから、その為に。


 その魔剣、壊してあげるから。

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