第50話 第一王子派の空中分解、所詮は烏合の衆
「久し振りね。プライス。何の用かしら?」
突然式典に乱入したつもりだったのだが、女王様が全く焦ってもいないし、驚いてもいないので、俺が逆にビックリする。
結構な人数の騎士をぶっ飛ばしたはずなんだけどな。
聖火だから死んでる事は無いだろうけど。
殺す気は無かったし。
……ま、そんなことよりあの二人は式典には参加してなかったな。
予想通りだ。
大賢者という魔法使いのトップが公式の場に出たがらないのはどうかと思うが、こういう場を面倒臭がる二人で助かるな。
「いやー魔剣程度を使うぐらいで勇者にして貰えるんなら、聖剣に選ばれた俺も勇者にして貰えるんじゃないかと思いましてね」
新しい勇者(笑)達を嘲笑しながら、女王様の質問に答える。
「聖剣!? ロイ様! 聞いてませんぞ! ご子息様が聖剣に選ばれているだなんて!」
「計画は問題ないと言っていたではありませんか! 騎士王!」
「まさか、ご子息の才覚に気付かず敵に回したのですか!? 騎士王ともあろうお方が!?」
騎士達や貴族達は大パニックだ。
やっぱりな。
プライドの高い騎士王様が、計画の失敗を認められる訳無いもんな?
絶対に周りに言ってないと思ったよ。
最初は俺を勇者にしようと思っていたらしいが、ボーンプラントで自分達の作った死霊騎士達が瞬殺された事を聞いて、俺が自分達の言いなりにならない事にようやく気付いたから、こうして新しい勇者(笑)達を用意したんだろうけど。
散々俺をバカにしてくれたようだからな。
杜撰な計画を立てたバカ達の中心のクセに。
「い、いや! これは違うんだ! い、今のベッツ家は騎士王である私、大賢者であるマリーナ、娘二人は魔剣使い! そ、そこにプライスが聖剣に選ばれたなどと話せば、あまりにベッツ家に国の権力が集中し過ぎてしまうだろう!? たかが貴族程度が王家より力を持つことがあってはならん! そうだろう!?」
騎士王は、取り繕うように苦しい言い訳をする。
そんな言い訳が通用するかバカが!
「あら、ロイ? 私には話していたじゃない? 皆には話していなかったの?」
「じょ、女王様!? そ、それは!?」
「どういう事だ! 騎士王!」
「説明して下さい!」
「そもそも何故、アザレンカ殿ではなく、ご子息が聖剣を持っているんですか!」
「我々を騙していたのか!」
あーあ。
式典どころじゃ無くなったな。
貴族や騎士達が騎士王を囲んで問い詰めているから、新しい勇者(笑)達が放置されているじゃないか。
折角の晴れ舞台なのに。
見物に来た王都の連中もチラホラ帰ってるぞ?
そんな事はどうでもいいか。
俺とダリアは会いに来たんだからな、わざわざ。
戸惑っている勇者(笑)達から、一人離れてどこかに行こうとしていたアリスに声を掛ける。
「よう、アリス。覚えてるか? 俺の事」
「……アタシに何の用? ベッツ家の人間が」
青い髪の少女は、俺の顔を見るなり睨み付けてくる。
流石、バーゲンハーク家次期当主。
ライバルのベッツ家とは仲良くしませんってか。
なら、俺とは仲良くしてもらおうじゃないか。
「俺はもう、ベッツ家の人間じゃないさ。落ちこぼれは要らないって、とっくに家を追い出されているぞ?」
「……そんな話信じられる訳無いでしょ! 聖剣を使える人間を追い出す訳無いじゃない!」
「そうか、ならこれを見て貰うしか無いな。ダリア、あれを見せてやれ」
「……ええ、そうね」
ダリアは何故か不満そうにしながら、ある書類をアリスへ見せる。
「……何これ? は!? アンタ婿養子になったの!? 聖剣持ってるクセに!?」
「だから、言ったろ? 俺は追い出されたって? これからはプライス・ミューレンだ。宜しくなアリス」
そう、俺は式典に乱入する為の数時間程前にステフと結婚し、ミューレン家に婿養子としてもらった。
ステフにあいつらと同じ名字を名乗りたくないし、お前にも名乗って欲しくないと言ったら快く快諾してくれた。
ミューレン家はもう、ステフしかいないので、簡単に手続きが済んだ。
ステフが書類関係を完璧に準備していたのは少し怖かった。
ダリアに至ってはなんか怒っていたし。
「……で、一体何の用?」
「アリス、一緒にベッツ家を潰してくれ。バーゲンハーク家の力があれば可能だろ?」
「私からもお願いするわ、アリス。ベッツ家はもう腐っている。この国を自分達の物にしようとするなど言語道断だわ。第一王子であるお兄様もグルよ」
アリスは呆れながら、笑って答える。
「騎士王ロイは……失脚しそうだけど。大賢者とセリーナとエリーナという魔剣使いが二人いて、多くの貴族が下にいるベッツ家をバーゲンハーク家がリスクを背負ってまで潰すメリットは?」
確かにそうだよな。
いずれ、争いになってベッツ家を潰しに掛かるだろうが、今じゃないと思うのは当然だよな。
ま、バーゲンハーク家が欲しくて堪らない物を提示してやれば良い。
「メリットならある。いずれ必ず……いや、近い内に大賢者にバーゲンハーク家の誰かがなることが出来る」
「は? どうやって?」
「それは、これから俺がやることで判明する事実を見ていれば分かる。あ、後セリーナなら死んだぞ? 俺が殺したからな」
「は? ヒッ! な、何でセリーナの首なんか持ち歩いているのよ!? というかどうやって倒したの? ……って、聖剣よね! アンタが聖剣に選ばれるとか違和感しかない!」
「……プライス、本当貴方って同年代からの評価が低いわね」
言うなダリア、悲しくなってくるから。
力が無ければバカにされ、力を付ければ違和感を持たれるとか俺はどうすりゃいいんだ。
そんな事を考えながらダリアを抱き抱えたまま女王様へ謝りに行く。
「すいません。女王様、式典滅茶苦茶にしちゃって」
「良いのよ別に。フフッ、王都の民達にまた呆れられてしまうわね。殆どの方が帰ってしまっているわ」
「じゃあ、女王様もダリアもこの場から離れて貰いましょうかね」
「……そうね」
ダリアを下ろし、女王様の前で俺達は熱い抱擁をする。
「決着、つけてくる」
「……ええ、待ってるわプライス」
そして、唇を重ねた。
場が場なのでソフトな方にしておくが。
「むっ……上手いわね……。ステファニーに仕込まれているというのが癪だけど」
「全て終わったらこれ以上の事してやるよ」
「……馬鹿、死なないでね」
「俺一人なら勝てないけど、お前がいて、ステフとアザレンカ、そして三つの街の人達の思いを背負っている俺が負けるはず無いさ」
そう言い残して、ダリアを女王様へ託し、騎士達や貴族達に囲まれ、問い詰められている騎士王の元へ行く。
「邪魔だ、どけ! 俺は騎士王ロイに用があるんだよ! 灰にされたくないなら黙って道を開けろ!」
聖剣は聖火を纏い、戦闘準備は万端だ。
国に巣食う悪を、裁きたくてしょうがないんだろう。
そんな聖剣に恐れをなしたのか、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「……はあ、はあ……プライスゥ……どこまでも邪魔しおって……」
「もう誰もお前を庇うような奴はいないぞ。いずれベッツ家がやったこともバレる。そうなればお前やあのクソババアは終わりだろうな。後の三人はどうなるか分からんが」
「ベッツ家は終わらん! すぐにマリーナ達が来るだろう! 魔剣三本に果たして勝てると思っているのか! 今なら許してやるぞ! 私も加われば四本だが、私の出る必要はない!」
どこまでこの男は人任せなんだ。
後、セリーナが死んだ事に気付いてないんだな、やっぱり。
報告とか、もう受けてそうだけど。
……いや、違うか。
セリーナの事を溺愛してたからな、この男は。
受け入れられないのだろう。
だから、俺はセリーナの首を持っていた訳だが。
絶対にこれを見せれば、この男と一対一の勝負に持ち込める。
確信があったから。
「自分の手で、俺を倒したらどうだ? 後、魔剣を使える奴はベッツ家には、お前以外にもう二人しかいないぞ?」
そう言って俺は、セリーナの首をロイに向けて投げた。
「あああああ!!!!!! セリーナァァァァァ!!!!! プライスゥゥゥゥゥ!!!!! よくも、よくもセリーナを! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなあああああ!!!!!」
セリーナの首を見たロイは発狂していた。
折角渡すんだ。
セリーナだと分かるように顔は綺麗にしてやったからな魔法で。
「ボーンプラントで大量殺戮をした犯罪者だからな! 裁きを受けるのは当然だ! それだけじゃない! セリーナは、多くの騎士の命を奪った! お前の下らない計画の為に! そして、俺の大切な仲間アザレンカを、殺しかけた! 次はお前の番だ騎士王ロイ! いや、ロイ・ベッツ!」
「殺す! 私の手で殺してやる! お前は必ず私の手で、殺してやる! 邪魔だお前らァァァァァ!!!!!」
ロイが叫んだと同時に、禍々しく、黒い光がロイを包んだ。
「ロ、ロイ様が魔剣をお使いになるぞ! に、逃げろ!」
「洒落にならんぞ! 聖剣と魔剣の本気の戦いなど!」
「え!? 女王様と第二王女は逃げないんですか!? し、知りませんよ! 我々はまだ死にたく無いですから!」
薄情な奴らだ。
女王様とダリアを置いて全員が逃げていくとはな。
……いや、バーゲンハーク家は残っているみたいだな。
立派な忠誠心だ。
感心するよ。
「何を余所見している! 私に倒されたいのだろう! ならば死ぬ気で戦え! そして死ね! 私に殺されてな!」
普通の騎士達が身に付けている片手剣タイプの剣に見えていたが、まさか魔力を込める事で剣が変化するとはな。
セリーナはそんな事無かったが、ロイが持っているのは大剣。
更に、黒く禍々しい火を纏っている。
「聖剣よ、力を貸せ。あれが元凶の一人だ」
(分かっている。新たな勇者プライス・ミューレン!)
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