第42話 戦いの地、ボーンプラントへ
ついにステフと戦う日が来た。
ダリアとアザレンカの前で泣いたあの夜から二日が経過していた。
今日の夜、俺達はボーンプラントに行きステフと戦い、必ず勝ってボーンプラントの領主と領民を救う。
出来れば、ステフとは戦いにならずに、ステフが俺達の仲間になって、ダリアを次の王にする為に協力してくれるようになってくれると良いんだけどな。
そんな事を考えながら、俺はグリーンさんの家を訪ねていた。
何でも、俺に用がある客が居るらしい。
ダリアとアザレンカは、夜に備え少し寝るといって宿屋で寝ている。
長い夜になりそうだからな、寝不足で不意を突かれて二人が殺されるなんて事があったらたまったもんじゃない。
だから、俺は了承した。
そして俺はいつものように、グリーン家の客間に通される。
するとグリーンさんと。
「爺様? どうしてここに?」
「二日ぶりじゃの、プライス」
プライスの祖父であるバリーが来ていた。
グリーンさんが言っていた俺に用がある客人とは爺様のことだったのか。
「今日の夜、ボーンプラントに行くんでしょ?」
「はい。まあ夜っていうか夜中ですかね。流石に人の多い昼間に街でやり合うのは、人的被害がかなり出そうなので」
「ですって、バリーさん」
「……むぅ、ちと分が悪いのう」
俺とグリーンさんのやり取りを聞いた爺様は茶を啜りながら顔をしかめる。
分が悪いとも言っていたが、何か夜だと不都合があるのだろうか。
「プライス、落ち着いて聞くのじゃ。ボーンプラントにいる敵は、ステフだけではない」
真面目な顔をして爺様が当たり前の事を言うので、思わず笑いそうになる。
そんなのは当たり前だろう。
ボーンプラントには第一王子派の騎士が大量に派遣されている。
つまり、仮にステフと戦うことになった時に、俺とステフで一対一の勝負になることは無いことぐらい分かっている。
隙を見て、俺を攻撃してくる事なんてとっくに想定済みだ。
しかし、爺様は話を続ける。
「プライス、ワシの言っている敵というのは、聖剣を使えるお前とやりあえる連中という意味の敵じゃぞ?」
「連中ってことは複数人いるのか?」
「そうじゃな。その数は千を超える」
「は……?」
爺様の言葉の意味が俺には理解出来なかった。
グリーンさんは爺様から先に聞いていたのか、心配そうにただただ頷く。
「プライス、ボーンプラントには第一王子派の騎士だけでなく、王国魔導士団によって操り人形にされている、死霊騎士の軍隊が千人ほどいるのじゃ」
「……死霊騎士?」
「大量に騎士達が殺されたじゃろう? その殺された騎士達を黒魔術で操って、無理矢理国の戦力にしてるんじゃよ。全く、血も涙もない連中じゃ」
爺様の言葉に背筋が凍り付きそうに恐くなった。
王国魔導士団が敵かもしれないというのは薄々気付いていたが、まさかそんな事までしているなんて。
しかも、黒魔術で死体を自分達の思い通りに操るなんて高等な魔法を使えるのは、指で数えられる程しかいない。
そして、そんな事が出来る魔法使いの一人の中には。
「……まさか、エリーナ姉さんも敵だったとはな。ハハッ。何だよ、俺の家族は爺様以外俺の敵だったのかよ」
俺は乾いた笑いしか出てこなかった。
私は応援してるから。
そんな事を言ってくれたエリーナ姉さんが実は敵で、裏ではこんな事をしていたなんて。
「ワシもこの事実を聞いた時は、呆然としたよ。しかし、エリーナは何とも思っておらん。どうせ死んだ連中なんじゃから有効利用しているだけ感謝しろと言っとった」
「その口振りだと、エリーナ姉さんは直接殺している訳では無さそうだね。……まあ、許されない事をしているけど」
露骨に落ち込んでしまう俺に爺様は、追い討ちをかけるように新たな事実を伝える。
「更に、エリーナは魔剣を使える。……お前と本気の殺し合いをしたいと望んでいたぞ」
「魔剣?」
魔剣か、聞いた事があるな。
確か聖剣を所有していない国が、聖剣を持っている国の勇者に攻め込まれた時に、対抗する為の最終手段だと聞いたが。
それをエリーナ姉さんが持っているのも気になるが、俺と本気の殺し合いをしたいってなんだよ。
何の意味があるんだよ。
「……恐らく、今回の戦いは第一王子派にとってはただの実験に過ぎんのじゃろうな。エリーナの話を聞く限り」
「実験だと?」
「聖剣に対して、自分達の操る死霊騎士達や作ろうとしている魔剣がどこまで対抗出来るか、確かめたいと言っていたんじゃ。……プライス、奴らは本気のお前を所望しているようじゃぞ」
爺様は、再度真剣な表情で俺を見る。
ここまで、真実を聞かされて手なんて抜くはずが無いだろう。
流石に家族とはいえ我慢の限界だ。
……本気の俺と殺し合いたいか。
エリーナ姉さんが。
申し訳ないが遠慮したいね。
俺が、殺し合いになる前に全身全霊で殺してやるよ。
「覚悟は決まったようじゃの。良い眼をしとる。これを勇者アザレンカに渡してくれんかの?」
そう言って、爺様は一本の剣を差し出す。
「これは?」
「ワシが使っていた剣じゃ。市場に出せばマリア金貨二枚は下らんじゃろうな」
「マリア金貨二枚!?」
一見普通の片手剣にしか見えないが、価値を聞いて驚く。
どんだけ高い素材を使っているんだ。
「素材だけではないぞ、プライス。これはイーグリットで一番の刀鍛冶が作った物じゃ。どうせ、勇者にろくな剣を持たせていないのじゃろう? ワシはもう退いた身、勇者に使って貰いたい」
……剣どころか何も持たせてねえわ、アザレンカに。
これ、言ったら怒られるな。
全力で事実を隠そうとする俺。
そんな俺をよそに、爺様は立ち上がる。
「じゃあの、プライス。ワシがあまり長居をするとラウンドフォレストという街に迷惑が掛かってしまうから、ワシは王都に戻らせて貰うのじゃ、
そう言って、爺様は王都へ帰ってしまった。
言いたい事だけ言って、瞬間移動でいなくなるって、親父の親なはずなのにお袋みたいな行動をするな爺様は。
瞬間移動を使えたのもビックリだが。
「凄いわね……この剣。素人目に見ても凄いって分かるわよ」
爺様が置いていった剣をまじまじと見るグリーンさん。
「アザレンカには勿体無いな。こんな剣を与えるなんて」
「……一応あの子、勇者でしょ? 聖剣は使えないけど」
俺が呟いた言葉に、グリーンさんは冷静に突っ込んでいたのだった。
◇
「準備は大丈夫か?」
「うん」
「ええ」
夜中、俺達三人は宿屋を出て人気の無い宿屋の裏側へ行く。
「眠くないか? 二人とも」
「しっかり寝たから大丈夫よ」
「プライスこそ大丈夫なの?」
アザレンカに眠気を心配されたが、俺もグリーンさんの家から戻った後、数時間程眠った為、眠気は全く無い。
「俺もアザレンカも剣は持ったし、……ダリアは何を持って行くつもりなんだ?」
ダリアがウエストポーチを付けていたので、中身を聞く。
「ポーションよ。ちょっと、魔力を大量に使いそうだから」
「そりゃ助かるな。恐らく俺も魔法を使うから魔力切れを覚悟しなきゃだし」
ダリアとアザレンカには、ボーンプラントに千の死霊騎士がいることは話し済みだ。
大量の魔力を持つダリアが魔力切れなんて事になったら、よっぽどの苦戦だろうな。
まあ、油断が無いのは良いことだ。
「さて、作戦を最終確認するぞ。俺とダリアはある程度死霊騎士を退治した後、ステフを探して説得する。無理だったら戦う。アザレンカは、別行動で死霊騎士を操っている魔法使いを見つけて、魔法を妨害する。そうすれば、死霊騎士達の動きは止まるだろうからな」
二人は作戦の内容に頷く。
特にアザレンカには危険な役目を一人でやらせてしまう事になるが、ステフが正気を保っているという保証もない為、俺一人で多数の死霊騎士を蹴散らしながら、ステフの相手をするのは無理だろうと結論に至り、ダリアは俺のサポートをすることになった。
「アザレンカ、お前は気を付けてくれ。エリーナ姉さんを見掛けたら、戦わずに俺の元へ戻って来い。魔剣を使われたらお前に勝ち目は無い」
アザレンカには入念に忠告をする。
いくら、勇者とはいえ聖剣を持っていない状態で魔剣に挑むのは自殺行為だ。
それに、第一王子派がアザレンカを容赦なく殺す事も考えられる。
「その時は、元騎士王がくれたこの剣で死霊騎士達を討伐する事に切り替えるよ。プライスがステファニーさんに集中出来るようにね」
俺の忠告にアザレンカは、笑顔で答える。
良い顔だ。
勇者っぽくなってる。
そしていつものように二人は俺に抱きつく。
「瞬間移動」
俺達三人はボーンプラントへと向かった。
待ってろよ、ステフ。
必ずお前を救いだしてやる。
そして、第一王子派の計画を阻止してやる。
実験だなんてふざけた事を言いやがって。
二度と俺と戦えなくなるぐらいの恐怖を奴らに植え付けてやる。
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