第41話 三人の覚悟、そしてプライスの涙

瞬間移動テレポーテーションでいつもの宿屋に戻ってきた俺は、食堂で夕食を食べ終わった後、先に部屋に戻ってきていたダリアとアザレンカに、全てを話し始めた。


二人ともそれぞれ自分のベッドに腰掛けながら真剣な表情で聞く。


「まあまず話す事は、ベッツ家や王家の関係者や貴族達が第一王子を推す理由は、自分達がイーグリット王国を自由に動かしたいからだそうだ。第一王子は、次の王になるために自ら傀儡の王になると宣言しているみたいだぜ? 王にはなるけど、政治はやらねえんだとさ」

「今のイーグリットも結構、女王様以外の発言力が強いのに、今より酷くなるって事じゃないか……それじゃ」


アザレンカは嘆く。

勇者として王家などと関わりを持っていたから、何となく察していたのだろう。

今のイーグリット王国の王政の状況を。

ダリアは、何も言わない。

ただ失望しているだけだ。


「更に、あいつらはアザレンカが聖剣に選ばれる事は無いだろうと思って聖剣を渡していたらしい。意見されるのが嫌だったんだとよ」

「……うっ、気付かれていたのか。それは僕の実力不足もあるから何も言えないかな……」

「そんな事は無いわ! 現に貴女の氷魔法は凄いもの! それにこれからもっと強くなっていけば良いの! 気にしちゃダメよ!」


プライスに明かされた事実に、露骨に落ち込むアザレンカを励ますダリア。

しかし、この程度の事でアザレンカに露骨に落ち込まれると困る。


「……あー、そんなに落ち込まれると続きの話をしづらいな」

「ご、ごめん。続き話して良いよ」

「良いのか? ボーンプラントで暴れているマリンズ王国の女勇者が実はアザレンカの代わりとして、呼ばれていたって話なんだけど」

「やっぱり僕の実力不足のせいじゃないか! こうなったの! 薄々気付いていたんだよ! うわーん!」

「……プライス」

「すまん。これでも大分マイルドに話したつもりなんだけどな」


自分の実力不足が今のイーグリットの問題を招いてしまった事に、思わず泣き出してしまうアザレンカ。

そんなアザレンカをダリアは慰めつつ、プライスにもう少し言い方は無かったのかと言いたげに見つめる。


しかし、プライスが言ったように大分マイルドに話してはいるだろう。

アザレンカに全く気を使わずに話すとなれば、自分の家族がアザレンカを無能呼ばわりしていた事とわざわざステファニーを迎え入れる為に第一王女をマリンズ王国に嫁がせた事を話していただろう。

流石にそれを伝えるのは酷だと、プライスは判断したのだ。


「悪いな、アザレンカ。泣きながらで良いから話を聞いていてくれ。その呼ばれた女勇者はやっぱり俺の元婚約者ステファニー・ミューレンだった。すまん、俺の親父や祖父母が勝手な事をして」


元婚約者とはいえ、ボーンプラントの問題の原因の一つであることは間違いないし、何よりその原因の一つをボーンプラントに派遣したのは自分の家族。


プライスは頭を下げる事しか出来なかった。


「貴方が謝る事じゃないわ。……でも元婚約者が戻ってきたというのは聞き捨てならないわね」

「ステフと結婚させてやるから、ダリアと一緒に王都へ戻ってこいって言われたよ」

「勿論、断ったんでしょうね?」

「え? 重要なのそっち? いや、断ったけどさ」

「……良かった」


プライスの言葉に、ダリアは安心する。

逆にプライスは何故ダリアが、自分が結婚を持ちかけられた事の方を問題視しているのか分かっていなかったが。


「ま、結局その話を断ったから、ボーンプラントからステフを追い出すのは無理だった。だから、実力行使で行くしかない。まあ、ステフは言うことを全く聞かないらしいから、どのみち実力行使になっていたけどな」

「仕方ないわ、でも私達三人なら大丈夫よ。ほら、アザレンカも泣き止みなさい」

「うっ……グスッ……は、はい」


何とかアザレンカは、泣き止んだようだ。

アザレンカの力は、ステファニーと戦う為には必要不可欠。

凹んで自信を喪失されたままでいられれば困る。


……そして、プライスは第一王子派が、自分の家族が犯した過ちを話し始める。


「二人とも覚悟して聞いてくれ。第一王子派は反対した騎士達を数千人程殺している。王都から多くの騎士や魔法使いがいなくなったのは、第一王子派に殺されていたからなんだ」

「そ、そんな……」

「……そう」


俺の話を聞いた二人は絶句する。

この反応なら、話しても大丈夫かな。


「で、これは相談なんだがアザレンカ? お前、第一王子派殺せるか? 俺は覚悟を決めたぞ」

「ちょっと……プライス」


俺の言葉を聞いたダリアは、そんな事を言うなと言いたげに俺を止める。

だが、アザレンカからの答えは意外なものだった。


「一応、僕は勇者だから。覚悟は出来てるよ。多くの人間を救うためなら、時には殺さなければいけない人間もいるって先代の勇者からも言われていたし」


アザレンカは、真っ直ぐ俺を見て。

覚悟を決めた眼をして。

腹をくくったようだ。


「そうか……ありがとな。俺も覚悟を決めたよ。俺の家族は……特にあのクソババアと親父とセリーナは俺の手で必ず殺す! 何の罪も無い騎士達の命を奪っただけでなく、守るべき国民も自分達の息の掛かった騎士を派遣して嫌がらせするような連中は、生かしておけるか!」

「あのクソババアって?」

「ああ、アザレンカは知らねえか。俺の祖母だ。無駄に国の中で発言力があんだよ。女王の遠い親戚だかなんだか知らねえけどよ。こいつが、計画の首謀者みたいだからな」

「なるほどね……」


アザレンカは納得したみたいだが、ダリアは果たして納得するだろうか。

さっきも止めようとしていたし。


「……まあ、仕方無いわね。女王の決定に逆らうんですもの、ある程度の犠牲はしょうがないわ。でも、二人とも無用な殺戮はあの人達と同じレベルに堕ちる事だから辞めるのよ?」


ダリアも覚悟を決めたようだ。


「ああ、分かってるさ」

「分かってますよ」


こうして俺達三人の覚悟が決まった。

必ず奴らの計画を潰してやる。

必ず相応の報いをくれてやる。



「さて、俺達が次にやることはステフをボーンプラントから追い出し、領主を救うことだ。しかも、ボーンプラントの領主はイーグリットのもう一本の聖剣の在処を知っているらしい」


ダリアとアザレンカの覚悟を聞いたので、これから俺達がやることを二人に説明する。


「聖剣!? それってイーグリット王国にもう一本ある聖剣だよね!?」

「あ、ああ。何だ食い気味に」

「もしかしたら、その聖剣なら僕を選んでくれるかもしれないじゃん! 勇者である以上やっぱり聖剣は欲しいよ!」


アザレンカは嬉しそうにする。

やっぱり聖剣に選ばれていない事を気にしていたんだろうな。


「もう一本の聖剣が貴女を選んでくれると良いわね」

「ま、その聖剣の在処を聞く為には、聖剣を持つ女勇者と戦わなきゃいけないんだけどな」


そうだ。

聖剣の在処を聞く為には、聖剣を持つ女勇者と戦わなきゃならない。

覚悟は決めた。

やるべきことを二人に伝えた。

……でも、やっぱり。

ステフと戦わなきゃならないのか。


「……プライス? どうかした?」

「ん? いや何でもない」


アザレンカは、俺の様子がおかしくなっていた事に気付いたみたいだ。

……こんな時は察しが良いんだよな。


「何でもない訳無いでしょ? 貴方の元婚約者と戦わなきゃいけないんだから。辛いんじゃないの?」


ダリアの言葉に、俺は何も言えなくなる。


あんな事を言った手前、弱音なんか吐けない。

でも、ステフは特別だったんだ。

引き摺って無いと言えば嘘になるし、出来れば戦いたくなんてない。


「……良いのよ? プライス? 辛かったら泣いても」

「そうだよ、プライス! たまには僕達を頼ってよ! 僕達はパーティーでしょ?」


……ダメだ。

これから戦うんだから。

こんな……所……でな、泣いちゃ……。


「……クソっ、お前らがそんな事言うからだぞ」


二人の前で泣きたくなんて無かった。

二人に覚悟を決めさせた俺が泣くなんて情けないから。

でも、二人の言葉に涙が自然と出てきてしまった。

そんな俺をダリアとアザレンカは慰めるように優しく抱き締める。


「何でだよ! 何でステフと戦わなきゃいけないんだ!」

「そうね。辛いわね」

「あんな優しい奴を……俺の家族は! 俺の……家族は……っ」

「そうだね……酷いよね。なら助けようね! プライス! 必ずステファニーさんを!」


俺は二人の腕の中で、ずっと泣き続けた。

どうしても、ステフに申し訳が無かった。

愛してると言ってくれた彼女。

良い女になるからと言った彼女。


その彼女の気持ちを利用した俺の家族をどうしても許すことが出来なかった。


アザレンカが言ってたな。

助けようねって。

もしかしたら、ステフは俺達の仲間になってくれるだろうか。

俺を許してくれるだろうか。


不安で不安で仕方無い。


「「プライス、頑張ろうね」」


泣き続ける俺を、二人はずっと慰めてくれたのだった。

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