第37話 クランから去る者

さて、ホームに戻って来ました。皆も、元気そうですね。よし、生産をしなければ!


ルイスは、ため息を吐き出してトキヤに言う。


「トキヤさん、暫くギルドを任せます。」


「良いけど、籠るのか?」


ルイスは、頷いてから言う。


「王水のストックが、無くなったので劣化版の蘇生薬を研究しながら作ります。」


王水は、聖紳士騎士団の元副団長ノエルと七王決闘をした時に使ったアイテム。あの、元盾王の盾を溶かしたアイテムです。勿論、危険な薬品です。


リアルでは、腐食性が非常に強いため、人体にとっては極めて有害です。日本では毒物及び劇物取締法により、10%を超える塩化水素の製剤として劇物となります。絶対、作らないように!


十字軍を通じて、中世ヨーロッパに伝えられ、錬金術師たちに注目されました。銀以外のいかなる金属も溶かし込むことから、"aqua regia"(王の水)と名付けられました。


日本語の「王水」はこの直訳ですね。


さて、難しい話は置いておいてです。ランコルさんに、キリアさんとバロンさんを呼びます。


今日は、お店が休みなのでラッキーでした。


「長い間、お店を留守にしてごめんなさい。」


「無事に、帰ってきてくだされば良いですよ。」


お茶をしながら、ランコルさんは笑っています。


「取り敢えず、新しい仲間のカリオストロとアベル君ね。カリオストロは、錬金術師でポーションにも詳しいので1階のポーション売り場を任せるね。アベル君は、レベル的に無理なのでレベル上げに専念して貰っているよ。それと、5人組は別クランに引き抜かれた。少し、残念だけどね。」


「とんだ裏切りだな。」


グレンも、悲しそうに紅茶を飲む。


「あいつら、レンジも狙ってるらしい。」


トキヤは、腕を組んでため息を吐き出す。


「そうですか。まぁ、良いです。取り敢えず、同盟メンバーには伝えておきますね。」


「ルイス、大丈夫か?」


トキヤは、心配そうにルイスを見る。


「はい、予想はしていたので。」


ルイスは、いつも通りに笑っている。しかし、カリオストロ相手には騙せなかった。内心、苦笑する。


「そうだ、お店の左隣の大きなお店は潰れたの?売り地に、なっていたから気になって。」


「確か、3日前に移転したらしいですよ。」


キリアさんは、紅茶を飲んでから言う。


「そうなんだね。あの土地、買ってみようかな。出来れば、癒しのスペースを作りたいし。水樹も、植えたいしね。お金も、問題ないかな。うん。」


そういえば、【茨の結界】がありましたね。


「それは、良いですね。てっ、水樹?」


「ん?水樹ってさ、竜の心臓やユニコーンの角と同じくらい希少なアイテムだったような気が……。」


キリアは、笑って頷いてから一瞬だけ固まると、勢いよくルイスを見る。バロンは、表情をひきつらせて、困ったように苦笑しながらクッキーを食べる。


「確か、世界に伝わる伝説の素材の1つですね。」


ランコルさんも、頷いてから紅茶を飲む。


「へぇ~、そうなんだぁ~。」


ノホホーンと笑う、ルイスを見て苦笑する全員。


「確か、劣化版ポーションに水樹の葉と何かを混ぜると、ポーションになる筈だが。何だったか?」


カリオストロは、少しだけ考える。


「そう、ポーションから劣化版を消したいんだよねー。でも、もう1つの素材ですか……ふむ……。」


「じゃあ、俺が土地を買ってくる。ルイス名義で、良いよな?ルイスが、管理するんだしさ。」


グレンは、ルイスが頷いてから立ち上がり、急いでクランから出ていく。ルイスは、立ち上がり言う。


「さて、僕もそろそろ取り掛かりますか。」


そして、アトリエに向かった。




リルとソルは、ルイスに甘えず心配そうに見上げている。ルイスは、自分の作業部屋に入り、困ったように苦笑してから椅子に座り呟く。


「大丈夫な訳、ありませんよ……。まぁ、5人組は戦闘がしたい派なので、地味な素材集めなんてしないだろうとは思ってましたけどね。はぁ……。」


「リーダーというのも、大変なんだな?」


ルイスは、驚いて変な悲鳴を上げる。


「ふああっ!」


カリオストロが、ドア前に立って居たからだ。カリオストロは、人形なので気配が無い。それを、利用されたようですね。ルイスは、思わず固まる。


いつ、入って来たんでしょう?


「ルイス、どうした?」


トキヤが、心配して来たようだ。


「えっと、すみません。大丈夫です。カリオストロが、気づいたら立って居たので驚きました。」


「あー、なるほど。確かに、驚くよな。」


トキヤは、頷いてから笑う。


「もう、ノックくらいしてくださいよ。」


ルイスは、少しムスッとしてカリオストロを見る。


「もし、してたら隠してただろ?本心を……。」


すると、トキヤは真剣な表情になる。


「………それで?何て、言ったんだ?」


「別に、ただ引き抜かれたのが、大丈夫な訳ないって言っただけですよ。おそらく、レンジさんも引き抜かれます。レンジさんは、優しいですから元炎天メンバー達にお願いされれば………ね………。」


ルイスは、真剣な表情をして呟く。トキヤは、苦々しい表情でルイスを見る。あり得るから……。


「ギルド、解散すべきですかね。もう、僕が引き抜かれる心配もなくなりましたし。」


ルイスは、真剣な表情で考える仕草をして呟く。すると、トキヤは青ざめ考える。そして、決意する。


「………トキヤさん?」


ルイスは、キョトンとしている。


「ちょっと、用事を思い出した。」


そういうと、トキヤは笑って部屋から出ていく。


「ふーん、良い兄貴分だな。」


「ん?はい、トキヤさんは優しい人です。」


カリオストロの問に、ルイスは暢気に笑って言う。もっとも、ルイスの解釈は間違っているのだが。カリオストロは、訂正する事なくルイスを見て言う。


「じゃあ、俺も仕事に戻る。」


「はい、お願いしますね。」


ルイスは、カリオストロを見送ると深呼吸する。そして、装備を変更して道具を準備する。


暫くして、作業を開始する。ちなみに、レシピには材料と作り方しか書いておらず分量は不明です。しかも、作り方もあやふやな表現なのですよ。


これは、わざとですね……運営の悪戯でしょうか?


まぁ、良いでしょう。何とか、解読して完成させてみせます。ふむふむ……、ではやってみましょう!


「よし、頑張りますよ。」


まず、聖水に浸けた竜の心臓(魔核)を瓶から取り出すと特殊なハンマーで叩き割る。そして、ユニコーンの角を普通のハンマーで叩き割りゴリゴリと磨り潰して器に入れる。桃源郷の桃は、皮を剥いて細かくナイフで切り皿に入れる。これで、準備はOK!沸騰させた聖水の中に、細かく切った桃源郷の桃そして粉末状態のユニコーンの角を入れて錬金合成させる。そして、最後に竜の心臓の欠片を入れて更に錬金合成させる。これで、一応は完成ですね。


ふむ……、これは………


「うん、思ったより酷いですね。」


蘇生薬もどき

蘇生できるけど、500しか回復しない。


うわぁー、初心者しか需要が無いです。


さて、ここから3つの分量を減らしたり増やしたりします。そして、それを全てメモして効果が良い蘇生薬を更に調整して錬金合成させます。


ふむ、他の錬金術師はもっと大変でしょうね。微調整が、しんどいですし匙を投げるでしょうか?


まぁ、錬金王でもこれですからね。


ちなみに、僕はこのチマチマした微調整が何気に好きなので、おそらく匙を投げる事はありません。いやはや、とても面白くなって来ましたね。


適度に、息抜きをしながら頑張りますか♪


上機嫌で、素材を調整して作っていく。今にも、鼻唄を歌いそうな雰囲気で作業するルイス。


「さて、まずは限界まで効果を上げる事から。」


カリオストロは、ルイスが心配でドアの後ろに立っていた。しかし、ルイスの楽しそうな声を聞き小さく笑う。そして、ゆっくり仕事に戻るのだった。


何かあれば、アドバイスしようと思いながら。


数時間後……


「ルイス、入るぞ。」


「ん?」


ルイスは、キョトンとしている。すると、同盟のリーダー達が居る。ルイスは、困った表情をする。


「えっと、どうかしました?」


「少しだけ、お茶でもしようぜ!」


マッキーが、楽しそうに言う。


「では、これを合成させたら………」


「じゃあ、これは没収だな。」


そう言って、錬成陣の書かれたスクロールを取られる。ルイスは、キョトンとして手を止めるしかなくなってしまう。かなり、強引な方法である。


「まったく、分かりました。」


ルイスは、苦笑して装備を変更すると立ち上がり伸びをする。そして、小さくあくびして片付ける。


「にしても、移転しないのか?」


「しませんよ。」


ルイスは、暢気に笑って言う。お茶会は、夜遅くまで続きました。何故、お茶会をする事に?


ルイスが、寝落ちしたのは仕方ない。


ランコルさんが、毛布を掛けてやり解散となった。

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