第19話 タッグバトル本戦 一試合目

さーて、本戦が始まりました。僕達の相手は、前回ベスト6位のマツバ・テンガのタッグですね。


まぁ、最初にベスト3と戦うのは回避しました。


「なぁ、深刻な問題が発覚した。」


グレンは、真顔で僕を見ています。


「はい?」


「この2週間、1度も共闘してないから。ルイスがさ、どれくらい戦えるから把握してない。しかも、最初の相手の1人は俺と相性の悪い拳闘士だし。」


ふむ、確かにそうですね。ならば、僕がグレンに合わせましょうかね。うん……、それが最善でしょう。


「なら、取り敢えずはグレンに合わせます。」


「………出来るのか?」


む、疑ってますね?少しだけ、不機嫌になるものの僕は生産職………疑われても、仕方ないですかね。


「おや、僕を信じられませんか?」


「いいや、信じる信じないの問題じゃ………。」


あー、もう。仕方ない、僕の本来のジョブを教えたら信じてくれますかね。ここは、賭けですが……。


「はぁー……。」


「おい、試合はまだかよ!」


マツバが、不機嫌そうにこっちを見る。


「マツバさん、後少し待ってください。さて、グレン……少し、お話をしましょうか。」


僕は、わざと腕を強く引っ張りフィールドの端に行く。グレンは、腕を引く強さに驚いていたが無視。


「グレン、僕は君に嘘をついてます。」


「……嘘?」


「それを言う前に、グレンがスキル化したジョブを教えてください。僕も、全て教えるので。」


すると、グレンは真剣に頷いて言う。


「今は、剣士と暗殺者でスキル化したジョブは魔術師だ。だから、暗殺特化の魔法剣士って所だ。」


なるほど、了解しました。なら、後衛も大丈夫ですね。僕が前に出て、グレンに魔法支援をして貰いましょうか。それしか、無いですね。


「では、次は僕ですね。今は、祈祷師と薬師です。スキル化したジョブは、錬金術と料理人です。ちなみに、兄さんから特典コードを貰いました。」


「……………。」


「ん?グレン、大丈夫ですか?」


「………今、祈祷師って…………」


あー、これは逆効果でしたかね。


「グレン、勝ちたいんですよね?」


「……おう。にしても、驚いたぜ。よろしくな♪」


グレンは、ため息を吐き出してからニカッと笑う。僕は、ホッとしてから思わず笑って頷いた。


「では、行きましょう。先ずは、相手を驚かせたいのでグレンは前で後で入れ代わりましょう。」


「了解。タイミングは、任せたぜ。」


『さて、打ち合わせタイム終了。では、そろそろ試合を開始します。マツバさんは、あのマッキーさんの自称ライバル。本戦でも、パワー戦を得意としていて押されたら巻き返しは難しいです。次に、テンガさんですが魔術師ですね。水属性が、得意な攻撃と少しだけ回復が得意なんだとか。』


『次は、ルイスさん。ジョブは、不明ですが回復と的確な魔法支援や錬金術でのサポートをしてましたね。もしや、支援特化でしょうか?ですが、ルイスさんってβ組ですよね?グレンさんは、荒々しい剣術で相手を倒す術が強いとか。予選では、出ませんでしたし楽しみですよね。では、試合開始!』


さて、マツバさんは真っ先にグレンに突撃。グレンは、ギリギリ回避するが徐々にフィールドの隅に追い込まれる。僕が、神官なら届かない範囲です。


僕は、支援するため移動しようとして、テンガさんに足止めされてしまいます。まぁ、予想通りなんですが敢えて苦し気な表情を作ります。


『おっと、これはピンチですね!このままでは、グレンさんのHPが持ちません。さすが、前回6位!』


『…………そうですね。でも、本当にピンチなんでしょうか?仮にも、グレンさんやルイスさんはβ組なんですよ?何か、引っ掛かるんですが?』


僕は、テンガの魔法を回避しながら撃ち合います。やはり、僕も分が悪いですね。僕は、横目でグレンのHPを確認してから苦笑してしまう。


グレンは、不利なりに回避しながら戦う。


あー、HPが辛すぎる。まぁ、ルイスなら大丈夫だろうな。だって、俺はあいつを信じるって決めたからな。無茶苦茶でも、時間を稼いでやるんだ!


『あれ、かなり二人とも粘りますね。』


『これは、面白くなってきました。』


さて、そろそろ茶番は終わりです。僕は、装備を神聖なる狩衣に変更して詠唱します。


「数多の神々に、祈祷師ルイスが乞い願う。傷ついた、我の仲間に聖なる癒しを与えたまえ。【遠距離回復】!グレン、そろそろ暴れますよ!」


「了解!」


ルイスは、蹴り技でテンガを吹き飛ばし走る。そして、グレンを守るように前に立ち拳を弾く。グレンは、入れ代わるように素早くテンガの所に行く。


グレンとルイスは、不敵な笑顔で呟く。


「「第2ラウンド、開始です。(だ。)」」


すると、会場から歓声が聞こえる。


『キター!最後のシークレットジョブ、祈祷師!』


『まさか、このタイミングで出てきましたか!』


交代したので、グレンが押される事は無いでしょうね。すると、マツバさんがグレンに向かう。ちょうど、グレンの背中が見えていたからです。


余り、動かれると祈祷師じゃ対応が出来ませんよ。それと、敵に背中を見せるなんて無用心では?


「【ホーリーショット】」


「ぐあっ!」


グレンは、僕の遠距離攻撃を知ってるからわざとでしょうね。まったく、失敗したらどうするんですか。まぁ、それだけ信頼して貰ってると思っても良いでしょうか?ちょっと、生意気ですかね?


さて、僕はグレンの後ろに立ちます。すると、グレンが振り返り笑顔で頷きます。すると、マツバさんが苦笑してグレンの前に立ちます。どうやら、テンガさんも警戒しているようですね。さて、一対一は断られたので仕方ないですね。


すると、マツバさんが固有スキル発動!思わず小さく呻き、マツバさんは嬉しそうに声を出して笑う。


「うっ………」


「ルイス!」


なるほど、回復を封じますか。しかも、ジョブを変えてマツバさんは弓を構えます。テンガさんは、ナイフを構えて装備も変えてきました。


おそらく、レンジャーとアサシンですね。これは、分が悪い……。はぁ……、仕方ないですね。


「グレン、交代です。」


「ジョブは?」


グレンは、真剣にルイスを見ている。


「勿論、チェンジで。」


「了解。」


僕は、グレンの右側から前に出つつジョブチェンジをする。草花の精霊が、僕の周りを飛んでいます。


グレンは、僕に場所をあけるよう動こうとする。後ろに、軽く飛びながらジョブチェンジ。黒い風に、赤い小さな光が浮いててグレンを包み込む。


ちなみに、パフォーマンスとしてエフェクトは切らないでと運営にお願いされました。だから、エフェクトは切ってません。さて、頑張りますよ。テンガさんとマツバさんは、エフェクトを持っていなかったので普通に白いもやがかかっているだけでした。


そうでした、この装備はシャルムの力作らしいです。上機嫌で、〔薬師と言えば、白衣と眼鏡でしょう!〕とか言って仲間に話してました。白衣下の装備は、軽装ですがアイテム含めてプレイヤーのハンドメイドです。しかも、最前戦の素材を使ってますし。本当に、驚いてしまいましたよ。


さて、どうしましょうか?


「お前、錬金術師じゃないのか!?」


まぁ、どうみても薬師ですもんね。祈祷師なのは、バレてるので驚くのも分かりますよ。


さて、薬師と錬金術師の違いは何か。実は、薬師でもポーションは作れます。薬師は、この世界で言うお医者様です。錬金術師は、アイテム職人です。


薬師は、あくまで治癒の薬特化な職業。錬金術師の方は、あくまで攻撃の手助けする薬特化です。


錬金術師は、錬成とかでしか魔法が使えません。


しかし、薬師はレベルが上がると治癒術と医術そして種族医術が使えるようになります。種族医術の、最後の術が龍を治すスキルなのだとか。


しかも、錬金術師より体力が有るので格闘術で戦い易いんですよね。祈祷師とか、紙装甲ですから体術系スキルとは相性が悪いんですよ。そう、困った事に……。現在、祈祷師の回復系が封印されたので、解除されるまで薬師で対応するしかありませんしね。


「ふん、こっちが有利な事には変わらない!」


マツバさんは、そう言えば殴り込んでくる。僕は、拳を構えると驚くマツバさん。そして、テンガさんが思い出したように青ざめる。そして、動き出していたマツバさんは反応が出来ない。


ナイフを回避し、腹に蹴りを入れて追い討ちに顔を殴る。おお、急所はクリティカル判定。ポーンと、テンガさんの近くまで転がるマツバさん。HPは、残り3分の2になってます。そして、回復手段が無いので現状は変わりません。よし、大丈夫ですね。


「マツバ、拳闘士になれ!そいつ、格闘持ちだ!」


「は?そんなの、使ってなかっ………使ってたな!テンガを、蹴り飛ばしたり俺の拳を弾いてたし。」


おや、拳闘士になるんですか?流石に、本職とスキルとでは本職が上ですね。勝つには、技術力で押し通すしか無いですね。さて、腕がなります。


昔みたいに、集中して適度に力を抜く。そして、マツバさんの拳を受け止め弾き、蹴り技を入れながらも距離を詰める。マツバさんは、距離をとろうとしていますが逃がしません。グレンは、アサシンになって対等にぶつかってます。僕は、グレンに治癒術をかけてマツバの攻撃を後ろに飛んで回避します。


「よそ見とか、余裕が有るじゃねーか。」


「違います。よそ見ではなく、支援ですよ。」


テンガは、グレン相手に辛いのかジョブを戻す。僕は、咄嗟に毒を投げる。これで、異常事態でのスタートです。これで、スキルを使うのを躊躇うはず。


ジョブチェンジには、数秒の時間がかかります。その間に、異常ポーションを投げるとチェンジ先のジョブが異常にかかります。本当に、ラッキーです。


しかも、スキルの異常は効果時間があります。ですが、ポーションだとターン数が終わるまで効果は消えないんです。だから、下手に動けないんです。でも、動かないといけないんですよね。


「よそ見してんじゃねぇー!」


「大丈夫だ。だって、よそ見じゃねーからよ。」


グレンは、ナイフでマツバを攻撃する。


「グレン、ナイス攻撃。」


「くそっ!テンガ、何してやがる!」


魔術師は、魔法特化でHP量が少ないんです。水属性の回復をしても、自身の異常は解けません。つまりは、MPが勿体ないので味方に回復を使いたい。ですが、回復を使うと異常ダメージを受けてしまう。相方が死ねば、ゲームオーバーなので迷っている。


「く、【ウォーターヒール】!」


あ、自分にかけたんですね。でも、異常ダメージで回復した分が消し飛びました。属性ヒールは、100から1500までしか回復できないんです。回復職業なら、もっと回復ができるんですが。さて、どんどん回復を使ってMPを減らしてください。ちなみに、テンガさんは混乱してマツバさんに回復をかけました。よし、チャンスですね。


MP切れになれば、尚更よろしいです。


ちなみに、自分がテンガさんであったら味方を3回くらい回復して盾にします。残りHPは、おそらく2桁なので相方を盾にして自分を回復します。拳闘士には、【燃える魂】のスキルが有ります。自分のHPを3分の1、一気に回復させる起死回生の技です。なので、それを使って回復させ自分もマツバさんに回復を更にかける。HP全回復で、MP温存可能に。


これで、立て直せる。そして、形勢逆転ですね。


まぁ動揺するなら、それを利用するだけですしね。グレンも、思わず笑っていますね。


「グレン、一気に畳み掛けますよ!」


「了解!援護する!」


グレンは、杖を出して構える。ちなみに、僕は爆弾を持って投げます。マツバは、拳で打ち返そうとして爆発。大ダメージで、顔をしかめる。


「テンガ、落ち着け!自分を、回復しろ!そして、俺を盾にして………駄目だ……。俺に、2回も回復をかけているからテンガのHPは4桁……。また、俺に爆弾を使われたら詰む!テンガ、立て直すぞ!」


「おっ、おう………」


残念です、これで終わり!


ルイスは、閃光弾を投げてグレンは魔法。ルイスも、素早く爆弾をばらまく。どかーん!


ふぅー、何とか勝てました。次の相手は、前回4位でトリックスターの双子ですね。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪



彼らは、じっと次の対戦相手を見ていた。


「ねぇ、ロイヤ。彼らに、勝てると思う?」


「うん、クラー。絶対に、勝てるよ。」


オッドアイの双子は、余裕な笑みで言う。


「じゃあ、連れて行こうか。」


「うん、連れて行こう♪」


双子は、深い笑みを浮かべると景色が変わる。


「「ようこそ、僕達の世界へ!歓迎するよ、業火のグレンと薬屋ルイス。さぁ、残酷な宴を始めよう。」」


グレンは、苦々しく顔をしかめる。ルイスは、真剣な表情で静かに双子を見つめる。


「さぁ、泣き狂いなよ。」


「さぁ、悩み狂いなよ。」


双子は、道化のように笑った。

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