第10話 ルイスの過去

朝、教室に入り机に鞄を置く。皆、フリー・ライフ・リベレーションの話題でとても騒がしい。


「なぁ、瑠衣はしてないのか?」


「おはよう、神埼君。何を?」


教科書を、机に直しながら言う。すると、男子メンバーがぞろぞろ5人来る。うーん、僕が薬屋だってバレたら面倒な事になるかな?


「瑠衣っち、フリー・ライフ・リベレーションの話だよ。瑠衣っち、神官とか似合いそう。」


残念、神官より格上の祈祷師です。まぁ、悪意はなさそうだし適当に話を合わせとこう。


「神官?まぁ、そうだね。島田君は、何?」


別に、神官だとは断言していない。


「俺は、妖術師。そう言えば、神埼っちは?」


「俺?俺は、剣士でサブが暗殺者だな。」


「僕は、ドルイドです。」


「僕は、剣士ですよ。」


「俺は、罠師。」


「俺は、鍛治師にした。」


二人に続いて、東君・青桐君・藤堂君・春山君が役職を教えてくる。神埼君は、サブまで解放してあるって事はβテスターかな?一応、初心者でもサブ職を決める人は居る。けど、これは運営の意地悪。


実は、初心者でサブまで解放すると経験値が少なくなる。ちなみに、ステータス画面の名前の前に初心者のマークがつく。解放には、ゲーム世界の通貨がかなり必要なので、まともな装備を整えられないんだよね。つまり、所持金が少ない初心者が頑張って稼いでも直ぐに消えてしまう。なので、お薦めはレベル20を越えてからサブを解放するべきだと思うな。だいたい、レベル15で初心者卒業なので。


勿論、例外は有ります。


βテスターは、当然ですが別枠ですからね。簡単に言うと、レベル通りの実力だとは限りません。いいえ、レベル以上に強かったりします。もう、確実にですね。まぁ、生産職業は例外に入らない事も有るそうですが。僕は、どうなんでしょうね?


どちらにしろ、この知識は彼らには必要なさそ……


「そう言えば、サブ職業どうする?」


「あー、どうしようか?」


すると、神埼君は僕と同じような表情をしている。


「あー、お前らレベルは?」


「全員、レベルは7だぜ!」


僕は、思わず言ってしまった。


「まだ、解放しない方が良いよ。」


すると、神埼君も頷いてから何かに気付き固まってから僕を見る。あー、やってしまった。


「まぁ、瑠衣には後で色々(・・・・)聞くとして。」


うぉぉぉー、完全にバレた!何やってんの僕!


「何で、解放しない方が良いんだ?」


「それは、経験値が2つの職業に流れるからレベルが上がらなくなるんだ。それに、獲得経験値もかなり少なくなる。後は、ゲーム内コインがヤバいぐらい必要で装備や消耗品が揃えられなくなる。」


まぁ、うん……大まかに言えばそうだね。


「えーと、他にあったかな?」


そう言って、こちらを振り向く神埼君。


「何故、僕に聞くのさ………」


「お前、ベテラン枠だろ?」


流石に、βテスターだとは思われてない模様。ならば、ベテラン枠として情報を絞って話せば大丈夫なのでは?うん、慎重に話してみようかな。


「他にも、PKにターゲットされやすくなる。後は、初心者でサブ持ちは余り強い人が組んでくれないんだよ。ほら、経験値って二人で稼いだとしてそれが合計され半分ずつ渡されるでしょ?経験値が、余り稼げない初心者のサブ持ちはとてもパーティーを組むときに不人気なんだよ。ある程度育てれば、職業のバランス的な問題で経験値が普通に戻るけど。」


すると、そうだなと神埼君は思い出したように頷いている。さて、可能な範囲の問答を受け付けますかね。本来ゲームならしない、情報のただ売りを知り合いだしね。まぁ、可能な範囲だけね。


「なぁ、職業のバランス的な問題って?」


「ようは、職業のレベルが近すぎると経験値が少なくなる訳でしょ?なら、片方を強化すれば経験値はもとに戻る。まぁ、レベルが高い方に経験値が多少は多く入るけど、片方にもそれなりの経験値が入るからちゃんとどちらも育つんだよって事かな。」


僕は、ノートに分かりやすく書きながら説明する。すると、神埼君が何か考えている。え、何か問題でも?これくらいなら、ベテランの人達は誰でも知っている情報だよ。というか、それなりにゲームやっている人は誰でも知ってるよね?また、僕は何かやらかしましたか?うーん、後回しで!


そろそろ、先生が来そうなので解散。



昼休みになる。さて、図書室にでも………


「なぁ、瑠衣。今日の8時に、一緒にクエストに行かないか?実は、5人のパワーレベリングに付き合う事になってさ。一人だと、少しだけ辛いし。」


「あー、ごめんね無理。にしても、神埼君はパーティーやクランには所属していないの?」


僕は、謝りながら苦笑して聞いてみる。


「それが、いろいろあってソロなんだよ。」


「伝とか、持ってないの?」


思わず、困ったように言う神埼君に僕は言った。


「うーん………。フレンド、1人しか居ない。」


え、えーと何で悩んでるの?


「なら、その人に頼んでみたら?」


「………………薬屋さんなんだよ。」


思わず、僕はキョトンとして気づいた。駄目やん。それ、僕だから頼られても駄目ですやん。


「あー………」


何て言って良いのか………


「そう、あのイベント嫌いで人と組むのが嫌いな。まさか、5人一斉にパワーレベリング頼まれるだなんて………。なぁ、瑠衣。どうすれば良いかな?」


まさか、グレンさんが神埼君だとは予想外だった。


「神埼君、誰にも秘密にしてね。」


そう言うと、神埼君はキョトンとしてから頷いた。僕は、ノートを出して誰も居ないのを確認する。そして、ノートにカリカリと走り書きする。


《僕が、薬屋さんことルイスなのですよ。まさか、神埼君がグレンさんとは予想外でした。》


すると、神埼君は驚いてから僕を見る。僕は、頷いて消しゴムで文字を急いで消す。


「あー、なるほど………。」


「別に、手伝っても良いです。ただし、グレンさんのフレンドって扱いでよろしくお願いしますね。」


薬屋口調で、神埼君に言えば神埼君は驚いて笑う。


「おう、よろしくなル……瑠衣。」


今、ルイスって言いそうだった。教室に、人が入って来たので慌てて訂正したんですね。


さて、試練は取り敢えず休憩ですね。試練は、普通は間を開けてするのが通常なので良いかも。それにです、早くリルとソルに会いたいしね。


たまに、薬屋口調が入るのは許してください。本当は、薬屋口調が普段の僕なんですが堅苦しいと言われて直しているんですよ。頑張って……


「じゃあ、夜の8時に噴水広場で!」


そう言うと、どこかに行ってしまいました。さて、僕がパーティーに入った事であいつらがどう行動を起こすのか。まぁ、何となく分かっていますが。


僕は、ルイスとして心の中でため息を吐き出した。





さて、噴水広場で待ってます。時刻は、19時半を過ぎた頃ですね。うーん、何か凄い視線を感じます。


一応、七龍の皆には言ってから来ています。


そして、2匹は久しぶりの再会におおはしゃぎ。暫く、甘えられて身動きが取れず大変でしたね。


さて、聞いていたプレイヤーネームを見つけました。


グレンさんは、まだ来ていないですね。あら、5人ともダンジョンに入って行っちゃいました。これは、嫌な予感がします。


ルイスは、走って5人組を追いかける。


そして、5人に絡むプレイヤー集団を発見。


「ここが、バトルフィールドって知ってるよな?だから、襲われても仕方ないよな?じゃあ、とっとと死んで経験値を落としやがれ!」


ルイスは、素早くナイフを抜くと男と5人組の間に割り込む。


そして、ナイフで剣を受け止めてなんとか弾きナイフを男へ3本投擲する。そして、毒のポーションを他のメンバーに投げつける。2本あれば、風に流されたりして異常に掛かるかな。このゲーム、初期はPK禁止だったけど今はPKは許可されている。


「こんばんは、初心者の皆さん。」


『助けてくれて、ありがとうございます!』


僕は、苦笑してから愚痴る。


「いえいえ、グレンさんが早めに来ないのが悪いですよ。普通は、早めに来て待っておくべきです。」


「まさか、か………グレンの言っていた助っ人て……」


5人は、興奮したように僕を見る。


「はい、僕ですね。初めまして。」


僕は、優しく笑えば嬉しそうに跳び跳ねる5人組。


「ちっ、畜生がぁ………邪魔すんじゃねぇ!」


「おや、貴方が言ったんですよ。ここは、バトルフィールドだって。そして、襲われても仕方ないよなって。でも、襲って来るなら、反撃されても仕方ないのでは?プレイヤーには、自己防衛の義務が付きまといます。私は、フレンドの仲間が圧倒的な戦力差で襲われていたので助けただけです。何か、文句でも有りますか?あるなら、優しく教えて差し上げますよ。言葉で理解しないなら、黙らせるだけですが。さて、何か言いたい事は有りますか?」


僕は、冷たい雰囲気を意識して一気に言い放つ。


「く、あんたは関係ないだろ!」


「いいえ、これから彼らとパワーレベリングに行くので無関係では無いですね。まさか、デスペナルティーの状態ではパワーレベリングは無理ですし。」


すると、頷く5人。


さて、いい加減こそこそとしないで貰いたい。


「生産職が、戦闘にでしゃばるんじゃねぇ!」


そう言えば、隠れていたメンバーが僕達を囲む。


「その、生産職に倒された貴方が言いますか。それにです、生産職が居ないと困るのは誰ですか?トップクランでは、生産職業もレイドに行ってましたよ。鍛治師は勿論だし、装備にも耐久値が有りますから。それに、錬金術師だって消耗品を追加するために前線に出ていました。それに、生産職業が戦えないだなんて誰が決めたんですか?」


僕は、七龍がくれた龍結晶のナイフに装備し直す。そして、とある方向を見てから言う。


「ずっと、僕に任せるつもりですかグレンさん。」


「うーん、悪いな。足止めくらってた。」


僕は、ナイフを直して神官と祈祷師のどっちも仕えるスキルを選んで祈りを捧げる。


「では、本職に戻りますね。『ヒール』『慈悲の涙』では、頑張ってください。」


「ほいさ!」


いやー、清々しい程の瞬殺ですね。一応、毒の異常にかかっているとはいえスピーディーです。


さて、僕も少しだけバレないスキルを。


【龍の威圧】!


よし、敵が硬直状態になった。まぁ、レベルが低いのでほんの一瞬だけですけどね。


「お、行動制限系のスキルか。サンキュー!」


あー、バレるんだ。さすが、グレンさん。


「えっと、ばれました?」


「うーん、直感だけど何となく。」


これからは、使うときは気を付けよう。


「にしても、ルイスも戦えんだな。」


「まぁ、採取する上で戦闘は不可避ですからね。」


すると、グレン深呼吸してから言う。


「じゃあ、紹介する。俺のフレンド、薬屋のルイスだ。今回は、無茶を言って来てもらった。」


「基本は、皆さんの回復とサポート役ですね。気楽に、よろしくお願いします。」


5人組は、嬉しそうに頭を下げる。


「さて、俺達もレベルを落とそうか。」


「ですね。」


そう言って、アイテムを取り出す。上級者が、初心者を育てる為のアイテムでレベル50以上で貰えるアイテム。確か、師範の腕輪。レベルを、平均値まで落とす変わりに初心者達の経験値が僅かに落ちやすくなる。外せば、もとに戻るので想定外にも対応しやすい。しかも、30メートル離れると自動でインベントリに戻るのでとても安心。


さて、移動する前にやっぱり来るよね。


「ん?どうした?」


「すみません、僕に御客・・・です。」


すると、グレンは驚いてから考える。


「そっか、ならモンスターも居ないしここで待つ。」


「やっぱり………。まぁ、いっか………」


僕が口調を変えると、グレンと5人組が驚いている。そこまで?


「ルイス、何で俺達じゃなくて初心者なんだ?」


「だって、君達が欲しいのは戦力じゃなくてポーションじゃない。ポーションだって、ただじゃないんだよ?なのに、パーティーに入ったからには無料でポーションを寄越せとかバカなの?」


すると、グレンも事情を理解したのか黙って聞いている。うん、ありがとう。うっかり、横槍を入れられると厄介だしそのままでね。面倒だし……


「俺達が、β時代に誘ってやったのに!」


「それで、僕をPKに襲わせた訳か?お陰様で、生産職業最強って呼ばれるくらいになったよ。」


僕は、思わず低い声音で皮肉を言えば彼らは怯える。何に、そんな怖がってるの?僕は、別に怖がらせてないけど。さて、もう終わらせよう。


「それに、僕をPKしてドロップしたものを3倍の金額で転売したり。レシピを盗もうと、アトリエに忍び込んだこと。更に、アトリエを燃やした事なんて過去の事でしょ?今の僕には、君達なんて興味の範疇に無いんだよ。だから、消えて?消え失せて?また、運営からアカウント凍結されないようにね。」


あれ、2匹が凄く怯えてる。グレンさんも、青ざめている。5人は、座り込み震えている。


「さて、お待たせしました。」


「お、おう………ブラックルイス恐るべしだぜ。」


ん?ブラックって、そうでも無いよね?


「まぁ、こういう事が昔にあったのでパーティーには入らなかったんですよ。まぁ、今回は僕の役職が回復職なのでポーションはお守りみたいなものですね。なので、どんどん突撃してください。」


すると、全員が驚いてから笑う。


「なら、今後も誘っても良いのか?」


「うーん、暫くは一人が良いですけど………」


グレンさん、そこはスルーして欲しかった。思わず、ルイスは歯切れが悪く返す。


「了解。そのうち、イベントに連行するな。」


「ちょ、イベントは別ですよ!?」


待て待て待て、クエストなら良いですけどイベントは無理ぃ!慌てて、返答したけど………どうしよう。


「うん、だから連行なんだぜ。どうせ、イベント嫌いなお前を引っ張りだそうとは思っていたしな。」


「そんな、殺生な!?」


あー、聞いてない。というか、どのイベント?


「はいはい、それじゃあ行こっか。」


その対応に、僕はどうしようかとため息を吐き出した。

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