第6話キャラクエスト(完)

さて、どうしようかな?僕は、近くのレストランに入り考える仕草をする。2匹は、膝の上で場所の取り合いをしている。思わず、頬を緩めてしまう。


「やぁ、もしかして尾行に気付いてた?あ、俺にもレモンティーとシナモンケーキ。」


青年は、近くの店員に言って目の前に座る。


「ギルドは、どう考えているんですか?」


「長は、キリアを連れ戻したいらしい。」


まぁ、だよね。でも、返してあげない。裏切り行為を、知りつつも放置していたんだし。これでも、僕は怒っているんだ。キリアさんは、きっと傷ついたはず。なのに、また傷つけるつもりかな?


「そう……。それで、僕に何か用ですか?」


「まず、キリアを助けてくれてありがとう。」


今まで、軽薄な笑みを浮かべていた青年は真剣に言う。もしかしたら、キリアさんにポーションをかけたのは彼だったのかも。まぁ、臆測だけどね。


「まぁ、見捨てるのは嫌だったので。」


「それで、あんたはキリアを守れるほど強いか試しに来た。聞けば、生産職で戦いに向かないとか。」


僕は、思わず鼻で笑ってしまった。


「それは、何処で聞きました?」


「ギルドのツテで、色んな組織から聞いた。」


うーん、そのツテにプレイヤーは含まれていないようだね。思ったより、ギルドの権力は弱そうだし。


さて、おそらく彼は独断で動いている。もし、ギルドが関係してたらここまでアクティブには動けないはずだし。そうなると、今度は彼の身が危険になってしまう。キリアさんは、それを望まないだろう。


「あの、生産職がいつ戦えない職業だと決まったんですか?生産職を、舐めてません?」


そう言って、冷たい笑みを浮かべる。青年は、表情を青くして無意識に震えている。


さて、どうしようかな?


「何か、凄いはったりだね。」


僕は、レモンティーを飲むと暢気に笑う。


「なら、試してみますか?その為に、わざわざ尾行してきたのでしょう。なら、お相手しますよ。」


すると、周りのプレイヤーが反応する。だけど、無視してレモンティーのカップを空にする。


「なら、場所を移さなきゃね。」


「その前に、レモンティーとシナモンケーキを早く食べ終わってください。これでも、する事は山積みですから早く帰りたいんですよ。」


すると、青年は急いで食べはじめる。あーあ、そんな食べ方したら戦闘に支障が出るのに……。まぁ、知ってて指示した僕が言える事では無いけどね。


今回は、全力を出す予定はない。


あくまで、人間として制限をかけた姿で戦う。青年が、こちらの味方になるとは限らないから。勿論、祈祷師のスキルも封印。そして、使うのは種族スキル拳闘術と身かわしと錬金術だけ。


そう、昔と同じ戦闘スタイルである。


僕は、2匹を膝からおろして立ち上がる。暢気に、青年を見て場所を聞いてみる。


「それで、何処で模擬戦をしますか?」


「一般フィールドを、部下に予約させてる。」


ふむ、一般フィールド……。確か、イベント前で多かったはずなんだけど。まぁ、予約なら大丈夫かな?


………はい、予約は出来てませんでした♪


「………ごめん。」


「別に、構いませんが。」


とても、落ち込んだ様子で謝る青年に短く答える。うん、まぁ………そうだと思ってた。うん………


「あれ、薬屋さんじゃん。どうしたの?」


「マッキーさん、お久しぶりですね。少し、彼と模擬戦をする事になりまして。」


すると、マッキーさんは青年を値踏みする。


「やめとけ、一瞬で殺られるぞ?」


「えっ??」


僕は、思わず苦笑して静かにのジェスチャー。


「これ、キャラクエなので避けたくありません。」


「あー、なるほど。キャラクエなら、避けるのは得策じゃないな。もしかして、若いあんちゃんの方のキャラクエか?あれには確か、バッドエンドが……」


マッキーさんは、心配そうに僕を見ている。


「………させないよ。だって、もう決めたし。」


一気に、ルイスの雰囲気がガラリと変わる。いつもの、とても優しそうで落ち着いた雰囲気が消え、背筋が凍てつき無意識に震え上がるような雰囲気だ。


「相変わらず、背筋が凍るような雰囲気だな。」


マッキーさんは、思わず苦笑している。


「なら、俺らが借りてる場所を少しだけ貸すよ。それに、生産職最強様の実力を再確認したいし。」


「はぁっ!?ま……さか、あのかっ!?」


もう、遅い……。この土壇場で、逃げる選択は潰えたしね。僕も、支援ばかりで身体を動かしたかったんだよね。ちょうど良い、軽い運動をしようかな。


ここには、βプレイヤーが多い。すなわち、僕みたいに卵を貰った人が多い。2匹は、他の子達と走り回ったりじゃれたり遊んでいる。


うん、可愛いです。


「薬屋さん、後でSS送るから撮って良い?」


「じゃあ、フレンド登録しましょう。」


そう言って、マッキーさんと握手して言う。


「「フレンド登録」」


ピコンッ 


マッキーさんとの、フレンド登録が終了しました。

フレンドボタンで、もう一度確認してください。


僕は、確認して頷いて画面を消す。


さすが、マッキーさん。僕は、フレンド設定から写真許可を出す。よし、これで戦いに集中できる。


「………えっと、お手柔らかにお願いします!」


「はい、勿論です。本気は、出しませんから全力でどうぞ。マッキーさん、審判を任せたいのですが。そうですね、個人依頼になりますが。」


すると、マッキーさんは暢気に笑う。


「別に、いらない。それなら、観戦料の方が高くつくし。審判することで、観戦料を無しにする予定なんだぞ。それに、俺とお前の仲だろ?」


「何か、相変わらずで安心しました。」


そう言って、ポーチを腰につけて拳を構える。


青年は、暗殺者らしく素早くナイフを投げてくる。それを、身かわしであっさり回避して、いっきに距離を詰める。青年は、驚いて距離を離そうとしたが残念。少しだけ、遅かった。僕は、青年の腹に一撃を入れて吹き飛んだ身体に更に拳を入れる。


暗殺者は、基本は素早さとタフさを持っている。そして、短期決戦で一撃必殺タイプが多いため、長期戦闘で防御を固めるスタイルが良い。


でも、そこまで時間をかけたくない。


いくらタフといえど、急所に強めの攻撃を2度も受ければ、高確率で立ち上がれないはず。


ピコンッ


【拳闘術】が【格闘術】を進化しました。


わぉ、これで蹴り技も出来ると。うん、嬉しい。


というか、起き上がらないね。うーん、錬金術は使わなかったなぁ。さて、近づいてみる。


あっ、状態が気絶になっている。


仕方ない、ポーションでもかけてあげますか。


「マッキーさん、脇に寄せとくので放置しても良いですか?そろそろ、お店に帰りたいんですよ。」


「お、おぉ……… 良いぞ。それと、薬屋さんと敵対してはいけません!今日から、俺達の教訓だ!」


うん?何故、皆さんは青ざめてるの?


「薬屋さん、ちなみにレベルは?」


「えっと、秘密・・・です☆」


えっと、53だったんですが、今の戦闘で55になりましたね。経験値、どっさりです。とは、言う訳にはいかず。取り敢えず、可愛く言ってみた?


あれ、皆さん今度は赤くなってますけど?


ピコンッ【魅了】を獲得しました。


魅了?いつ、僕が魅了したんだろ?


本人は、気付いていない。髪を結べば、男には見えるが可憐さが消えた訳ではない事を。


そして、可愛い子供を周りが放置できない事も。


ピコンッ


ユニーク称号【傾国】を獲得しました。


せっ、説明を読んでみようか。


プレイヤーとNPC含む、この世界の住民200人以上から愛された者につく称号。


ふむ、心当たりが全く無いんだけど………。※無自覚


まぁ、良いかな。よし、お店に帰ろう。


クエスト:その意思は、強く揺るがず真っ直ぐに

            (完)


ちなみに、ここで負けるとバッドエンドになる。キリアさんは、主をわずらわせた原因が自分だと知って激怒してしまう。そして、ギルドに復讐し最後は自殺して悪霊となり、結果的に友人に殺される。


さて、キリアさんのクエストが開始してるって事はですね………。ランコルさんのも、当然なから発動してるんですよね……おそらく。うん、予定変更だね。


この時間、ランコルさんは教会にお祈りしに行く。


なので、お店は閉めており留守番はキリアさん。つまり、ランコルさんが一人で行動している。


僕は、2匹に走るように指示する。


何か、プレイヤーから視線を感じるけど無視。傾国は、発動してないし称号やスキルじゃないはず。


ランコルさんは、黒い服の人達に囲まれている。キャラクエスト、その場合だけ戦闘フィールドになるシステムかな。ここは、街からも離れているからね……。そして、やっぱり開始てした。


「ランコルさん!」


「マスター、逃げてください!」


僕は、小さな試験管を取り出し男達に4本投げる。


「ランコルさん、聖結界を自分に!」


すると、ランコルさんは素早くスキルを使った。


僕は、大きく息を吸って止める。そして、黒い服の人達を格闘術で倒し、ランコルさんの腕を掴んで走り出す。毒で、動きを制限した。僕は、息を吐き出し短い時間で息をととのえる。


ランコルさんは、目を丸くして僕を見ている。


「マスター、追い付かれます。」


「そうだね。」


すると、2匹が光を放つ。え、進化!?ではない。


人が、一人は乗れる大きさだ。リルは、ランコルさんを強引に背中に乗せる。僕も、ソルに乗り森の方へ走り続ける。いつ覚えたのか、騎乗のスキルが増えていた。2匹は、助走をつけると器用に樹の上に跳び移り、地面に綺麗に着地すると更に走り続ける。後ろから、黒い服の人達も追ってきている。2匹は、何処に向かっているの?


そこは、森の開けた土地。


なるほど、ここで戦えばいいのか。さて、ソルもリルもやる気があるようだ。僕は、ため息を吐き出して2匹に感謝の言葉を言う。


本当は、この世界の住人は殺したくない。何故なら、この世界の住人は死んだら生きかえらない。本当に、死んでしまうから。でも、身内を守るためなら僕だって鬼にならないとね。


おや?


見てみると、プレイヤーだと理解する。なるほど、守るクエストがあるなら殺るクエストもあると。


でも、相手がプレイヤーなら別に良いかな。


僕は、鬼になります。


「ランコルさん、目を閉じて耳をふさいでくれませんか?余り、冷たい僕を見て欲しくない。」


ランコルさんは、頷かない。仕方ない、ランコルさんはおじいさんだし、分かってくれると信じよう。


僕は、2匹と一緒に全滅させた。余り、強くは感じなかったな。スキルも、身かわしと格闘術しか使わなかったし。そろそろ、帰ろうかな。


「ランコルさん、暫くお店を任せます。」


「それは、私が貴方の戦闘を見たからですか?」


僕は、首を左右に振り苦笑する。


「僕は、人ではないんだ。だから、その関係で帰らないと行けない。貴方なら、お店を任せられる。」


「………いいえ、私もお供します。」


ルイスは、困ったように笑って言う。


「残念だけど、それは無理なんだ。これは、種族クエストだから。僕が、仲間が増えても守れるように強くなるためのね。ですから、お願いです。」


「………分かりました。それと、私達の事は呼び捨てでもよろしいんですが。マスター?」


「じゃあ、君達が僕をマスターと呼ばなくなったら呼び捨てにするよ。僕だって、名前はあるんだからね?少し、身内に役職で呼ばれるのは辛いかな。」


よし、敬語を使わず言えた。(ドヤッ)


ランコルさんは、驚いて優しく笑った。そして、心からの言葉を僕に言ってくる。


「口調が変わっても、貴方は全く変わりませんね。了解です、ルイス様の期待に全力で答えます。」


僕は、優しく笑って頷いた。さて、そろそろ7龍の試練に行こう。もう、準備は出来ている。


さて、このまま次の国へ行こう!

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