夜の森はやりたい放題
僕が残してたパンは夜の見張りの時間に食べようと思ってた。だけど一緒に見張りをするハンセンとペインにも分けてあげた。
どうせ僕1人だと全部食べきれないから。
「森が凄く静かだね」
ナワバリを見て回る魔狼の遠吠えも、夜行性の魔獣や魔物の戦う声も咆哮も聞こえない。聞こえてくるのは虫の声や鳥の声。
「どこがだよ、さっきからずっとホーホーうるさいじゃないか」
ハンセンに言われた事を考えてみる……
そうかな? 寮の夜の方がイビキとか寝言でうるさい気がするけど。
「うるさいより腹の具合の方が辛い、これっぽっちじゃ食った気にならない……」
ペインはずっとお腹をさすってる、ちょっと前にタケノコをガツガツ食べてたはずなのに。
「鳥で良ければ獲って来ようか? 運が良ければ卵も手に入るかもだけど」
夜の鳥は飛んで逃げないから簡単に捕まえられるし、巣を見つければ卵もあるかもしれないからと聞いてみたら。
「出来るのか?」
焚き火に照らされたペインの顔はとても真剣……
「お願いしたいわ。お腹が減って全然眠れなくて困ってるのよ」
ルピナスさんまで起きて来て真剣な顔してる……
「じゃあ朝ごはんの分も合わせて獲って来るから、少し時間かかるけど見張りをお願いしても良いかな?」
ペインとルピナスさんは凄い勢いで首を縦に振ってる。ハンセンは小さく振ってる。
「じゃ、行ってくる」
久しぶりの夜の森……ずっと探ってたけど、魔物の気配はしないから一気に行こうかな。
10分くらい森を進んで、少し大き目の木に登って耳を澄ましてみる。
やっぱり鳥は寝てる時間、寝息と鼓動を捉えるのに少し時間がかかるけど、こんなに静かな森なら、それも簡単。
「見つけた……2羽」音を立てないように静かに木を登る、出来るだけ揺らさないように巣に近付いて、1羽掴んで首をクイッとひねれば1羽目ゲット。
立て続けに2羽目もそっと掴んで首をポキっと。
この巣には卵は無し。
大きさは僕の手の平より少し大きいくらいの鳥、なんて名前の鳥か分からないけど焼けば食べられると思う。
「おっ……そこにもある」同じ木に3箇所も巣があって、それぞれに2羽ずつ。幸先が良いな、あっという間に6羽。木に巻いてるツタを何本か引きちぎって、両端に鳥を縛り付けて肩に担ぐ。
「1度戻ろうかな、持ったまま行動するのは嫌だし」
耳を澄ましてペインやハンセンの話し声を探す。
一応来た道は覚えてるけど念の為。
「6羽捕まえて来たから羽を毟って内臓を取り出しといて欲しい」
「おっ、おうっ……」
ペインに渡して再度森に突入、今度はもう少し大きい鳥が良いな……
今度は地面の匂いを探して歩く。
鳥の糞の匂いを探して大きな木の周囲を注意しながら歩いてたら。
「ヘビか、食べられるよな」
鳥の巣を狙うヘビを発見。
太さは僕の腕くらいかな。適当に枝を折ってY型になるようにして、鳥の巣を狙うヘビを後ろから捕獲。鎌首の部分を掴んで口を覗き込んだら牙が無いから毒は持ってなさそう。
「食べ応えありそう」
全長は僕の身長よりあるかもしれないヘビが僕の右手とY型の枝に巻きついてるんだけど、折った枝の中から尖ってる枝を選んで口の中に突っ込んでから鎌首目掛けて突き刺す。
「皮を剥いで血抜きと内臓の処理と背骨の処理をお願い。もう一度行ってくる」
「ああ……」
ヘビが狙ってた木に戻ってみる。そこそこ大きい鳥の巣があって、大きな鳥が1羽寝てる。
僕が近付いたら起きたけど、見えてないらしく飛び上がれもしない。
「爪で怪我しないように……」
これも首を掴んでポキっと。さっき獲った6羽より重いかも。もう一度戻ろう。
「これの羽は残しといて欲しい、矢羽に加工するから」
「ああ、わかった……」
そんな感じで何回も拠点と往復して、昼までの分くらいにはなりそうかなってくらい、鳥やヘビ、リスやムササビなんかを捕獲。
結局皆が起きて来て、全員で羽を毟ったり、血抜きをしたり肉を洗ったりしてくれた。
「ついでだし、香草も採って来るよ」
「まだ行くのかよ……」
どうせなら皆に美味しく食べて貰いたいから。
そう思ってもう一度森に入る。
何度も拠点と往復する間に、何ヶ所か野草の繁ってる場所を見つけてたんだ。
肉の臭みを取るのに使う行者にんにく、香り付けに使うバジル、その他も適当に、ある程度量を確保したら茎で縛って持ち帰る。
「これで終わり。あとは明日、目的の物を探しながら食べ物探しも一緒にやるよ」
「ああ、処理するのは俺達に任せてライルは寝てくれよ」
そうは言われても……
「充分寝たよ。塩もみしたい香草もあるから、僕も手伝うよ」
肉の処理が半分も終わってない。このままだと夜が明けちゃいそう。
「ユング、ライルにも手伝って貰いましょ。私達だけじゃどうにもならないわ」
さすが食欲に忠実なルピナスさん、分かってる。
「でも……」「気にしないで」
みんな解体用のナイフすら持ってないから、全然進んでないもんな。
ダズの持って来た手斧で解体するとか大変そうだし。
「肉を分けるのは指でも大丈夫だよ。僕がやって見せるから、見といてよ」
血抜きして羽を毟って内臓は取り除いてくれてたみたい。
だけどそこまで、丸ごと焼くのは時間が掛かるし焦げるからやりたくない。
「皮はここに指を入れて、少し剥がしたら一気に引いて剥いてしまって」
本当は皮も付けたままの方が良いんだけど、羽の毟り方が下手だったのか、所々剥がれて傷んでる。これなら剥がしてしまった方が良い。
そう思って割いたお腹の所から、一気に皮を剥く。
「へえ……皮って簡単に剥けるんだな」
ケルビムが僕の手つきを見ながら、同じように皮を剥いてくれた。他の人は四苦八苦してる。
「1羽焼いてみる?」
僕の提案に皆賛成。行者にんにくとバジルを細かくちぎって肉に刷り込んで、塩をまぶして串に刺す。
焚き火に直接当たらないように、少し離して置けるようにYになってる枝を数本折って持って来る。
「なにこれ? 期待してなかったけど凄くいい匂いがする……ダメ、お腹が余計に減っちゃう」
ルピナスさんはタヌキの獣人で、1日に自分の体重の1/4ほど食べる種族なんだと。
僕と体格はそんなに変わらないし、僕がだいたい40kgくらいだから、ルピナスさんは1日に10kgくらいの食べ物が必要って事になる。
こんな難しい計算も、毎日ボーウェン先生と勉強してるから、少し考えないとだけど、出来るようになったのが嬉しい。
「食べるなら、ちゃんと焼けてからね」
僕の言葉で皆に火が着いたらしい。全員が僕の真似して味付けした鳥肉を串に刺して焼き始めた。
「同士ライル、唐辛子を持ってたよな。少し分けてくれないか?」
ルーファスは辛く味付けしたいみたい。
「僕も少し付けるから分けてね」
そう言って、食堂で貰って来た鷹の爪をルーファスに3本渡した。
「ねぇ、辛く味付けしたお肉も食べたい」
僕とルーファスのやり取りを見て、ルピナスさんも焼ける肉から目を離さずに、確保した鳥肉に鷹の爪を使いたいって言ってきた。
「こんな時に土属性のゴーレム召喚が得意で良かったと思うよ。見て、香辛料すり潰しゴーレムと名付けたんだ」
僕が渡した鷹の爪3本を、小さな石のゴーレムがすり潰してる。
手がすり鉢とすりこぎ状になってて、凄く上手に鷹の爪を粉にしていくんだ。
凄く便利だけど、こんな事に召喚魔法なんて使って良いんだろうか……
村に住んでた召喚師も変な物ばっかり召喚してたから良いのかな……
皆の目は自分の確保した鳥肉に釘付け。
僕はヘビやリス、ムササビなんかを処理してる。
「棒を刺して簡単に刺さって行くなら大丈夫だよ」
焼け具合を気にしてる皆に声を掛けてみた。
「美味しいわ! このお肉凄く美味しい」
「たしふぁにうまふぃ」
ルピナスさんとペインはさっそくモシャモシャかぶりついてる。
他の人達も2人の言葉を聞いて一気に……
結局全員夜明けまで起きてて、全種類の肉を焼いて食べて、たらふくになって夜が明けたのに寝てしまった……
「お昼の分……足りないかもな……」
昼間は罠でも使わないと鳥を獲るのは無理だろうし、どうしよう……
どうしようって悩むくらいなら罠を作ってしまおう。そう考えて、1人で森に戻って来た。
埋める前で放置されてた鳥の内臓を餌にして、見つけたけもの道にくぐり抜けようとすると締まる罠を数カ所作った。
「後で棍棒でも作らないとな」
罠に掛かった動物を仕留めるのに使う物を考える。
手斧でも良いけど、出来れば安全な拠点に帰ってから血抜きはしたいし。
そんな事を考えながら資材置き場に戻ったら。
「ハンス、無理はするな。帰るぞ」
ゼルマ先生がハンセンを抱き抱えて。
「大丈夫です。まだやれます」
真っ青な顔をしたハンセンを連れて帰る所だった。
なんと言えば良いのか、まるで最前線で暮らしていた頃を思い出すとでも言えばいいのか。
夜になって活動を始めたクソガキの行動力には驚かされた。
「なるほど、ある程度の実力は既に持っていると思って良さそうですな」
夕方以降の動きを監視していればソレがよくわかった。
「そして貴方が何故にここに居るのかも理解出来ました。まさかハンセン殿下が同道してるとは」
3年前に連れ戻された王太子殿下の長子……
「アレが夢を叶えられるかは全て祓魔師達の成果に掛かっている。無理を言うかもしれないが、頼むぞヨシフ」
3年前のアレは祓魔師達にとっては屈辱だった。
「王弟陛下の時のような失態は我が魔導書にかけて二度と無いと誓う。あの様な屈辱を繰り返してたまるか……」
「そう思い込みなさんな。アレは人の力ではどうにもならん出来事だったのじゃから」
いや、今考えてみれば我々祓魔師の怠慢だった。
「まずいな、今日の所はお開きにするか。明日もここで監視を続けるつもりだから、話したい事があれば尋ねて来ても良いぞ」
兄弟子の焦る表情を見たのは久々だ。
「また来させて頂きます。貴方がエルフを解放した後に何をしていたのか。色々と聞きたい事も話したい事も沢山ありますから」
「でわ、ワシも1度戻るとするかのう。アーバイン導師、乗って行くかえ?」
ボーウェン・ゼルヘガン、老いても魔道の腕は衰えずか……
「ええ、有難く。ゼルヘガン卿、流石ですな。魔銀のユニコーンですか」
気付かぬうちに、いつの間にか召喚された魔銀製のユニコーンに乗って王都へ向かう道すがら。
「来年は貴殿の娘御も入学してくるんじゃったのう。それなら今年のうちから少しマシな講師を寄越してくれんか?」
先日の報告書を読んだのは昨日の夜の事だった。
もう少し早く知っていれば色々と対応出来たのだが。
「ええ、本格的に祓魔師として修行するなら、最も適した人物を講師として出向させますよ」
クソガキめ、我が愛娘に相応しい男になれるように、最適な人物を送り込んでやろうじゃないか。
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