海ダンジョンへ行こう


 海の冒険者が凄いと知った俺。

ついでに付与術師も凄いと知れて良かったと思う。


 そして今日は俺のフィールド。

 朝から森に向かう日で、北の森にはエコー草らしき物は生えてなさそうだったから東の森に来てみた。クマの目撃情報が無かったってのも理由の1つ。


「ねえライル。ホントにこんな所に生えてるの?」


 今歩いてる所は薪用に伐採された木の切り株が下草から顔をのぞかせてる場所。


「陽のあたる場所で、風通しがいい場所。原生林の中で、そんな条件に当てはまるのは、こんな所なんだよ」


 途中で何回かゴブリンの集団を発見したけど、この辺りのゴブリンは人間を見ると逃げて行くようで戦闘にはならなかった。


「さっきの所はダメだったし、こんどは生えてて欲しいな」


 伐採跡地を調べるのは今日3回目。最初の跡地には既に植林してあって、俺の背より2m高い所まで木が伸びてた。


「エコー草もだけど、鳥殺しもこんな感じの場所に生えてるから、踏まないように気を付けろよ」


 鳥殺しって物騒な名前の付いた魔草。触ると小さ目の焼き串くらいの太さと長さの尖った種を飛ばしてくる危ない魔草なんだ。

 鳥が近付いたら種を高速で射出して射殺して、そのまま養分にしてしまう。危険だから見付けたら必ず処理した方が良い魔草で、薄い布くらいなら貫いて足に刺さる。


 刺さると抜く時に返しが付いててめちゃくちゃ痛いんだ。


「鳥殺しが生えてるなら種を採取したいかな、あれも買うと結構高いんだよ」


「それなら、そこの奴でも魔石ごと抜いて持って帰って育てるか? まだ種が乾燥してないから飛ばしてこないし、今抜いて鉢植えなんかを木箱で囲んで、適当に日当たりのいい場所に置いとけば、野菜と同じくらいの感覚で育成出来るぞ」


 カルラの足元、まだ背丈が30cmくらいの鳥殺し。

鞘が緑色してるから、まだ種を飛ばす段階じゃないし。


「え……これって鳥殺しなの?」


 俺がソコと言いながら指さした場所を教え見て、キョトンとした顔をしてるカルラ。


「今なら触っても大丈夫。種を飛ばすようになったら葉っぱとか鞘が鮮やかな赤になるから覚えとけよ」


 そんなこんなしながら、エコー草を探す事15分くらい、目的のエコー草を発見したのは切り株の横を通り過ぎた瞬間。


「気持ち悪いよなコイツ。どう見ても唇だろ」


「おお、ホントに生えてた。生のエコー草を見たの初めてだよ」


 普通だったら魔石を抜いて乾燥させた物しか流通してない。


 だってコイツが生きてたら……


「耳塞いどけよ」


 ちょっとした衝撃を与えると。


「ピギィピギィィィィィ!」


 チューリップみたいに1輪だけ咲く花、エコー草の花は人間の唇そっくりで、でかい雌しべが舌のように飛び出してる。少しでも衝撃を与えるとエコーを効かせて叫ぶからエコー草。


 ハッキリ言うと不快な音、いちおう両耳を塞いでるから被害は少ないけど、耳を塞がず直接聞いたら、しばらく耳鳴りが止まらなくる。


 採取方法は簡単、叫び終わったら地面ギリギリの茎の部分を踏めば良い。こうすると何故か大人しくなるから。


「根と根の中心にある魔石を残しときゃ、またココに生えるから覚えとこうな」


 あんまり実害が無い魔草だから、高値で売れるなら毎年採れた方が良いだろうよ。後の為に根は残しとくとする。


「なんかをライルを見てると自信をなくすよね」


「ん、またなんで?」


 アイシャにも卑怯だって言われてたよな……


「普通だったら傷だらけになって採取する魔物だよ」


 叫んでる最中に触れようとすると、噛み付いて来るんだよ。


「怪我しないで済むならその方がいいじゃん」


 俺もカルラも魔法鞄の中は既に野草や薬草、魔草や珍しいキノコなんかでパンパン。


「そりゃそうだけど……どうやって運ぶのコレ」


「唇を縛れば害は無いよ。手に持ってでいいんじゃね?」


 今日の仕事は2時で終わり、王都に居た頃よりずっと楽が出来る。日当的な所は王都に居た頃よりずっと良い、それもこれもカルラが容量のデカい重量軽減付きの魔法鞄を持ってたから。


 一度に運べる量が桁違いなんだ。





 カルラに必要な物をより分けて、ギルドで査定を終わらせて、毎日やってる宴会に参加せず宿に帰ったら、見慣れた魔法衛兵姿じゃなくて、近衛騎士隊の格好をしたハンセンとカルラの親父さんが話し込んでるとこだった。


「やっと帰って来た。休みが今日しか無いんだから、さっさと帰って来てくれよな」


「そうは言われても。連絡くらいしといてくれりゃ早く帰って来たさ」


 王都の魔法衛兵は近衛騎士隊所属。


 ハンセンのエリートの証なんだけど、それは一般人から見たらで、実際の所、ハンセンが近衛騎士で納得してるのかは、ちょっと疑問だったりする。


「やあハンス。なんか似合ってないねその格好」


「そう言うなよ。俺だって似合ってないのくらい分かってるさ」


 ハンセンは少し細身な近衛騎士の甲冑より、ゆったりした魔法衛兵の服装の方が似合ってる。どこか窮屈に見えるんだよな鎧だと。


「でもなんでサウスポートに? 門番の仕事はどうしたんだ?」


「妹の護衛だよ。探したい奴が居るとか言って各地をグルグルさ。お忍びとかホント迷惑。近衛を連れてたらお忍びも何もあったもんじゃないだろ」


 ハンセンの母親はカルラの親父さんの従妹で、ハンセンの父親は現王太子様。庶子だから継承権は無いけどハンセンは立派な王族の1人。

 在学中ダントツで座学が最下位でも退学に出来なかった理由の1つだったりする。


「妹と鉢合わせないようにダンジョン行こうぜ。久しぶりに海で泳ぎたいからさ」


 王都に居る間は周りの目を気にして丁寧な言葉使いだけどさ、知り合いに見つかる要素がなけりゃ少し口調が砕けて一人称が俺になるのもハンセンの特徴。


「妹って……お姫様?」


 そんな事を聞くなよカルラ。わかってるだろ……


「ああ、正妻の長女。俺より年下だけど俺よりずっと上の立場な。口答えなんかしたら、とんでもない僻地に左遷だぜ左遷」


 なんだかんだで苦労してんだろうな……


「水着と網を取ってくるね。地引網するでしょ?」


 カルラの質問にニコッと笑顔のハンセン。明るくて見通しの良い海ダンジョンならビビる事も無さそうだもんな。


「久しぶりに美味い魚が食えそうじゃん」


「エビが美味いぞ、エビが」




 サウスポート海ダンジョン。


 王都の学園ダンジョンと同じく、1階層は魔物なんかいないレジャー施設。綺麗な砂浜と青い海、海で獲れる新鮮な海の幸が有名なダンジョンだ。


 学生時代に研修で10日間泊まり込みで3階層まで攻略したダンジョンでもある。


「見てみろよライル。これすげーし」


「こっちは準備出来たよー」


 ハンセンはデカいナマコを捕まえて頭に乗せてる。


 カルラは地引網の準備。自分で作った魔道具を駆使してダンジョン入口にある受付で借りてきた網を100mくらい沖まで引っ張ってくれた。


 俺が何してるかって言うと、かまどを組んで火を起こしてるとこ。取れた魚を焼いてそのまま食う為に。


「ハンセン。網の準備出来たから上がってこいよー」


 準備万端と言えば良いんだろうか、ハンセンはクルトさんが着てるような全身隠れる黒いタイツを着てる。


 ちなみにカルラは全身紺色のタイツ……体のラインが浮き出てるけど、子供にしか見えない。


「それってフォレストフロッグの革パンだったのかよ、貰えるなんて羨ましいな」


 爺ちゃんに貰ったタイツとカルラに貰った靴を履いて、動き安い薄いシャツを着てる俺を見て、ハンセンまで羨ましがってた。



 魚を焼く準備も終わって3人で網を引っ張ったんだけど……


「なあ、これって3人で引けるものなのか?」


 少しずつ近付いてるとは思う、でも全然なんだ。


「カルラ、もっと力を込めろよ。なに可愛こぶってんだよ」


 なるほど、カルラが俺やハンセンに遠慮してフルパワーを出してないのかな……


「ハーフドワーフだからって馬鹿力な訳じゃないよ。これでも思いっ切り引っ張ってるんだから。ハンスこそ魔鎖を引く時くらい力を込めなよ」


 その後も3人でお互いを罵倒しながら網を引いたんだけど、半分くらいまで寄せた所で声を掛けられた。


「どれ。いっちょワシに貸してみろ」


 真っ黒に日焼けした巨躯。二の腕は俺の太ももより太いかもしれない。


「網を引くのはコツがあるんじゃ。腕の力も大事じゃが、足と背中が肝心じゃけェのゥ」


 はち切れんばかりの筋肉に力を込めて、着ているタイツが弾け飛びそうだ。


「どりゃせっ!どりゃせっ!」


 3人でどんなに引っ張っても少しずつしか寄ってこなかった網が、エビ獲りジョンさんが引くと……


「エビのおじさん、頑張れ!」


 グイッグイッって、ひと引き毎に網が近付いて来る。


「おんしらも引いてくれんかのゥ。さすがにワシ1人じゃしんどいけぇ」


 大慌てで手伝った。近付いて来ると、網の中に入ってる物がハッキリと見えてくる。


「ガハハハッ、素人じゃこんなもんじゃ。難しいじゃろ網漁は」


 15cmくらいの名前の分からない魚が数匹……後は石が沢山……


「大人しく貝でも掘るがええじゃろう。しかし、これじゃあんまりじゃけぇ少し分けちゃる」


 そう言ってエビ獲りジョンさんが腰に付けた魔法鞄から……


「ブラックライガーじゃ。淡水でも育つエビじゃが海水で育ったのは一味違うけぇ食べてみてくんさいや」


 頭から尻尾まで30cmくらいはありそうな大きな黒いエビ……それを10匹も……


「のお、エビ食い。ひよこの嬢ちゃんの事じゃがのぅ……ずっと暗い顔をしよったが、最近よう笑っとる。ワシらじゃ出来んかった事じゃ、その礼じゃと思ってくれ」


 カルラとハンセンが貰ったエビの背ワタを抜いて、串に刺して焼こうとしてる時に、こっそりエビ獲りジョンさんに言われた。


「もうすぐ声を大きくする魔道具の素材も集まりますし、カルラもどんどん変わって行くと思いますよ」


「そうけぇ、そりゃええ事じゃ。どんなに耳を澄ましてもうるさいギルドの酒場じゃ嬢ちゃんの声が聞き取れんで難儀しとったんじゃ」


 少し安心した表情になったエビ獲りジョンさん。


 去り際に……


「ここの4階層にキングロブスターが居るけぇ、腕に自信が付いたら挑戦してみんさい」


 そんな事を教えて貰った。とてもいい事を聞いた。


「おーい、ライル。もう焼けるぞ」


「エビは火が通りやすいから固くなっちゃうよー」


 今は先の事より、貰ったエビを堪能しよう。

 

 

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