3月3日

 母は雛人形を、ひな祭りの翌日にはすぐ片付けた。婚期を逃すとかなんとか。まあ結局婚期は逃したので、母の努力は虚しかった。申し訳ない。心からおもってないけど。

 いま私は母と二人暮らしだ。母は年老いて、わたしのことをまるで幼い娘のように扱う。だったら幼い娘に味噌汁作らすなよ、とは思う。死期の迫った母親が幼い娘に味噌汁の作り方を教える、みたいな話、実話でなかったっけ。

 何十年ぶりかに、わたしはひな壇を作り、雛人形を飾った。わりに立派なのだ。

「早く片付けなくちゃ、お嫁さんになるのが遅れてしまうわ」

 組み立てているあいだに、母は言った。

 せっかちなのだ。準備の段階で、片付けのことを心配している。

「素敵じゃない、いつまでもあっても」

 わたしは言った。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

「今日はなにー?」

「今日は桃の節句〜」


雛壇を飾る習慣は廃れ気味ですが、SNSで見かけると、ああ、と感動しますね。

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