第40話 予想外の再会

 温泉旅館で昼食を取った後、近くの観光地を軽く周り、太陽が傾き始めた頃に帰途につき始めた。


 今のところ、東名高速道路は渋滞の予想はない。

 けれど、また大和トンネル付近で渋滞に巻き込まれるだろう。

 そんなことを考えながら、琢磨はハンドルを握り、運転を続けていた。


 車内が静かなのでちらりと隣を見れば、岡田は温泉で癒されて満足したのかぐっすりと眠りについてしまっていた。

 バックミラーで後部座席を見ると、柿原も身体を傾けてスヤスヤと寝息を立てている。


 はぁ……急に誘っておいて、運転は任せて寝ちまうんだもんなぁ。

 これだから休日のドライブは、運転手ほど疲れるものはない。


 東名高速道路の渋滞を抜けて、無事に返却時間までにレンタカー屋へと到着した。

 車を無事に返却した時には、既に陽は沈み街は夜の街へと変貌を遂げていた。

 そのまま、流れで居酒屋へと向かうために歩き出す。


「いやぁー運転お疲れさん」

「マジで助かったわ」

「はいよ」


 琢磨は既に疲弊しきっていた。

 恐らく、このままどこかの居酒屋に行って飲みに行く流れなのだろうが、出来れば離脱してすぐにでも家のベッドにダイブしたい気分だった。


「この後どうする?」


 岡田が二人に向かって尋ねる。


「悪い、俺この後先輩と会う予定あるんだよ」

「あっ……そうなの?」

「今日しか休みないっていったら、予定ブッキングしちゃって……」

「ホント、ご愁傷様です」


 琢磨と岡田は視線を合わせる。

 二人で飲みに行ってもいいが、今は運転疲れで飲みに行く気分になれない。

 琢磨が軽く首を横に振ると、岡田も納得したように頷いた。


「それじゃ、今日は解散にしますか」

「おっけ」


 三人は、駅前の改札まで歩いていき、それぞれ別方向へと向かって行く。


「それじゃ琢磨、またな」

「運転お疲れさん」

「おう、柿原も仕事頑張れよ」

「おうよ!」

「それじゃ」


 別れの挨拶を交わして、改札に入っていく柿原と岡田を見送った後、琢磨も帰途へ着くため別の路線の改札へと向かう。


 改札口へと向かう連絡通路を歩いている途中、不意に奇異な視線を感じた。

 うすら寒い感じを受け取った琢磨は、ゆっくりと視線をそちらの方へと向ける。

 そこにいたのは、思いがけぬ人物だった。


 琢磨は呆然として立ち尽くして彼女を見つめてしまう。

 彼女も、こちらを物珍しい視線で見つめ返してきている。

 人混みの中で、二人の視線が交錯した。

 まるで琢磨と彼女の空間だけ、時が止まったような感覚だ。


 琢磨が大学時代。ダブルスクールで通っていた劇団の専門学校の同級生であり、元カノでもある本田沙也加ほんださやかは、突如として琢磨の目の前に現れた。

 数秒間の空白を経て、琢磨は我に返ったように軽く手を上げる。


「よ、よう……」

「久しぶり、杉本」


 彼女は無機質な声で挨拶を返してくる。

 琢磨と沙也加の間には数メートルほどの距離があった。

 ここで声をかけてしまったからには、何か話さなければという気持ちに駆り立てられる琢磨。


「誰かと待ち合わせ?」

「……まあ、そんな感じ」


 そう言って、スマートフォンに視線を落とす沙也加。

 そこで会話が途切れ、再び沈黙が流れる。

 正直、彼女と話す用件はもうない。

 琢磨はどうしようかと考えてから、その場を去ることにした。


「元気そうでよかった。そ、それじゃあな」


 琢磨が手を振ってその場を立ち去ろうとすると――


「ねぇ、杉本」


 沙也加に呼び止められ、琢磨は足を止めて振り返る。

 そのまま無視しても良かったのだけれど、なぜか身体が無意識に反応してしまった。


 沙也加は琢磨に軽く微笑みつつ、手招きする。


「ちょっとこれから時間ある? 連れが遅れそうで、少し暇つぶししたいんだけど」

「あ、あぁ……いいけど……」


 元カノとの再会は、琢磨の胸を異様にざわつかせる。

 もちろん、ドキドキではなく、不吉な予感のざわつきだった。

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