第7話 イヤホン

 それはとある放課後の帰り道だった。


「あ、お兄さん…」


 パチンと手を合わせ、上目遣いでこちらに目を向ける。


「この後少し寄り道してもいい?」


「寄り道? 構わないけど、どこに行くんだ?」


「えーっとね…この前イヤホン壊れちゃって、だから今日、買いに行こうかなって」


 そこまで言って、「あ、でも」と、手をパタパタと振った。


「お兄さんが、何か用事があるなら全然大丈夫だからね?」

 

「おう、分かった…けどな」


 柚葉の頭の上に手をポンと乗せ、微笑みかける。


「そんなに遠慮すんなって、幼馴染みだし、それに付き合ってるんだしさ」


 俺がそう言い切ると、柚葉の肩が小さく上下して、くすりと心地の良さそうに笑う。


 少し照れ臭そうにボソリと呟いた。


「ありがと…お兄さん」


 その頬がほんのりと赤くなって、前髪がサラリと揺れる。


 あぁ、かわいいな…と思いつつ、短く「おう」とだけ返した。


 そして、そっと頭から離した手を、柚葉の左手に触れる。


 サラリとした指が俺の手に優しく絡みついてきて、静かに心臓が加速を始める。


 そう言えば、自分から手を繋ぎに行くのって初めてだな…。


 柚葉の方へ目を向けると、耳まで真っ赤だった。


「それじゃ、イヤホン探しに行こうか」


「…うん」





「それで、どんな感じのがいいんだ?」


「あ、えーっとね…ワイヤレスだと無くしちゃうから、普通のがいいな…あと…」


「あと?」


 すると柚葉は顔を横に振って答えた。


「ううん、なんでもないよ!」


「そっか」


 …って言ってるけど、なんか顔が赤くなってるのが凄く気になる。


 あれからバスに乗って、近場の大型ショッピングモールへやってきた。


 天井からぶら下がる看板がゆらゆらと揺れている。


「普通の…てか、柚葉の機種ってiPhone?」


「うん、


 タピオカ、その単語に一瞬はてなが浮かぶも、なんとなく理解する。


 そう言えば、iPhone11Proの三つのレンズをもじってタピオカって呼ぶの、なんか聞いたことあるな。


 なるほど、柚葉も今時のJKってやつなのか…。


 ナウいな(死語)


「…お兄さん?」


「あ、わりぃ、それで普通のがいいんだっけ? それならiPhoneの純正のやつがいいと思うよ、まぁ、ちょっと値は張るけど」


「んー、お兄さんがそう言うならそれにしようかな」


 イヤホンの写真が貼られたカードを持つとレジに向かっていく。


 ここの店は、盗難防止用に商品のカードを提出して、それをレジの後ろから出すと言う仕組みらしい。


 レジで支払いをしている柚葉から目を離して、ふと壁の方へ目を向ける。


 とあるポスターが目に入った。


「…そっか、もうそんな季節なんだ」


「おにーさーん!」


「おう、お帰り、ほか寄って行くところあるか?」


「ううん、もう大丈夫! さ、帰ろ!」


「あぁ、帰るか」


 嬉しそうにはしゃぐ柚葉。


 はて、イヤホン一つでこんなにも幸せになれる人がいるのだろうか。


 まぁ、何にせよ、かわいい。




 その帰り道のバス。


 さっそく箱からイヤホンを取り出すと、音楽を聴き始めた。


 白いワイヤーがスマホと耳を繋いでいる。


 そう言えば、柚葉ってどう言う曲聴くんだろうな…。


「ねぇ、お兄さん」


「ん?」


「一緒に聴こう?」


 そう言って柚葉の右耳から外し、それを、俺に向けてきた。


「え、いいのか?」


「…うん」


 そっと受け取ると柚葉からイヤホンを受け取る。


 耳にはめると、優しい暖かさを感じた。


「…ごめん、お兄さん」


「え?」


 すると、柚葉は肩を密着させて、体重をこちらに預けてきた。


 微かに香るシャンプーの香りにどきりとして、思わず柚葉の方へ顔を向ける。


 そして、顔を赤くした柚葉は視線をそらしてこう言った。


「…思った以上に短くて…こうしないと届かないから…」


 その瞬間、高いビルを抜けて窓から夕日が差し込む。


 柚葉の綺麗な肌、綺麗な髪の毛、一ノ瀬柚葉を柔らかいオレンジ色に染めた。


 その時、何の曲を聴いていたのかはよく覚えていない。


 ただひたすら暖かくて、幸せで、心臓の鼓動するスピードがだいぶ早かった。


 でも、ふとそのとき思い浮かべたのは、いわゆる『運命の赤い糸』だった。


 小指と小指を結ぶ赤い糸。


 そして…。


 俺たちを繋ぐ白いイヤホン。


 もしかしたら、これが柚葉的の赤い糸ってやつなのかもしれないな…ってぼんやりと考えるのであった。


 



 いつもありがとうございます。最近雨ばかりなので、お体にお気をつけてお越しください。 


 コメント、レビュー、お待ちしております…それではまた次回お会いしましょう。


               あげもち

 



 


 

 


 

 


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