05.04.プールが怖い

 夏だ。プールだ。得利稼えりかに注意!

 ということで、今日の体育は水泳だ。


 「姫ちゃ〜ん。早く着替えようよ〜」


 「わかったから少し離れててくれるかなぁ」


 「ええー、いいじゃん、いいじゃん、女の子同士なんだからさあ」


 さっきからこれの繰り返し。全然着替えられない。女の子同士じゃなくて男同士だから、多分だけど。裸でくっつかれたくないから。

 それに、得利稼えりかが見てると思うと、ぱぱーっと全部脱いで水着を着る、なんて事出来ないよ。

 他の女子達も多分そうなんだろうな。得利稼えりかに限らず、ここには元男子が居るんだから。僕も含めてだけど。だから、皆んなタオルで隠したり、最初から下に来てきてたりと得利稼えりか対策に余念がない。


 更衣室を分けてくれればいいのに……、と思ったけど、それだと元の性別がバレちゃうからダメなのか。それに、どの道得利稼えりかとは一緒になるんだろうから。


 「得利稼えりかさん、いい加減にしないと遅刻しますわよ?」


 「水無みな、いつの間に……。水無みなのおっぱい見れなかったよ〜」


 そんなあからさまに欲求ぶちまけられてもさ……


 「こっちで少し大人しくしてなさい」


 「えっ、嫌、痛いって、まじで、いたたたたた」


 「さ、とおるさんは今のうちに」


 「ありがとう、水無みな


 急いで得利稼えりかの死角になる場所へと移動し、念の為タオルで隠して水着に着替える。


 「ちょっと、姫ちゃーん、酷いよ〜」


 酷いのは得利稼えりかだってば。

 火無ひのないもウザ男も流石に女子更衣室までは入ってこない。もちろん、水無みなに付き纏ってた水野みずのもね。

 得利稼えりかは普段変なことして来ない代わりに、女子更衣室だと本当に怖い。武神たけがみさんも居ないから、水無みなだけが頼りだよ。


 体育は男女別れてるわけでも無い。分けた所で、女子の半分は元々男子なんだから分ける意味もないってことなのかな。でも、別れてないということは……


 「おお、女神よ」


 当然火無ひのないも居るわけで、厭らしい視線に晒されることになる。

 武神たけがみさんはいつも居ないから、急いで凜愛姫りあらの後ろに隠れる。


 「ごめん、伊織いおり


 だって、水無みなを盾にするわけにはいかないし、得利稼えりかだと逆に襲われそうだもん。


 「気にしなくていいよ、とおる


 それに、凜愛姫りあらが近くにいると安心できる。このネックレスのお陰かな……

 凜愛姫りあらに着けてもらってから一度も外してないんだよ。今も水着の下にね。会長の首輪なんて勿論外してるし、武神たけがみさんのも凜愛姫りあらのに絡まるから嫌なんだ。


 「そこをどけ、伊織いおり。いい加減気付いたらどうなんだ? 姫神ひめがみは望んでないんだよ、禁断の愛など」


 「お前が気付け、大嫌いだって言ってるだろ」


 「まあ、そう照れるな」


 「照れてない」


 こいつには何を言っても無駄なんだ。武神たけがみさんに打ちのめされようと、僕に罵られようと、懲りずにこうやって迫ってくる。でも、もう一人心強い味方が居る。


    バシッ


 「くっ、またお前か、このスタンガン女め」


 「伊織いおり……くんが困ってる。引かないなら考えがあるけど」


 「考えだと? 放電したばかりだろう。連発出来ないくせに大きな口――」


    ザッバーン


 「こら、正清まさきよ、誰が入っていいって言ったー」


 霊雷れいらちゃんに掴みかかろうとした火無ひのないが一回転してプールに落ちていった。


 「別に静電気だけじゃないから」


 「ありがとう、鹿島かしまさん」


 「いえ、私は……別に」


 たぶん伊織いおりの事気になってるんだろうな。凜愛姫りあらじゃなくて伊織いおりがね。見てるとなんか可愛い。


 「姫……ちゃんは私の近くに居て。守るから」


 「うん、ありがとう、霊雷れいらちゃん」

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