05.03.七夕の夜に

 今日と明日は両親の会社の社員旅行。明日はいつものようにディズニーリゾート。そしてとおるの誕生日で、七夕だ。今回もとおると二人きりがいいので、ランドにしてる。

 七夕デイズの最終日という事で、とおるは浴衣で行きたいんだって。気合いれて下駄まで用意しちゃってさ。もう完全に女の子になっちゃってるんだけど、いいのかな、それで。


 「ねえ凜愛姫りあら、明日の朝なんだけど……」


 「着付けでしょ? やってあげるね」


 「ありがとう」


 でもいいのかなあ。とおるは女の子で私は……

 私も女の子だったのに。何でドキドキするんだろう。


 翌朝、想像してたのよりもっともっとドキドキしながらとおるの着替えを手伝う。


 「ちょっと、とおる


 「不慮の事故を装って抱きついてみたり?」


 「もう」


 「ごめん、怒らないでよ。凜愛姫りあら、いい香りがするんだもん」


 怒ってないけど……、ドキドキしてるの気づかれちゃうじゃない。それに、とおるだって桃みたいな甘い香りがして……、ああ、もう、早く着替えて出かけないと。変な気分になってきちゃう。


    ◇◇◇


 「そんなに大股で歩いたら肌蹴ちゃうよ」


 「あっ、うん。そうだね」


 「とおるって制服でも大股で歩いてるよね。それに歩くの早いし」


 「うーん、なんかね。のんびり歩いてると疲れちゃうんだよね」


 「でも、今日は仕方ないかな。その格好じゃアトラクションも限られちゃうから、急いでもね」


 「そっか、ごめんね、凜愛姫りあら


 「いいよ、別に。可愛いとおるちゃんと歩いてるだけでも楽しいし♪」


 「もうー」


 だって、本当のことだもん。


 結局、何度注意しても大股で歩こうとするし、座る時も背もたれにもたれ掛かっちゃうしで、あっという間に着崩れしてしまった。


 「凜愛姫りあらー」


 「だから言ったでしょ? 仕方ないなー」


 とは言え、こんなだらしない格好で、しかも、下着も見えかけちゃってるから直してあげないと。


 「でも、一緒にトイレに行くわけにも行かないし……」


 「脱ぐわけじゃないから此処でいいよ」


 「いや、でも人に見られてると恥ずかしいし」


 「いいから」


 「うん……」


 大丈夫。私も女の子……だったんだから。


 「いやん」


 「ごめんっ」


 「凜愛姫りあらが赤くなった」


 「とおるが変な声だすから」


 「だって、凜愛姫りあらがおっぱい触るんだもん」


 「うぐっ、じゃあ自分で――」


 「なーんてねっ。凜愛姫りあらにだったら触られても大丈夫かな」


 「……もう、じっとしてて」


 「はーい」


 ダメだ。今日は凄くドキドキする。プレゼント渡さなきゃって思ってるからかな。


 「あっ、トイレ行きたい。どうすればいい?」


 はぁ。とおるったら人の気も知らないで。でも、まあとおるらしいかな。洗濯バサミを渡して、注意しなきゃいけないことを教えてあげる。


    ◇◇◇


 とおるとの時間はあっという間に過ぎていき、間もなく花火が上がる時間だ。これが終われば後は帰るだけか。


 「あのね、とおる。今日、誕生日でしょ?」


 「うん。とーっても楽しかったよ。ありがと、凜愛姫りあら


 「私も」


 花火が上がり始める。ここで渡さないと、あとは帰りの電車でって事に。最悪このまま渡せないかも。


 「これ、誕生日プレゼント。気に入ってもらえるといいんだけど」


 「なになに、開けてもいい?」


 「うん。でも大したものじゃないから」


 「凜愛姫りあらに貰ったものなら例え犬の糞でも宝物だよー」


 「いや、そんな物あげないしっ」


 「冗談だってば」


 丁寧に包み紙を開けていくとおる。こういうところも好きだなあー。


 「ネックレスだー、あっ、青いダイヤ……」


 「どうかな」


 「うん、ありがと。幸せになるね」


 とおるも覚えてたみたいだけど、その先は言ってなかったもんね、あの時は。


 『パートナーとの愛情を深め、永遠に変わらない愛を約束……』


 店員さんに言われた言葉を思い出したら顔が熱くなってきちゃった。


 「ねえ、着けて」


 「う、うん」


 なんか緊張するなあ。それに、今日は髪を上げてるから……。とおるの首って、細いんだな。


 「あっ、やっと見つけた。得利稼えりかも浴衣にすれば良かったな~、うんうん、すっごくいいねっ、姫ちゃん」


 「得利稼えりか、それに武神たけがみ水無みなまで。どうしたの?」


 「あら、私も居るのだけれど」


 「あっ、いや、見えてますよ、勿論」


 何故か大金おおがねさん、武神たけがみさん、水無みなさん、それに天照あまてらす会長とばったり出会ってしまった。

 会社が貸し切ってるわけじゃないんだけどさ……


 「別に示し合わせていたわけじゃないのだけれど、偶々会ってしまってね」


 「得利稼えりか達は三人でね。今日は姫ちゃんの誕生日だから」


 そのために態々……


 「とおるさん、そのネックレスは……」


 「ああ、これ? これは……伊織いおりが……」


 「そう……なんだ」


 あのお店で見たんだろうな、武神たけがみさんも。ちょっと気まずいな……


 「私からはこれよ」


 「えっ、これは……」


 「誕生日プレゼントよ。開けてみて」


 「ありがとう……ございますって、首輪?」


 首輪っていっても犬とかのじゃなくて、レザーのチョーカーなんだけど、パンクというか……、ハートの鍵がついてるんだけど……


 「ええ、そろそろ私のモノになる気になったんじゃないかしら?」


 「なってませんから」


 「そう、残念ね。ちなみに、私の誕生日は6月9日よ。来年は期待してもいいのかしらね」


 「えっと、何の期待?」


 「さあ?」


 どこまで本気なんだろう、会長。


 「ジャジャ~ン、得利稼えりかからはコレ」


 「う、うん、ありがと」


 「うんうん、次の体育が楽しみだねっ!」


 「いや、大事にしまっとくね」


 「え~、着けてきてよ~」


 大金おおがねさんからは際どい下着。紐みたいで……、スケスケで……

 態々包を破って渡したから、とおるは慌てて浴衣の中にしまってた。


 「私からはこれを。また一緒に入りましょうね」


 何か大きい。また一緒にって、お風呂グッズなのかな。


 「ぼくはこれを……。かぶってしまったみたいだけど……」


 武神たけがみさんはネックレスか……


 「とおる、私の外して武神たけがみさんに着けてもらえば。私のは只の……、姉への贈り物なんだから」


 でも、ヘッドを抑えて後ずさるとおる……


 「別に両方つければいいんだけじゃないかしら? 私の首輪も」


 「あっ、そうだね。ありがとう、武神たけがみさん」


 それじゃ微妙な表情になるよね、武神たけがみさん。ごめんね、何か私……


 「貸しなさい」


 「えっ、ちょっと会長」


 会長にチョーカーを着けられ、武神たけがみさんのネックレスも着けられた。


 「いや、これは無理だから」


 「ええぇぇぇ、酷いぃぃぃぃ」


 流石に無理だよ、大金おおがねさん。





[あとがき]

 透の誕生日を記念して挿絵をつけてみることにしました。とはいっても、自分で描けるわけでもないのでAIに頼ることにします。

 StyleGANをご存知でしょうか。1024x1024という高画質で実在しない人物の顔写真を生成するAIなんですが、関連研究に画像から潜在変数を推定するというものがあります。これを利用して、生成したい顔のイメージに近い人物2名の画像から2つの潜在変数を推定し、その中間値付近を用いて画像を生成させればいい感じになるんじゃないかなと。他にも、年齢や性別といった属性を変更する研究なども行われており、これらも利用しています。

 髪の色とか細かいところは想定と異なりますが、加工する技術も時間もないのでStyleGANが生成した画像を縮小しただけではありますが、いかがでしょうか。


画像はこちら↓

https://32233.mitemin.net/i502404/

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