02.10.どいつもこいつも
『困ったことがあったら相談に乗ってあげるから、いつでもここに来るといいわ』
そう言って貰えるだけで気持ちが楽になる。いつでも逃げ込める所があるんだって……
でも、今日から始まる3日間、ブートキャンプの3日間にはそれが無い。当然だけど、2年の会長は同行しないから。
最初からそんな場所が有るなんて知らなければ平気だったかもしれないけど、知ってしまったから……
「タイミング悪過ぎだよ、会長……」
今頃になって眠くなってきた。昨日は全然眠れなかったのに。もう、このまま寝ちゃおうかな。ブートキャンプなんて……
ダン ダン ダン ダン
睡魔の誘惑を邪魔するかのように階段を踏み鳴らす足音。これは
コン コン
逃げるなって事か、3日間。でも、そうだよね。休んだら
コン コン コン
更にノックは続く。解ったよ。行くよ。行けばいいんだろ。だから、もう少しだけ……、ギリギリまで一人にしといてよ。
「
「話しかけないでっ」
なのに、ドアが開けられた。何故か僕もドアの前に立っていて、そのままドアを閉めた。思いっきり。
あれっ、何で……
何で僕はこんな所に……
彼は
『一緒に』
……何て言おうとしてたんだろう。
嬉しい、のかな。
涙が頬を伝って床へと落ちる。引っ越してきてから始めて、最後に話してから4ヶ月近くかな。やっと話し掛けてくれた。うん、嬉しいんだ、僕。
だから、今まで通りでいいんだ。
僕には
着替えてそのまま無言で家を出ることにした。
◇◇◇
校門の外には目的地へと向かうバスも到着していて、既に数人の生徒が楽しそうに話していた。僕の居場所なんてあるわけもないから、少し離れた所から様子を伺う。
聞こえてくるのは、バスの座席についてかな。あと、『うんち姫』ってのも。
待機しているバスは2台。1組から4組まで合計100人に其々の担任と副担任、それに校長を入れた109人がそこに乗り込むわけだから、補助席まで使って詰め込むだけ詰め込む感じになる。横1列に班のメンバーが並ぶ形にね。
そう、問題となるのは僕が何処に座るか、だね。
当然隣にはなりたくないんだろうし、前の班だって、僕が後ろに居る席は避けたいに決まってる。可哀想なのは後ろの班かな。2組の人たちだから、情報源も限られる。だから、ああやって情報交換してるんだろうけど。でも残念。僕の席はまだ決まってないんだ。誰が隣に座るかで揉めてる最中。多分、端っこなんだろうな。だって、二人も犠牲者出したくないよね。
僕の班は最後列の5人。これも成績順だし、誰ろだろうと僕の扱いは変わりないからどうでもいいことだ。
そして、いよいよ出発直前。予想通り僕の席は窓側に決まった。ちなみに、隣は例の教科書事件の
◇◇◇
寝ていたせいか、目的地にはあっという間に着いた気がする。途中、サービスエリアで休憩取ったみたいなんだけど、知らずに寝てた。当然、誰も起こしてくれなかったしさ。
しかし、ここってじいちゃんちみたいなド田舎だな。周りに自然しかない。
じいちゃんちか……、あっちに戻りたいな……。戻ろうかな……
到着したら、直ぐに昼食。班ごとに席が決まってるんだけど、僕だけあっちの隅っことかじゃダメかなぁ。
「ねえ、何か臭わない?」
「うん。臭うよね」
だって、みんな嫌そうにしてるもん。
午後の活動は……、ぼんやりしてたから何したのかも覚えてないな。何もしてないのかも。只ぼーっと見てただけかな。皆んな僕から距離を取ってるし、たまに近づいて来る男子が居ると思ったら夜のお誘いだったし。“うんち姫” とヤりたい変わり者もいるんだね。臭い移っちゃうのに。
夕飯は……、よりによってカレーだよ。
料理は嫌いじゃないんだけど、僕は近づかない方がいいかな。お腹も減ってないし。
「
“うんち姫” は調理場に居ないほうがいいかと思って、少し離れた木の下で夕日を見てたんだけどさ。意外と一人になれるんだなーって。だから、邪魔しないでほしい。担任だからって。
「別に、何も」
「変な噂が流れて大変だろ。“うんち姫”だったか」
「まあ」
お陰で男子も前ほど寄ってこなくなったけど。
「それでだ、お前の力になりたい」
力に? 今更?
「もし良かったら俺とどうだ、今夜」
「どうだ?」
「惚けるなよ、募集してるんだろ、相手を。それに色々と問題抱えてるみたいだから担任を味方に着けといたほうが得策なんじゃないのか? 一石二鳥だろ。夜の相手と高校生活の安泰を手に入れられるんだから」
……そうか。そういう意味でか。
「消えろ、カス」
「何っ!」
数学のセクハラ教師といい、こいつといい、何でこういうことするかな。
『もし良かったら俺とどうだ、今夜』
『どうだ?』
『惚けるなよ、募集してるんだろ、相手を。それに――』
「おい、何してる……」
会長のアドバイス通り、会話は録音するようにしてる。だから、それを再生して聞かせてあげた。
「録音してたのか」
そして、アドバイス通り、会長に送信済み。
「ちっ、……幾らだ、幾ら欲しい」
あー、鬱陶しい。
「お前、こんなことして只で済むと――」
「記録して信頼できる人に送っただけ。何も求めてないし、そのつもりもない。何か問題? 立場を利用して関係迫ってきたのは誰なの?」
「くっ」
ほんと馬鹿だ。どいつもこいつも。
会長は……、信頼していいんだよね……
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